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 戦略研究会

 「RIMPAC2018のマルチドメイン(Multi-Domain)化」について

(コラム116 2018/07/20)

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   2018年6月28日、RIMPAC2018の開催に対する記者会見において1、ジョン・アキリーノ米太平洋艦隊司令官は「この演習は、平和、安定、安全保障及び自由で開かれたインド太平洋地域のための協力国に関するものである。中国の行動はRIMPACの目的と矛盾しており、中国が不在でもほとんど変わりはない」と語るとともに「RIMPACでは初の試みである米陸軍のマルチドメインタスクフォース(Multi-Domain Task Force)による演習を行い2、次回のRIMPAC2020には、さらにこれを拡大する」と述べた。
   ここでマルチドメインの戦い(Multi-Domain Battle)についてであるが、2017年10月に米陸軍が発表した「マルチドメインバトル:21世紀への武器統合の進化」(Multi-Domain Battle:Evolution of Combined Arms for the 21st Century)から理解することができる3
   本発表におけるマルチドメインタスクフォース(Multi-Domain TF)とは「全領域(Multiple domains)4において、同時に行動を遂行する(perform actions)ための能力(ability)を持った任務部隊」であり、マルチドメインバトル(Multi-Domain Battle)(以下「MDB」という。)とは、「全領域において優勢(往々にして一時的)の糸口を創出するための能力の収れん」であると定義されている5。このMDBの概念は、例えば、陸軍部隊が、宇宙及びサイバーといった陸以外の領域で敵と交戦するといった戦闘概念である。(下図参照)

MDBの概念(米陸軍HPから引用)
図 MDBの概念(米陸軍HPから引用)

   自衛隊において、例えば、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾の部隊が敵海上アセットを無力化するような複数領域(クロスドメイン)にまたがる作戦を遂行する能力等は、統合運用の下に培ってきているが、他方、宇宙・サイバー・電磁スペクトラムを含む全領域において、高度にインテグレートされた作戦を遂行する能力・装備や、部隊編成及びその戦い方が十分に備わっているとは言いがたい。

   宇宙・サイバー及び電磁スペクトラムの脅威の具体例として、宇宙からの脅威であれば、対衛星兵器を用いてのGPS妨害により、我の誘導兵器の命中精度を著しく低下させることが可能となるであろう。また、サイバー攻撃により、我の指揮統制システムを停止させられる恐れも否定できない。さらに、強度な電磁パルス(EMP攻撃)の脅威は、電磁シールドを施していないあらゆる防衛装備品や基地施設が電磁的に破壊または無力化され、電力・水道・ガス・通信等の民間重要インフラさえもが不可逆的に絶たれることが想定される。

   RIMPAC2020において、マルチドメイン(Multi-Domain)化を拡大することをアキリーノ米太平洋艦隊司令官が明言していることは、そうしたマルチドメインの脅威の蓋然性の高まりと、危機感を米海軍が強く意識している現われであり、我が国の防衛力整備にあたっては、優先的に取組むべき課題の一つとして捉え、自衛隊の編成や装備、教育訓練、演習等にその対策を講じる必要がある。

(幹部学校運用教育研究部 作戦研究室 中矢 潤)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 STARS AND STRIPES“RIMPAC Being Without China but Adds Army abd Air Force Firepower”29 Jun 2018 (https://www.stripes.com/news/rimpac-begins-without-china-but-adds-army-and-air-force-firepower-1.535333)
2 同上の記事において、RIMPACの複合タスクフォースを統括するジョン・アレクサンダー米海軍第3艦隊司令官は、「米陸軍のマルチドメインタスクフォース(Multi-Domain Task Force)が、海上の船を沈めるため、米海軍のミサイルを撃ち、米空軍が長距離の対艦ミサイルを落とすという実弾射撃を行う」と述べている。
3 U.S.ARMY TRAINING AND DOCTRINE COMMAND “Multi-Domain Battle:Evolution of Combined Arms for the 21st Century”(http://www.tradoc.army.mil/MultiDomainOps/docs/MDB_Evolutionfor21st.pdf)
4 陸・海・空領域のみならず宇宙・サイバー・電磁スペクトラム領域を含む全領域。
5 Ibid,pp77.