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 戦略研究会

 エネルギー兵器開発と我が国の国防政策に関する一考察

(コラム121 2018/09/13)

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“Game Changer”
   2018年6月、米国防総省統合エネルギー推進部長Lawrence Grimes氏は、ロシアや中国などの強力なライバルの台頭を念頭に、「エネルギー兵器分野における同盟国との国際的な研究開発協力の推進が、今後より一層重要になるだろう」と述べた。同氏は、連携協力先としてドイツ・英国・カナダ・オランダ・オーストラリアのほか、NATOの名前も挙げている。この協力には、特にレーザーなどのエネルギー兵器システムの共同開発のみならず、同種兵器を用いる場合の戦域管理体制に関する研究など、多国間での協力を必要とする作業も含まれており1、米国が、将来の脅威変化に対応すべく、同盟国との協力の下、同種兵器の実用化に向けて具体的な準備を進めようとしていることがわかる。このことは、これに先立つ本年4月、同省首席研究開発担当官であり工学博士のMike Griffin氏が「トランプ政権の安全保障政策においては、現在の研究開発段階にあるエネルギー兵器を、早急に配備段階へとシフトさせることに重点を置く」と述べた2ことと符合する。
   従来型兵器とは一線を画し、Game Changerとして期待されるエネルギー兵器開発の現状と、我が国の防衛政策との関わりなどについて考察してみたい。

エネルギー兵器とは
   一部の読者には釈迦に説法・孔子に悟道の非をご容赦いただき、エネルギー兵器とはどのようなものなのかを、ここで概観してみる。
   ここでいうエネルギーとは、一般に「○○波」と表現することのできるもの:音波/超音波、光波、電波/電磁波などを指す。これらのエネルギー体を兵器として用い、目標に対し物理的影響を及ぼすことを目的としたものがエネルギー兵器である。
   したがって、その起源は全く新しいものではない。すなわち、古代の戦場でその心理的な威圧効果に気付いた戦士や武士が、自らの怒声をもって行った“雄叫び”や“哮(たけ)り”は、元祖LRAD3とも呼べる原始的な音波エネルギー兵器であったし、また、第2次ポエニ戦争におけるシュラクサイ包囲戦(シラクサの戦い、とも)でアルキメデスが考案し実用化した“燃える鏡”は、岸壁に配置した多数の巨大な鏡で太陽光線を一束に集め、これを沖合のローマ艦艇目がけて焦点照射し焼き払った戦功を誇る、れっきとした光波エネルギー兵器であった。現代のエネルギー兵器は、これに最新科学技術を用いることで、兵器として多くの優れた特性が備わり、実用化されれば極めて優位な兵器システムになるとされる。
   すなわち、ミサイルや弾頭が目標を破壊する従来型兵器との比較においてエネルギー兵器は、
    -飛翔時間がなく瞬時に目標に到達する即効性
    -誘導の必要がなく、指向イコール命中となる精確性(ただし精緻な照準には距離・重力・大気
   成分等を加味した各種の補正を必要とする)
   -エネルギー生成源である電力等の供給が滞らなければほぼ無限回数攻撃が可能な連続性
   -実弾消耗による補給のようなロジスティクスをほぼ考慮しなくてよい自立性
   -1発数億円の従来ミサイルに比して圧倒的に破格の単価あたりの経済性(後述する米輸送
   揚陸艦Ponce搭載30kwレーザーの1回照射コストは約100円)
   -出力が調整可能=兵器効果を可変制御できることから、小は一過性の微弱な超音波やマイ
   クロ波を人体に生理的に作用させ一時的に戦闘員の継戦能力を奪うようなものから、中は
   電磁波で電子機器回路を麻痺・損壊等させビークルやセンサー、誘導武器等の無能力化を
   狙うもの、大は高出力レーザーにより目標物を直接破壊・撃破するものまで、防勢的~攻勢的
   /局地的~全域的/戦術的~戦略的…とシームレスな運用が可能な柔軟性
等々、従来型兵器とは別次元の数々の優位性を有するのである。

