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 戦略研究会

 中国軍艦による我が国領海内の航行

(コラム113 2018/07/02)

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   一昨年(平成28年)及び昨年(平成29年)と中国軍艦による意図が不明な領海内の航行事案が生起している。
   これは、平成16年11月の中国原子力潜水艦による先島諸島周辺の我が国領海への侵入以来のことである。我が国は、軍艦か商船かにかかわらず領海内の無害通航を認めているところ、本稿では、最近二回の中国軍艦による我が国領海内の航行について整理するものである。

1 最近の事例
(1)吐噶喇(トカラ)海峡
ア 事実関係
   平成28年6月15日0330頃、海上自衛隊のP-3Cが、中国海軍ドンディアオ級情報収集艦が口永良部島(鹿児島県)西の我が国の領海(吐噶喇(トカラ)海峡)を南東進するのを確認し、呼びかけを実施した。
   日米印の共同訓練を実施中の艦艇を追尾する形で領海に進入したもので、我が国P-3Cの日本の領海内である旨の交話に対して、同情報収集艦は、すぐに出域する旨を回答した。
イ 我が国政府の対応
   外務省は6月16日、在京中国大使館に対し、一方的に日本の周辺海域での行動を中国軍がエスカレートさせているとして懸念を申し入れた1
   また、中国政府の吐噶喇海峡が国際航行に使用されている海峡であるとの主張に対し、同じく16日在北京日本大使館の公使が中国外務省の担当者に対して吐噶喇海峡は「自由に航行できる国際海峡には当たらない」と反論した2
ウ 中国政府の対応
   中国国防部新聞局は15日、記者の質問に対し、『吐噶喇海峡は、国際航行に使用される領海海峡であり、中国の軍艦がこの海峡を航行することは、国連海洋法条約が規定する航行の自由の原則に合致している』とした3。また、中国外交部は同日の報道官定例記者会見において、「吐噶喇海峡は、国際航行に使用されている海峡で各国の艦船は通過通航権を享有し、事前の通知や許可は必要としない」とした4
エ 整 理
   これは、中国側が、吐噶喇海峡が国際航行に使用されている海峡であり、したがって、国連海洋法条約に基づく通過通航が認められるとの主張に対し、我が国の立場として、吐噶喇海峡は国際航行に使用されている海峡ではなく、当該海域は我が国の領海であるため、無害通航のみが認められる海域であると反論したものである。

(2)津軽海峡
ア 事実関係
   平成29年7月2日1040頃、海上自衛隊のP-1が、津軽海峡を東航中の中国海軍ドンディアオ級情報収集艦が小島(北海道松前町)南西の我が国の領海に入域するのを確認した。1210頃、当該情報収集艦は小島の南東の我が国の領海から出域し、その後、津軽海峡を東航し太平洋に進出したことをP-1及び掃海艇「いずしま」が確認した5
イ 我が国政府の対応
   外務省は、「現場の航行の態様からは、無害通航に当たらないと認められるような活動を行ったとの確定的な情報を得られているわけではない」として、「中国側に対して関心表明を行った」6
ウ 中国政府の対応
   中国政府系のポータルサイトである中国網の日本語版によると7月3日、中国国防部新聞局は、「津軽海峡は国際海峡であり、軍艦を含むすべての国の船舶が正常に通過する権利を持つ」と述べたとしている7。しかしながら、当該日本語版の「津軽海峡は国際海峡」の部分について、中国語では、「津轻海峡属于非领海海峡」8とされており、そのまま訳すと「津軽海峡は非領海の海峡に属す」となる。中国人民解放軍系のChina Military Online(中国軍網)も、国防部新聞局のコメントを英語で、”The Tsugaru Strait is a non-territorial strait”であり、したがって、 ”the rights of normal passage” を享有するとしている9
   また、通航の形態について、中国政府は、「正常通过的权利」、「正常通過の権利」、”the rights of normal passage”としており、無害通航(innocent passage)、通過通航(transit passage)といった用語は使用していない。また、通過通航時に認められる「継続的かつ迅速な通過の通常の形態に付属する活動」の「通常の形態」(normal modes)に類似した単語を使用しているが、これとも異なっている。
   いずれにせよ、中国政府は、「中国側の軍艦の活動は国際法に合致し、日本側の批判と人為的な喧伝には別の意図がある」とし、我が国の対応を非難している。
エ 整 理
   中国国防部新聞局のいう「非領海の海峡」(”a non-territorial strait”)が、国際航行に使用されている海峡のうち、領海で覆われていない、すなわち、通過通航ではなく、中央部の国際水域が自由航行である海峡を意味するのであれば、その部分については適切な認識といえる。したがって、中国海軍の情報収集艦が、自由航行の認められる国際水域を航行したのであれば、国際法上は、なんら問題のないところ、津軽海峡沿岸部の領海内を航行したために、我が国政府は、無害通航に当たらない航行とも無害通航とも明確な判断を示さず、「無害通航に当たらないと認められるような活動を行ったとの確定的な情報を得られているわけではない」として、中国政府に関心表明を行ったものである。
   結局、中国政府として、中国の軍艦が津軽海峡の領海部分ではなく国際水域を航行したと主張しているのか、領海を航行したがその行為が合法であるとしているのか、また、その場合の通航は無害通航として合法なのか、それ以外の通航として合法なのかが一般の報道ベースの情報では明確ではないといえる。中国政府は、「正常通過の権利」を享有するとしていて、国際水域における自由航行の権利を行使したのか、領海内の無害通航権を行使したのか、中央部に航行に便利な国際水域の航路が存在する国際航行に使用されている海峡においても通過通航を認めるような中国独自の解釈による通航形態なのかが不明である。

