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 戦略研究会

  米国による中国輸入品に対する関税措置
-貿易と安全保障をめぐる米中の対立-

(コラム111 2018/06/28)

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米中による関税措置の応酬
   2018年6月15日、米国のトランプ大統領は、500億ドル相当の中国からの輸入品に対し、25%の関税をかける方針を明らかにした1。同大統領の声明によれば、この追加関税措置の実施は、中国による米国の知的財産及び技術の盗用その他の「米中間の貿易不均衡をさらに拡大し、米国の経済及び安全保障を害する」不公正な貿易慣行に対抗するためのものであり、その対象には「ハイテク産業分野で優位に立つための中国の戦略的計画である「中国製造2025」に関連する物品」等の技術的に重要な品目が含まれる。
   同追加関税措置の対象となる1,102品目のうち、第1段として、818品目に対する措置が7月6日より実施される予定である2。これに対し、中国政府は、500億ドル相当の米国から輸入している659品目に対する報復関税措置を7月6日より実施する方針を発表、両国による関税措置の応酬は、「貿易戦争」と形容される事態となっている3。トランプ政権は、発足以来、貿易赤字削減を極めて重視しており、貿易赤字額全体の5割弱を占め、国別で最大の赤字を計上している中国に対し、その削減を強く求めてきた経緯がある(図 1参照)4。今回の追加関税措置実施の方針が示される約1か月前の2018年5月17日から18日にかけワシントンで実施されたムニューシン財務長官、ロス商務長官、ライトハイザー米国通商代表等から構成される米側代表団と劉鶴副首相が代表を務める中国側代表団との間でなされた通商協議で、両国が米国の貿易赤字削減のための効率的手段をとることで合意する等一定の進展がみられていた5

図 1 米国の国別貿易赤字額(2017年)

   一方で、今回の声明で示された米国による中国への追加関税措置は、中国からの輸入額の約1割にあたる500億ドル相当という規模に加え、その目的が中国の不公正な貿易慣行への対抗措置とされていること、2015年に中国政府が世界をリードする製造業育成のために策定した「中国製造2025」に関連した物品を対象としていること等、政治的要素をも含む内容となっている6
   本コラムでは、今回の追加関税措置により、貿易をめぐり米国が中国に対し強硬ともいえる姿勢で臨んだ理由について考察する。

米国による関税措置の対象物品
   米国通商代表部(Office of the United States Trade Representative: USTR)が公表した関税措置の対象となる中国からの輸入品のリストには航空宇宙産業、ロボット産業等のハイテク産業品が含まれている7。これらの物品は「中国製造2025」が重視すべき分野として挙げているものと重複しているが、現時点において当該物品の米国の輸入額に占める中国のシェアは必ずしも大きくない。航空宇宙機器、産業用ロボットを含むフレキシブル生産機器、先端材料、光電子工学機器及び携帯電話その他の家電製品について見てみると、光電子工学機器及び携帯電話等を除く機器の米国の輸入額に占める中国のシェアは、輸入総額に占めるシェアに比して、小さい8。一方で、中国が大きなシェアを占める携帯電話等は、関税措置の対象に含まれていない(図 2、図 3参照)9
   このことから、今回の関税措置については既存の対中貿易赤字削減に加え、特にハイテク産業品を対象とし、知的財産及び技術の盗用等の不公正な貿易慣行を許さないというメッセージを発することを目的としていることが示唆される。

図 2 米国の輸入総額に占める各国のシェア(2017年)

図 3 米国の製品別輸入額に中国が占めるシェア(2017)

米国の安全保障戦略と貿易
   トランプ政権は、中国との貿易について、その収支が不均衡であるのみならず、中国の貿易慣行が不公正であることを問題視している。
   トランプ政権のナバロ通商製造政策局長は、『ウォールストリート・ジャーナル』に寄稿した「中国の比較優位は偽物」と題する論文において、国際貿易における中国の比較優位は、知的財産の侵害、外国企業に対する技術移転の強要、政府系ファンドを活用した海外の優良企業の買収、補助金の活用等の手段により得られたものであるとして、中国の貿易慣行の不公正さを非難している10。特に政府系ファンドによるハイテク企業の買収については、経済的動機だけでなく、軍事的な目的からも実施されており、安全保障上、重大な懸念事項であるとの認識を示している11
   トランプ政権は、発足以来、経済再建に強い意欲を見せてきたが、その経済戦略の特徴として、「経済の安全保障は国家の安全保障である」というトランプ大統領自身の考えに基づき、安全保障上の観点から経済を重視していることが挙げられる12。トランプ政権下で発出された『国家安全保障戦略(National Security Strategy)』でも、「成長し続ける革新的な経済が、米国が世界で最も強力な軍を維持し、国土を防衛することを可能にする」として、経済的な競争力が軍事力の基盤となるという考えが明示されている13。同戦略は、現在の国際情勢について、安全保障上の観点から国家主体が互いに戦略的な競争関係にあるとし、経済においても「より広範な戦略的意味合いを含む経済的競争において、米国の安全と繁栄が挑戦を受けている」として、国家間の競争的関係を強調している14
   『国家安全保障戦略』が、米国の戦略的な競争相手として筆頭に挙げている国が中国とロシアであり、両国について「米国の繁栄と安全を侵食することで、米国のパワー、影響力、国益に挑戦している」、「軍事力を増大させるため、(中略)経済状態をより自由度が低く不公正なものにしようとしている」との指摘がなされている15。また、同じくトランプ政権下で発出された『国家防衛戦略(National Defense Strategy)』でも、「中国は南シナ海の地形における軍事化を進めると同時に市場掠奪的な経済によって近隣諸国を威嚇する戦略的な競争相手である」と位置づけられ、中国による不公正な経済活動が、その軍事力の強化及び活用につながっているとの認識が示されている 16
   このように国家安全保障において経済が果たす役割を重視するとともに、中国を戦略的競争相手と位置づけるトランプ政権において、中国の不公正な貿易慣行は自国経済ひいては国家の安全保障を損なう重大な懸念事項であると認識されている。このようなトランプ政権の認識を前提とすれば、今回の関税措置は、既存の対中貿易赤字削減にとどまらず、経済、軍事、安全保障等を包括する国家間競争において、中国の台頭を抑制し、米国の優位性を維持するという同政権の中長期的戦略の具現化の一つとみることが適当だろう。