エネルギー兵器開発のいま
   この分野の研究開発においても先行している米国のレーザー兵器を例にとれば、米海軍は2014年より出力30kw級のレーザー兵器システムを輸送揚陸艦LPD-15 Ponceに搭載し、実射試験において移動中の水上/空中の小目標への命中及びその一部の破壊に成功している4。出力30kwというのはおおよそ一般家庭10戸分を賄えるくらいの電力であるが、レーザー兵器出力としては小目標または目標の一部への破壊力にとどまる。それ以上となると、例えばマストや砲塔など艦艇構造物の破壊には約300kw、弾道ミサイルの破壊には500kw以上が必要とされる。ONR(Office of Naval Research:米海軍研究所)によれば、現在米海軍ではSSL-TM(Solid-State Laser Technology Maturation:固体レーザー技術成熟)計画の一環として、アーレイバーク級DDGに150kw級のレーザーシステムを搭載した洋上試験を、2019年以降に行う予定である5。米陸軍でも、2017年、Stryker型装甲車に搭載したモジュール型高出力レーザー「MEHEL (Mobile Expeditionary High Energy Laser) 2.0」が小型UAVの破壊実験に成功し、こちらは主として施設警備の対ドローン防空用として、2020年の実用化に向け試験が続けられている6
   電磁パルスを用いる電磁エネルギー兵器の用法は、概念としてはEWにおけるEA7と同じで、電子機器/電子システム/センサー・ネットワーク等に対する電磁的な破壊や無能力化を企図するものである。このようなEMP(Electronic Magnetic Pulse=電磁パルス)による攻撃は、一般に核爆発の副産物として発生するHEMP(高高度電磁パルス)によるものが知られているが、核爆発は必然的に放射能汚染・熱線・爆風による広大かつ長期間に及ぶ甚大な人的/物的損害を伴う。このため、核爆発を利用せず、かつnon-kineticなEMP攻撃として、米空軍ではHPM(高出力マイクロ波)を発生させるHPM巡航ミサイルの開発が進んでいる8。同ミサイルは、高性能炸薬と化学反応を組み合わせることなどによって極めて強力な爆発を得て強磁界を作り、その中に強磁性体を通す等の原理により、瞬間的にHPMを発生させて、範囲内のすべての電子機器に対し一瞬で不可逆的な被害を与える。しかし、範囲内に存在する人体へは影響を及ぼさない。影響範囲はHPM出力・目標までの距離及び電磁パルス拡散によって制御可能である。
   先のGriffin氏の言葉を借りれば、米国は着実にエネルギー兵器をその研究段階から配備段階へとシフトさせるべく、日々研究を積み重ねていることがわかる。

我が国の国防政策におけるエネルギー兵器の意義
   このように従来型兵器とは異なる多くの特質を有し、将来のGame Changerと目されるエネルギー兵器であるが、翻って我が国の防衛政策上では、その意義はどのように認識されているのだろうか。
   「平成28年度中長期技術見積り」によれば、我が国が脅威に対する技術的優越を確保するために確立すべき、特にゲームチェンジャーとなり得る先進的技術分野の一つに“高出力エネルギー技術への取組み”が掲げられている9。これと併せ、中期防に示されている防空能力向上等の観点から、高出力指向性マイクロ波やEMP弾、電磁加速システムに関する技術研究が行われている10
   また本年5月、自由民主党政務調査会の『新たな防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画の策定に向けた提言~「多次元横断(クロス・ドメイン)防衛構想」の実現に向けて~』の中で、エネルギー兵器は“技術的優越の確保及び研究開発の推進にあたり重点的に資源配分すべき研究分野”と述べられている。また、研究開発の推進にあたっては“米国等の同盟国・友好国との技術協力・共同研究開発”の重要性が強調されている11
   なぜこのようにエネルギー兵器への期待が一様に高いのか。それはこれまで述べてきた、従来型兵器とは別次元の数々の優位的特性に基づくものであると言えるのではないか。
   拙見ながら、筆者は今を去る約20年前の初任幹部の頃より“兵器無力化兵器”(従来型兵器やそのプラットフォームの機能を無力化する兵器)なるものがあったら… と夢のような妄想を抱いていた。人を殺傷することなく、ミサイルや戦車などの武器としての機能だけを止める、兵器無力化兵器。科学技術の進歩が目覚ましい今日、エネルギー兵器の数々の優位性を用いれば、それはもはや夢ではない。
   例えば、
   ・飽和攻撃を企図して大挙飛来する誘導ミサイル群やSwarm攻撃を狙って押し寄せるドローン群
  の中に強力なHPMミサイルを必要数撃ち込み、それらの電子機器に不可逆的な障害を与えれ
  ば、一瞬でそれらの運動エネルギーをゼロにし無力化することができる。
   ・侵攻してくる艦隊や海上民兵船団に対し、その至近上空でHPMミサイルを用いれば、敵の人的
  損害を生じることなくビークルだけをただの鉄の箱と化すことができる。
   ・敵司令部の建造物を突き止めることができたなら、建物内に軍人・民間人・老若男女がどれだけ
  混在していようと、彼らに一切の危害を加えることなく、建物内のすべてのコンピューター・指揮
  通信システム・電子機器だけを瞬時に破壊することができる。
   ・北朝鮮から弾道ミサイルの発射が確認され、万が一ミッドコースでイージスシステムが迎撃に失
  敗し、さらにターミナル段階においてマッハ20を超えて飛来する弾道ミサイルを万が一PAC-3が
  迎撃に失敗したとしても、光速で届くメガワット級高出力レーザーが、捕捉・照準と同時に破壊す
  ることができる。
   このように、多彩なエネルギー兵器を縦深的に配備することで、脅威を領域の十分遠方で無力化し続けられる。EMP兵器の有するゼロ・カジュアリティ(ハードとしての兵器のみを無力化できること)、出力可変レーザーの有する秀でた即効性・経済性など、従来型兵器のみしか選択肢がない現状の各種戦場面における多くのハードルやジレンマを、エネルギー兵器は打破できる可能性がある。宇宙やサイバーへと拡大した将来の戦闘ドメインにおいても、敵兵器のみを効果的に無力化できる有効な防衛力となり得るのではないだろうか。