2 中国の主張と我が国の対応
   吐噶喇海峡は、国際航行に使用されている海峡ではなく、かつ、当該海域は領海に覆われているため、無害通航のみが認められることとなる。他方、津軽海峡は、国際航行に使用されている海峡であるが、中央部に公海(排他的経済水域)/国際水域が存在するため、中央部は自由航行、沿岸部は無害通航が認められる海域となる10
   したがって、両海域ともに領海内を航行する場合は、国際法上、無害通航のみが認められることとなる。しかしながら、中国政府は、どちらの航行も無害通航を行ったとは主張していない。中国政府は、いずれの海域も国際航行に使用されている海峡であり、「領海海峡」である吐噶喇海峡においては通過通航の権利を、「非領海海峡」である津軽海峡においては「正常通過」の権利を享受するとしている。中国の使用している「領海海峡」、「非領海海峡」及び「正常通過」という用語の正確な定義は不明であるが、いずれにしても、無害通航という用語を用いずに中国軍艦の実施した通航の適法性を主張している。

3 無害通航にあたらない航行
   すべての国の船舶は、軍艦か商船かの別なく領海において無害通航権を有する(国連海洋法条約17条)。通航とは、内水等に入ることなく領海を通過すること及び内水等への出入りのために領海を航行することである。そのような通航は、継続的かつ迅速に行わなければならない。また、通航が、「沿岸国の平和、秩序、又は安全を害しない限り、無害とされる」(条約19条)。
   ここで、沿岸国の平和等を害する活動、通航にあたらない航行、典型的な無害通航の例及び領海への侵入が武力攻撃を構成する場合について確認する。

(1)有害な活動
   外国船舶による領海の通航が、沿岸国の平和、秩序又は安全を害するとされる活動の具体例は以下のとおりである(条約19条2)。
 (a) 武力による威嚇又は武力の行使であって、沿岸国の主権、領土保全若しくは政治的独立に
   対するもの又はその他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法によるもの
 (b) 兵器(種類のいかんを問わない。)を用いる訓練又は演習
 (c) 沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為
 (d) 沿岸国の防衛又は安全に影響を与えることを目的とする宣伝行為
 (e) 航空機の発着又は積込み
 (f) 軍事機器の発着又は積込み
 (g) 沿岸国の通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令に違反する物品、通貨又は人の
   積込み又は積卸し
 (h) この条約に違反する故意のかつ重大な汚染行為
 (i) 漁獲行為
 (j) 調査活動又は測量活動の実施
 (k) 沿岸国の通信系又は他の施設への妨害を目的とする行為
 (l) 通航に直接の関係を有しないその他の活動

(2)通航にあたらない航行
   通航とは、沿岸国の「内水に入ることなく又は内水の外にある停泊地若しくは港湾施設に立ち寄ることなく領海を通過」するか「内水に向かって若しくは内水から航行すること」又は内水の外にある「停泊地若しくは港湾施設に立ち寄ること」のために領海を航行することをいう(条約18条1)。そして、「通航は、継続的かつ迅速に行わなければならない」とされている(条約18条2)。ただし、「停船、投びょうは、航行に通常付随するものである場合、不可抗力若しくは遭難により必要とされる場合」又は遭難船舶等に援助を与えるために必要とされる場合に限り、通航に含まれるとされている(条約18条2)。
   したがって、内水等に入ることなく領海を通過する場合及び内水等への出入りのために領海を航行する場合であっても、遭難船舶を救助する場合等の必要がないにもかかわらず、「継続的かつ迅速」ではない航行、すなわち、停留、びょう泊、係留、はいかい等を伴う航行は、通航にはあたらない航行となる11

