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 戦略研究会

 「中国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告2018」   
-米国防省の議会への報告書を読み解くー

(コラム119 2018/08/28)

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   今年も、米国防省の議会への報告書「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」8月17日に公表された1。全145頁にのぼる詳細なもので、昨年の同報告書よりも約40ページ増えている。

   その増加分の多くは、目次比較で一目瞭然となる。特記事項(SPECIAL TOPIC)と銘打たれた、「中国の世界的な影響力拡大」、「中国の北朝鮮政策」、「人民解放軍の統合化」、「外洋進出する爆撃機の活動」、「習近平のイノベーションによる開発戦略」の5項目の特記項目であろう2

   今回のコラムはこれらトピックスを中心に、米国防省が特記してまで懸念材料としているこれら5項目について述べる。
   まず、第一の世界的な影響力拡大についてである。これは「一帯一路構想」をさらに発展させたイニシアティブ(Belt and Road Initiative:BRI)に基づく海外展開、影響力の拡大である。その具体例としてジブチにおける基地建設、運用開始を例として、人民解放軍は今後も世界における影響力拡大の為、海外における基地建設を進める事を懸念材料として論述している3
   2番目の北朝鮮政策である。これは昨年繰り返された北朝鮮による核・ミサイル開発、実験に関連して、中国がどの程度の影響力を北朝鮮に対して持っているか、行使しているか、という問題である。中国の対朝鮮半島政策の目標を「安定化、非核化、米軍の中国国境への接近阻止」とし、中国としての優先目標は、北朝鮮の体制崩壊及び半島における武力衝突も生起させない事を包含した朝鮮半島の安定化であると分析している。そのため、2017年に中国は対話と圧力の両面で北朝鮮に働きかけを実施し、北朝鮮の行動変化に寄与したとしている。その中でも中国は人民解放軍の介入も示唆しながら、徐々に圧力を高めたと評価している4
   3番目の項目、人民解放軍の統合化である。これは2015年から続く、習主席主導による軍改革に対する警鐘である。湾岸戦争の教訓、過去の国境紛争等の経験から軍統合の必要性が認識され、1990年代から徐々に進められた軍改革への動きである。これが、ここ数年で急速に進化し、これが完成すれば統合作戦が実行できるようになり、戦闘効率が強化されるとみている。歴史的に陸軍中心で、強固な官僚組織であった人民解放軍を改造し、統合化を進め、さらには党による支配を確実にするため、中央軍事委員会を通じ、党リーダーによる直接指導での改革を進めていると分析している5

   4番目が、外洋進出する爆撃機の活動である。これは我が国における報道でも大きく取り上げられたものである。「中国軍は第1列島線を越えた地域での活動を拡大し、米国やその同盟国への攻撃能力を誇示しようとする可能性がある」、長距離での打撃能力を高める中国空軍について「米空軍との差を縮め、徐々に長年にわたる米国の技術的優位を脅かしている」とも警鐘を鳴らした、と報道された6

   最後が、5番目の、習近平主導のイノベーションによる開発戦略である。科学・技術の開発、特に軍民共同、共用分野での技術開発等を促進し、強国化を図るというものである。そのため、2050年までの具体的目標を設定し、逐次科学・技術の発展、実用化を目指している7
   その他、全体としての評価を内外の有識者の分析を参考に述べてみたい。 まず、海洋に関心を持ち、研究・情報発信を継続しているアンドリュー・エリクソン(Andrew S. Erickson)は、第3の海洋における兵力としての「海上民兵」(People’s Armed Forces Maritime Militia:PAFMM)について、昨年初めて報告書に記載されたことに続き、今年度も論じられていることを評価している。組織改編に伴い、軍の直接指揮系統に属し、活動を実施するようになり、多数の民兵漁船が、海軍や海警部隊と共に、監視、偵察、漁業保護、捜索・救難等の演習を数多く実施している状況や南シナ海、スプラトリー諸島での活動等に関し、活発な動きを見せていることを論じている8
   外交専門誌“The Diplomat”の執筆者、アンキット・パンダ(Ankit Panda)は、今年度の報告書公表が、例年4~5月であるのに比較し、遅かった事を指摘している。その上で、空軍の核作戦任務復帰、それにもかかわらずはっきりとしない中国版核の三本柱(空軍による核兵器発射態様、空中発射弾道ミサイル:ALBM等を含め)の状況、. MIRV化9された DF-41の開発・配備状況、弾道ミサイル防衛の開発状況、一帯一路構想を発展させたイニシアティブ(BRI)の分析、爆撃機の活動活発化、国境紛争問題、北朝鮮問題等を今年度報告書の注目点として分析している10
   その他、CNNやUSA Today等の一般報道では、中国軍爆撃機の外洋進出、活動活発化に伴う対米攻撃作戦の可能性増大に注目するとともに、核兵器の能力向上にも、懸念を表明している11
   総括すれば、本年度の報告書は、中国の具体的活動、研究開発の方向性を含め、米国にとって脅威度が増加していると、懸念を強くする分析と言えよう。これは昨年末に示された国家安全保障戦略で示された「中国やロシアが米国の死活的なインフラや指揮統制システムに対し脅威を与える最新兵器を開発中」との認識や12、今年1月に公表された国家防衛戦略において、中国とロシアとの長期的な「戦略的競争」が国防省の最優先事項であり、中国はインド太平洋において米国の主導的地位に取って代わろうとしている13、(詳細はコラム096「2018米国国防戦略を概観する」参照)との論述と軌を一にするものであり、中国の脅威度の高まりを、明確に文書化した報告書である。

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 石原 敬浩)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 “The annual Military and Security Developments Involving the People's Republic of China 2018 report to Congress,” U.S. Office of The Secretary of Defense, 2018.
2 2017年版では特記項目はないが、2016年版(全156頁)では“Political Work in the People’s Liberation Army,”の一項目が、2015年版(全98頁)では、“Space Lift Capabilities and Launch Trends” “ China’s Development and Testing of Missile Defense” “ China’s Land Reclamation in the South China Sea”の3項目が特記項目として記述され、それぞれの年次における注目事象として論述されている。
3 “The annual Military and Security Developments Involving the People's Republic of China 2018 report to Congress,” pp.111-112.
4 Ibid, pp.113-114.
5 Ibid, pp.115-117.
6 読売新聞』2018年8月18日;“The annual Military and Security Developments Involving the People's Republic of China 2018 report to Congress,” pp.118-120.
7 “The annual Military and Security Developments Involving the People's Republic of China 2018 report to Congress,” pp.121-122.
8 Andrew S. Erickson,” Pentagon Report Spotlights China’s Maritime Militia,” The National Interest, August 20, 2018.
9 Multiple Independently Targetable Reentry Vehicle : MIRV)、多目標弾頭化
10 Ankit Panda,” New Pentagon Report Highlights Chinese Military Developments: First Takeaways,” The Diplomat, August 18, 2018.
11 “China's military is 'likely training for strikes' against US, Pentagon report says,” USA Today, Aug. 17, 2018; Ryan Browne and Ben Westcott, CNN, “China “likely” training pilots to target US, Pentagon report says,” CNN Politics, 17 August 2018.
12 “National Security Strategy of the United States of America,” December, 2017,p8.
13 “Summary of the 2018 National Defense Strategy of The United States of America,”;『読売新聞』2018年1月21日。