海上自衛隊幹部学校

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 戦略研究会

 グローバルリーダーと異文化理解

(コラム115 2018/07/18)

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   2018年6月15日 米国海軍大学卒業式が挙行された。マティス米国防長官は卒業式の訓示において、「卒業生は、各国を代表する、言わば大使に相当する。あらゆる場面において同盟国、パートナー国との関係を強化せよ」と複雑化する国際情勢における各国の関係強化の重要性を述べている1。実際に、今年の卒業生の約2割は世界66か国からの留学生が占めており、米国を含む多くの国がいかに関係強化を重視しているかが伺える。海上自衛隊でも、米国をはじめ諸外国の国防大学、海軍大学等に毎年約10名の学生を派遣している。
   そして日本を含む多くの国々が米国等に高級幹部を派遣する大きな目的の一つにグローバルリーダーの育成がある。すなわち、自国のみならず、他国と協力する場面においてもリーダーとして十分に活躍できる人材の育成である。
   海上自衛隊も、ペルシャ湾への掃海部隊の派遣から27年が経過した現在では、ソマリア沖・アデン湾での海賊対処行動、国際緊急援助活動等に参加し、安全保障環境の構築に積極的に寄与している。特に海賊対処行動では、CTF151司令官として海賊対処に参加する国々のリーダーとしての役割も担うようになってきた。今後も、国際社会における自衛隊の役割は、その重要度が増すことがあっても減ることはないであろう。
   これら各国との関係強化の鍵となるのは、装備やモノではなく「人」そのものであることは言うまでもない。したがって、自衛官としても関係強化に必要な資質をこれまで以上に身に付けておく必要がある。
   グローバルリーダーについては安全保障の世界のみならず、ビジネスの世界においてもその必要性が叫ばれており、グローバル人材の育成と称して組織の根幹である「人」のスキル向上に努めている。その中で、最も重要とされるスキルの一つが異文化理解である。異文化理解とは、簡単に言えば、協力しようとする相手の言語、宗教、習慣のみならず、考え方や思考過程に至るまで、我々との違いを熟知することである。
   特に、考え方は自国の歴史や文化等に深く影響を受けていると言われ、自分たちでは気付かないうちに思考過程に影響を与えている。当然、国が違うことで考え方も異なる可能性があるということである。
   一例として「リーダー」に対する考え方を取り上げてみる。
   一般的に日本では、「リーダーも組織の一員であり、構成員の意見を取りまとめ、皆が納得できる方向性を導くもの」と言われている。このような日本のリ ーダーに対する考え方に影響を与えていると言われるのは、「十七条の憲法」2 第一条の「和を以て貴しと為し、忤(さか)らうこと無きを宗とせよ」に代表されるような「和の文化」であったり、幕末の「重職心得箇条」3第二条の「重職の心得は、先ず、部下に思案を尽くさしめて、是を公平に裁決するところ其の職たるべし。もし、部下の思案より一層良き考えがありても、さして、害なきことは、部下の考えを用いるにしかず。部下を引き立て、気乗り良く仕事をさせることが大切にて候」に見られるような部下の心情に深く寄り添うことを美徳とする考え方であろう。
   一方で、一般的に欧米においては「リーダーは組織そのものであり、リーダーの考え方が組織の方向性を決定する」と言われている。もし、日本人が欧米において日本式のリーダーを実行した場合「自分の意見がないリーダー」「何も決めないリーダー」「非合理なリーダー」と映り、リーダーとしての信頼を失う可能性があると言える。その逆もしかりであり、我々日本人の目には欧米型リーダーが「ワンマン」「強引」「冷酷」と映ることもあるであろう。
   世界中には様々な文化、宗教等があり、考え方や思考過程も千差万別である。まず、そのことを理解し、相手を深く知ることが協力関係強化に必要不可欠なのである。

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦史統率研究室 井 上 貴 嗣)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 U.S. Department of defense, “Remarks By Secretary Mattis at the U.S. Naval War College Commencement, Newport, Rhode Island“ June 15, 2018, https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript-View/Article/1551954/remarks-by-secretary-mattis-at-the-us-naval-war-college-commencement-newport-rh/
2 604年、聖徳太子制定の一七カ条の条例。群臣に垂示した訓戒で、和の精神を基とし、儒・仏の思想を調和し、君臣道及び諸人の則るべき道徳を示したもの。
3 幕末の儒学者佐藤一斎が、重役としてあるべき心構えを十七条憲法に擬して書き記したもの。