おわりに -希望的展望-
   将来の戦闘様相の多様化・複雑化・不透明化にかんがみれば、エネルギー兵器は実現すれば我が国にとっても夢の装備である。それだけに当然期待も高いわけであるが、技術的には大出力化(パワーソースの確保)・小型化・制御技術等々、まだまだ多くのブレイクスルー、開発試験、大規模な実証実験等を必要とする。厳しい財政状況が続く中、将来戦を見据え我が国の防衛のニーズに合った陸海空防衛力整備を技術的に可能とし、我が国がこの分野で技術的優越を確保するためには、冒頭Grimes氏の言にあるように、同盟国・友好国間における技術協力・共同開発を強力に推進していくことが求められるだろう。それが結実した暁には、夢の“兵器無力化兵器”の登場を期待したい。

(幹部学校未来戦研究所 遠藤 友厚)

(本コラムに示す見解は、海上自衛隊幹部学校における研究の一環として執筆者個人が発表したものであり、防衛省・海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 [ AIR FORCE MAGAZINE :“B-21 to Reach Major Milestone this year ; Mattis Arrives in China ; F-22 Pilots More Experienced Than Ever Before”] <http://www.airforcemag.com/DRArchive/Pages/2018/ June%202018/June%2026%202018/B-21-to-Reach-Major-Milestone-this-year-Mattis-Arrives-in-China- F-22-Pilots-More-Experienced-Than-Ever-Before.aspx> 2018年7月28日アクセス。
2 [ AIP :“New DOD R&D Chief Outlines Vision for Jumpstarting Military Innovation”] <https://www.aip. org/fyi/2018/new-dod-rd-chief-outlines-vision-jumpstarting-military-innovation> 2018年8月25日アクセス。
3LRAD=Long Range Acoustic Device(“エルラド”=長距離音響発生装置)
4 [ YouTube :“Laser Weapons System(LawS) demonstration aboard USS Ponce”] <https://m.youtube.com/ watch?v=sbjXXRfwrHg> 2018年8月17日アクセス。
5 [ AFCEA :“Warships Set to Make Waves With Powerful Lasers”] <https://www.afcea.org/content/ warships-set-make-waves-powerful-lasers> 2018年8月17日アクセス。
6 [DEFENSE WORLD.net :“US Army Demos Laser Weapon On Stryker Armored Vehicle”] <http://www.defenseworld.net/news/18766/US_Army_Demos_Laser_Weapon_On_Stryker_Armored_ Vehicle>2018年8月23日アクセス。
7 EW=Electronic Warfare(電子戦)EA=Electronic Attack(電子攻撃)
8 [ MIL-Embedded :“Raytheon EMP weapon tested by Boeing, USAF Research Lab”] <http://mil- embedded.com/news/raytheon-emp-missile-tested-by-boeing-usaf-research-lab/> 2018年8月21日アクセス。
9 平成29年版防衛白書 P.432 なお、この他に「無人化への取組み」「スマート化、ネットワーク化への取組み」「現有装備の機能・性能向上への取組み」の計4つが、今後の研究開発において重視すべき技術研究分野とされている。
10 平成29年版防衛白書 P.433
11 [自民党 Lib Demsニュース:“新たな防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画の策定に向けた提言~「多次元横断(クロス・ドメイン)防衛構想」の実現に向けて”] <https://www.jimin.jp/news/policy/137478. html> 2018年7月31日アクセス。