総括と今後の展望
   今回の米国による中国に対する関税措置の実施は、中国に対し経済的な優位性を維持することが、軍事力の優勢につながり、さらには国家の安全を保障するというトランプ政権の現実主義的な経済及び安全保障戦略が色濃く反映されたものであるとみることができる。中国を戦略的競争相手とみなし、かつ経済の安全保障的側面を重視しているため、トランプ政権において、米中間の貿易をめぐる問題は、経済にとどまらず自国の安全に関わる問題と認識されている。このため、貿易をめぐる問題において、両国が妥協できる余地は小さいと考えられる。中国による報復関税措置を受け、6月18日、トランプ大統領は、「中国は明らかに不公正な貿易慣行を改める意図がない」、「USTRに10%の追加関税をかける2,000億ドル相当の中国製品を選定するよう指示した」との声明を発出しており、事態はエスカレートしつつある 17
   米中両国による関税措置が、7月6日以降実際に発動された場合、両国の貿易は大きな打撃を受けることが予想され、またGDPで世界第1位と第2の経済大国である両国間の大規模な関税措置の応酬は世界経済に与える影響も大きいとみられる。米中両国に多数の企業が進出している我が国の経済に与える影響も懸念される。このため、我が国としても事態を注視する必要があるだろう。

(幹部学校企画部 企画課 国際計画班 高畠太)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 The White House, “Statement by the President Regarding Trade with China,” June 15, https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/statement-president-regarding-trade-china/.
2 Office of the United States Trade Representative, “USTR Issues Tariffs on Chinese Products in Response to Unfair Trade Practices,” June 15, 2018, https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/press-releases/2018/june/ustr-issues-tariffs-chinese-products.
3 『中日新聞』2018年6月17日。
4 2017年の米国の中国に対する貿易赤字額は3,752億ドルとなっており、貿易赤字額全体の約47%を占める。United States Census Bureau, “Foreign Trade,” https://www.census.gov/foreign-trade/index.html.
5 通商協議において、米中両国は、米国から中国への農産物、エネルギー輸出の増加等について合意している。The White House, “Joint Statement of the United States and China Regarding Trade Consultations,” May 19, 2018, https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/joint-statement-united-states-china-regarding-trade-consultations/.
6 「中国製造2025」は、中国政府により策定された2025年をめどに世界をリードする製造業を育成するための経済戦略であり、重視すべき10の分野として、①情報技術、②コンピューター数値制御装置及び産業用ロボット、③航空宇宙、④海洋工学及びハイテク船舶、⑤鉄道、⑥省エネ及びエコカー、⑦発電、⑧先端材料、⑨バイオ医薬品及び医療機器、⑩農業用機械が挙げられている。“"Made in China 2025" plan unveiled to boost manufacturing, “ Xinhuanet, May 19, 2015, http://www.xinhuanet.com/english/2015-05/19/c_134252230.htm.
7 Office of the United States Trade Representative, “Notice of Action and Request for Public Comment Concerning Proposed Determination of Action Pursuant to Section 301: China’s Acts, Policies, and Practices Related to Technology Transfer, Intellectual Property, and Innovation,” June 15, 2018, https://ustr.gov/sites/default/files/2018-0018%20notice%206-15-2018_.pdf.
8 United States Census Bureau, “Foreign trade,” https://www.census.gov/foreign-trade/index.html.
9 USTRは、「携帯電話、テレビ等の一般にアメリカの消費者により購入されているものはリストに含まれていない」としている。Office of the United States Trade Representative, “USTR Issues Tariffs on Chinese Products in Response to Unfair Trade Practices,” June 15, 2018, https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/press-releases/2018/june/ustr-issues-tariffs-chinese-products.
10Peter Navarro, “China’s faux comparative advantage,” Wall Street Journal, April 15, 2018.
11Ibid.
12 The White House, National Security Strategy, December 2017, p. 17
13 Ibid., p. 17.
14 Ibid., pp. 2-3, 17.
15 Ibid., p. 2
16 U.S. Department of Defense, Summary of the 2018 National Defense Strategy of The United States of America, January 2018, p. 1.
17 The Whitehouse “Statement from the President Regarding Trade with China,” June 18, 2018, https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/statement-president-regarding-trade-china-2/.