海上自衛隊幹部学校

交通案内 | リンク | サイトマップ |  English

HOME / 戦略研究会 / コラム / コラム110

 戦略研究会

  「スウィフト前太平洋艦隊司令官が主導する取組み」について

(コラム110 2018/06/19)

*******

   2018年3月、当時米海軍太平洋艦隊司令官であったスウィフト氏は、「艦隊の問題が機会を提供する」(Fleet Problem Offer Opportunities)と題した論文を発表した 1
   発表内容によると、近年の米海軍太平洋艦隊は、海洋阻止作戦(maritime interdiction operations)、海峡通狭(striate transit)及び空母等の航空部隊の兵力投射に焦点を当てた訓練を実施してきた。しかし、ハイエンドの海上戦闘、すなわち米海軍の「制海(sea control)という核心」への準備を怠ってきた。
   米国の潜在敵国は、これまで以上に複雑で挑戦的な訓練を実施しているとの情報を得ており、現在の「最適化された艦隊即応計画」(OFRP:Optimised Fleet Response Plan)では、潜在敵国のハイエンドな海上戦闘に対して十分ではないことから訓練のレベルを上げる必要があった。このため、1年前に米海軍太平洋艦隊は、レッドチーム(PNAT:the Pacific Naval Aggressor Team)を作り、対抗演習を行うことでこれまでの教義に囚われない独特で貴重な教訓を得ることができたとしている。
   また、スウィフト氏は、上述論文に先立つ2018年2月に、「指揮統制術の習得」(MASTER THE ART OF COMAMAND&CONTROL)と題した論文を発表している2。それによると、米軍は、サイバー空間を含むハイエンドな海上作戦を想定し、あらゆる状況における指揮統制の継続が必要と述べている。
   さらに、2017年7月17日に発出された「艦隊への司令官のガイダンス」(Commander’s Guidance to the Fleet)で「米海軍太平洋艦隊の乗員は、課題に対する革新的な解決策を生み出だすことを期待されている3。」と述べ、ハイエンドな戦いへのアクションを求めた。
   これら論文を見渡すと、スウィフト氏は、挑戦的な潜在敵国へ対応するために米海軍太平洋艦隊がハイエンドな戦い4に備える必要性を強調しているが、こうした背景には近年の中国国防費の不透明性やその継続的な大きな伸び、中国軍の広範かつ急速な強化に対する不信感5、そして中国は、周辺領域への他国の軍事力の近接・展開を阻止し、当該地域での軍事活動を阻害する非対照的な軍事能力(いわゆる「アクセス(近接)阻止/エリア(領域)拒否(「A2/AD」)能力)の強化に対する米海軍の危機感6、米軍の優位性を維持・拡大するための第3のオフセット戦略7などが根底にあるものと考えられる。
   さて、先に述べた「艦隊の問題が機会を提供する」との論文の中でもうひとつ注目すべき点は、スウィフト氏が、「制海(sea control)という核心」という言葉を用いてその回帰を述べていることである。
   現代戦においては、陸・海・空・宇宙及びサイバー空間といった幅広い領域(ドメイン)が複雑に影響し合う状況の下、絶対的な制海を獲得することは困難であると言うのが一般的な考え方であり、そのため、現代海軍の具体的な活動には、敵海上作戦能力の撃破と並行して一時的、局地的に味方による海洋利用の自由の確保、又は敵の海洋利用の拒否等の措置、すなわち海上優勢(sea spurious) を確保することが必要となっている。
   この制海の獲得に係る同義の考え方は、米統合ドクトリンにも明記されているところであるが8、スウィフト氏が用いた制海(sea control)という言葉が指すイメージは、2017年1月に米海軍水上部隊司令官トーマス・ローデン中将が発表した、「米海軍の水上艦隊の戦略:制海への回帰」(Surface Force Strategy: Return to Sea Control)から読み解くことができる9
   本発表において、「水上艦隊は、兵力投射を行う統合部隊のために、任意の時と場所で制海する 」と記述されており10、スウィフト氏が想定する制海のイメージは、かつての海上ドメイン(領域)のみにおける絶対的な制海を意味するものではなく、高烈度かつ幅広い領域における複合的な脅威下で行う作戦や作戦エリアまでの兵力投射において、必要な時と場所におけるにおける制海の獲得、言い換えれば「ハイエンドな状況下で作戦を遂行するための海上優勢の確保」を狙ったものであると言えるものと考えられる。
   翻って、我が国の海上防衛力を見ると、海上自衛隊は防衛計画の大綱に基づき11、海上及び水中領域における優勢の確保を重点に、新領域(宇宙・サイバー・電磁スペクトラム領域)における能力構築や多様な任務への対応能力の向上を重視した防衛力整備を進め、あらゆる事態における部隊の行動と関連措置を実効的なものとするための態勢構築を目指してきた。一方で、ローエンドでの多様な任務へ対応するためのコストが増大し、ハイエンドな戦い対しては、運用、教育、訓練、後方及び予算などの面で、必ずしも十分とは言いがたい。
   5月17日には、スウィフト前太平洋艦艇司令官に代わり、アキリーノ新太平洋艦隊司令官が就任したが、米海軍太平洋艦隊が引き続きハイエンドな戦いに焦点を置くならば、海上自衛隊と米海軍太平洋艦隊が行う共同訓練等にも少なからず反映されていくことになるであろう。海上自衛隊は日米同盟の実効性を確保する観点から、よりハイエンドなシナリオの中で、米海軍との共同能力やインターオペラビリティを強化する必要があり、新領域を含んだ複数のドメインからの高脅威下における作戦遂行能力を構築していくことが求められるだろう。
   6月12日には、初の米朝首脳会談がシンガポールで開催され、北朝鮮の完全非核化が合意されたが12、非核化プロセスの行方をめぐってアジア太平洋地域のパワーバランスが今後どう変化するのかは依然不透明であり、想定していないような大きな変動がおこるかもしれない。こうした中、今年度は新防衛大綱及び中期防の策定が予定されているが、策定作業に当たっては、我が国を取り巻く安全保障環境及び主要国の軍事動向等を、しっかりと見積った上で、自衛隊の任務、役割及び能力等を再整理して、我が国の防衛力のあり方の確立とそのために真の必要な防衛力を整備していく必要があるだろう。