(3)典型的な無害通航の例
   無害通航は、したがって、沿岸国の平和、秩序、又は安全を害さない通航ということになる。国際社会に共通して受け入れられている典型的な無害通航の例は以下のとおりである。
ア 当該沿岸国の予定している寄港地を訪問するための領海への入域
イ 国際航行に使用されている航路としての領海内航行
ウ 沿岸国との共同訓練等に際して、沿岸国艦船等と連携した領海への入域
エ 海難を避けるため等の領海内への緊急入域
オ 不可抗力による入域
カ 海難を認識した際に沿岸国の海難救助機関が対応できない場合等に自ら海難救助を実施す
 るための領海内への入域

   これ以外であっても、「沿岸国の平和、秩序、又は安全を害しない」通航であれば、無害通航であるが、国際水域を航行中の外国船舶が意図的に領海に入域するような場合は、沿岸国としては、その都度、無害通航であるか否かの判断をすることになるであろう。

(4)軍艦による領海への侵入が武力攻撃を構成する場合
  外国軍艦による領海内の無害通航にあたらない航行は、沿岸国に対する主権侵害にあたるが、軍艦による領海侵入が武力攻撃を構成する場合が考えられる。
  1967年10月21日、エジプトが同国のアレキサンドリア沖を航行中のイスラエル海軍駆逐艦「エイラート」に対し、ミサイル艇による対艦攻撃を実施して撃沈した(エイラート事件)。エジプトは、「エイラート」がエジプトの距岸10海里の領海内において高速航行を行うなどの作戦行動に従事しており、自衛行為をとらざるを得なかったとした。これに対し、イスラエルは、「エイラート」はエジプトの距岸14海里の国際水域で通常のパトロールを実施していたとし、エジプトの攻撃を公海における侵略行為であると非難した。
  エジプトの主張は、外国軍艦が領海に侵入し、作戦行動を開始することは、侵略行為・武力攻撃を構成し、自衛権の対象になるというものである。イスラエルは、これに対し、「エイラート」は、エジプトの領海内に入っていないという反論であった。

4 コメント
(1)領海入域時における通報等
   第2次世界大戦までは、商船と異なり軍艦が同意なく外国の領海内を航行することは、性質上当然に有害の推定がはたらくという「船種別規制」が国家実行及び多くの学説のとる立場であった。しかし、現在は、軍艦か商船かの別なく、すべての国の船舶は、領海内において無害通航が認められている(国連海洋法条約第17条)。
   中国は、外国軍艦が自国領海内を無害通航する場合は許可制としているが、我が国としては、無害通航制度において、国際法上の義務として、外国軍艦に対し自国領海に入域する場合に許可を求め又は事前通報を求めることはないという立場をとっている。
   ただし、特別な事例を除き、諸外国の軍艦は、前述した典型的な無害通航の例以外で、あえて外国の領海に入域することは避けているのが実状といえる。入域が必要な場合において、国際法上の義務としてではなく、沿岸国から有害な活動と誤解されないよう、事実上の行為として、軍艦側又は軍艦の旗国政府から沿岸国当局への入域の意図等についての自発的な情報提供は否定されるものではない。もちろん、そのような通報が為されたからといって自動的に無害通航とみなされるわけではなく、沿岸国がその都度判断することになろう。

(2)地政学上の相違からくる中国の思惑
   中国はユーラシア大陸の東に位置するため、外国の船舶が国際水域から自国の領海を通航して他の国際水域へ向かうような地形が少ない。他方、我が国は、中国の前面を塞ぐような形で、列島からなる国土を有しているため、地理的に中国側から太平洋側へ通過できる海域が多く存在している。
   このような、地政学上の条件の下、中国は、自国領海内における外国軍艦による無害通航を許可制であると主張することで、外国軍艦によるアクセスを制限する一方、自国艦艇が外洋に展開することを容易にするため、すなわち、いわゆる「第一列島線」を自由に通過するための概念として、あえて「無害通航」の概念を用いず、「国際海峡」というキーワードを使用し、それに伴う通航を主張しているようにみえる。

(3)海南海峡(瓊州(チュンチョウ)海峡)
   平成28年6月15日に中国海軍ドンディアオ級情報収集艦が吐噶喇海峡の領海内を航行し、中国政府は、「通過通航」であると一方的に主張した。しかし、仮に吐噶喇海峡が通過通航の適用となる国際海峡とするならば、国際社会としては海南海峡の扱いについて、議論せざるを得なくなるかもしれない。
   海南海峡は、国連事務局の要請に基づき、1958年の第1次国連海洋法会議のために準備された国際交通の航路を構成する海峡の地理上及び海洋上の研究文書(1957年10月)に記述されている「国際交通の航路を構成する海峡(straits which constitute routes for international traffic)」として列挙された33の海峡の一つに挙げられている12。それによれば、海南海峡は、西方にあるトンキン湾と海南島の北東の公海部分とを結んでおり、国際航行に頻繁に使用されてきたとしている13。海南海峡は、中国の領海で構成されていることから、国連海洋法条約上の通過通航制度が適用される海域と判断されるかもしれない。

(4)中国海警局の公船による領海内航行
   昨年(平成29年)夏に中国海警局の公船2隻が、対馬海峡、津軽海峡及び大隅海峡沿岸の我が国領海内を航行し、我が国外務省が関心表明を行っている。本件は、海峡内に他の便利な国際水域の航路があり、不可避的な領海内航行が生じないにもかかわらず、あえて我が国領海内を航行したものである。本年7月の海警の武装警察部隊隷下への改編も相まって、今後は、中国軍艦のみならず、海警の動向もあわせて注視していく必要がある。

(幹部学校運用教育研究部 作戦法規研究室 佐 藤 幸 輝)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 外務省 HP記者会見「岸田外務大臣会見記録」(平成28年6月17日) http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken4_000363.html#topic5
2 YOMIURI ONLINE6.17 0711i等。
3 中国国防部、「6月15日国防部新闻局答记者问」、http://www.mod.gov.cn/info/2016-06/15/content_4675471.htm、「吐噶喇海峡是用于国际航行的领海海峡,中国军舰通过该海峡符合《联合国海洋法公约》规定的航行自由原则」。TBS News 6.15 1703i等。
4 中国外交部HP、http://www.fmprc.gov.cn/web/fyrbt 673021/t1372479.shtml、「吐噶喇海峡是用于国际航行的海峡,各国舰船享有过境通行权无需事先通知或批准」。なお、中国外務省HPの英語版が”Tokara Strait is for international navigation and vessels from all countries are entitled to innocent passage in these waters without prior notice or approval”.としていたため、当初、中国が「国際航行に使用される海峡であり、無害通航が認められる」というちぐはぐな主張をしているという混乱が生じた。
5 防衛省「中国海軍艦艇の動向について」『お知らせ』(29.7.2)、http://www.mod.go.jp/js/Press/press2017/press_pdf/p20170702_01.pdf
6 外務省 安藤外務副報道官会見記録(平成29年7月19日(水曜日)16時33分 於:本省会見室)、https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken3_000047.html#topic2
7 中国網日本語版(チャイナネット)中国艦が日本の領海に進入? 意図的な喧伝=国防部、2017. 7. 4, http://japanese.china.org.cn/politics/txt/2017-07/04/content_41147981.htm.
8 美国之音(Voice of America)「日本指控中方军舰二战后第三次侵犯日本领海」2017.7.4、「津轻海峡属于非领海海峡,所有国家船舶包括军用舰艇均享有正常通过的权利」、 https://www.voachinese.com/a/japan-chinese-warship-20170703/3926551.html
9Ouyang, “China refutes Japan's accusation of Chinese warship trespassing Japanese territorial waters”, China Military Online, July 4, 2017, http://eng.chinamil.com.cn/view/2017-07/04/content_7663311.htm.
10 我が国は、領海及び接続水域に関する法律(昭和52年法律第30号)で、領海幅を12海里と定めるとともに、津軽海峡を含む国際航行に使用されている海峡については、5つの特定海域として、領海幅を海峡内の最も狭い部分については、基線から3海里の線までの海域として、中央部に国際水域を残すようにしている。
11 領海等における外国船舶の航行に関する法律(平成20年法律第64号)第4条で、外国船舶の船長等は、領海及び内水において、停留等を伴う航行をさせてはならないと規定している(第4条)。ただし、本法律では、「外国船舶」から、軍艦及び非商業目的に使用される公船は除かれている(第2条)。
12 United Nations Conference on the Law of the Sea, 24 February to 27 April 1958, “A Brief Geographical and Hydro Graphical Study of Straits Which Constitute Routes for International Traffic,” A/CONF.13/6 and Add.1, p114.
13 Ibid., p.125.