(幹部学校運用教育研究部 作戦研究室 中矢 潤)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

--------------------------------------------------------------
1 Scott H. Swift,“Fleet Problems Offer Opportunities”Proceedings Magazine,March 1 2018.(https://www.usni.org/magazines/proceedings/2018-03/fleet-problems-offer-opportunities)
2 Scott H. Swift,“MASTER THE ART OF COMMAND&CONTROL”PROCEEDING,Feburary 2018,pp.29-33 .
3 Commander,U.S.Pacific Fleet,Guidance(http://www.cpf.mil/guidance/) (2018年5月17日アクセス)
4 Ronald O’Rourke“A Shift in the International Security Environment:Potential Implication for Defence-Issue for Congress”Congression Research Service, April26,2018, pp.12 本項において、ハイエンドな戦いとは、米国と同様に洗練された軍事能力を持つ敵による大規模で高烈度な戦いとしている。
5 『ロイター』2018年3月6日「米太平洋司令官、中国国防費『透明性を欠く』と批判」(https://jp.reuters.com/article/us-pacific-fleet-china-idJPKCN1GI0QE)2018年3月5日、2018年度の中国の国防費は、前年比8.1%増の1兆1100億元(1750億ドル)と発表されたことに対し、2018年3月6日、スウィフト司令官がは、「こういった予算は十分な透明性を持って決められるべきだ。中国が何をしようとしているのか分からない 。」と発言している。
6 防衛省編『防衛白書』平成29年版、65頁。 なお、2016年10月、米海軍作戦部長ジョン・リチャードソン大将は、The National Interestの論説で、「米海軍は今後、独立した略語としてのA2/ADの使用を中止する」と発言しているため本コラムにおいて、いわゆるA2/AD能力と記述した。John Richardson“Deconstructing A2AD,”The National Interest,Oct 2016
7 防衛省編『防衛白書』平成29年版、74頁。 米国は、1950年代以降、敵の有する能力と異なる新たな分野の軍事技術の開発に投資し、非対称的な手段を獲得することにより、相手の能力をオフセット(相殺)する戦略を通じ軍事作戦及び技術上の優位性を維持してきた。しかし、今日こうした米国の優位性は潜在的な敵が軍を近代化させ先進的な軍事力を獲得したり、技術が拡散することにより、徐々に失われてつつあることから、限られた資源を活用して米国の優位性を維持・拡大するため、新たに革新的な方策を見つけることを企図して本構想を打ち出したもとしている。
8 JOINT CHIEFS OF STAFF“Joint Publication 3-32,Command and Control for Joint Maritime Operations”,07 August 2013 pp. I-3.このドクトリンにおいて“makes it impossible for even a preeminent naval power to achieve global maritime superiority”と記されている。
9 NAVY LIVE THE OFFICIAL BLOG OF THE U.S.NAVY“THE U.S. NAVY’S SURFACE FORCE STRATEGY: RUTURN TO SEA CONTROL”,january9,2017(http://navylive.dodlive.mil/2017/01/09/the-u-s-navys-surface-force-strategy-return-to-sea-control/) なお、本発表は、2016年1月に米海軍作戦本部長ジョン・リチャードソン大将が、米海軍の将来構想についての指針として発表したA Desigin for Maintaining Maritime Superiority(海上優勢の維持への構想)に示された「海上における海軍力の強化」(John M.Richardson“A Desigin for Maintaining Maritime Superiority (http://www.navy.mil./cno/docs/cno_stg.pdf).の回答である。
10 Ibid
11 「国防の基本方針」(昭和32年5月20日国防会議及び閣議決定)に代わるものとして、2013年12月に初めて「国家安全保障戦略」が閣議決定され、これを踏まえて同時期に策定された「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」が策定された。その中で、自衛隊の体制整備に当たっての重視事項として、「海上優勢・航空優勢の確実な維持に向けた防衛力整備を優先し、機動展開能力の整備も重視する」とした。また、重視すべき機能・能力として、①警戒監視能力、②情報機能、③輸送能力、④指揮統制通信能力、⑤島嶼部に対する攻撃、⑥弾道ミサイル攻撃、⑦宇宙空間及びサイバー空間、⑧大規模災害等、⑨国際平和協力等への対応を挙げ重点的に強化するとした。
12 “Joint Statement of President Donald J.Trump of the United State of America and Chairman Kim Jong Un of the Democratic People’s Republic of Korea at the Singapore Summit”June 12,2018,THE White House. 内容は次の4項目①米国と北朝鮮は、平和と繁栄を求める両国国民の希望に基づき、新たな米朝関係の構築に取り組む。②米国と北朝鮮は、朝鮮半島で恒久的で安定的な平和体制の構築に向け協力する。③2018年4月27日の「板門店宣言」を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全なる非核化に向け取り組む。④米国と北朝鮮は、朝鮮戦争の捕虜・行方不明兵の遺骨回収、既に身元が判明している遺体の帰還に取り組む。