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 戦略研究会

  G7首脳会合についての一考察
-貿易をめぐる対立と安全保障面での一致-

(コラム109 2018/06/14)

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貿易をめぐる米国とEU・カナダの対立
   2018年6月9日、カナダのシャルルボワで2日間にわたって実施されたG7首脳会合(以下、「シャルルボワ・サミット」)が閉幕した。閉幕後の記者会見で、議長国カナダのトルドー首相は、主に貿易のあり方をめぐる各国の利害対立の状況から見送られる可能性も指摘されていた首脳宣言の採択について言及し、「7か国の共同宣言を採択し、一定の成果を上げられた」と述べた1
   最大の焦点となった貿易問題では、米国とEU・カナダの利害が対立、フランス大統領府によれば、トランプ大統領がEUとカナダに対し「貿易システムが不公正で、米国の経済、労働者、そして中産階級に完全に不利に働いている」と訴える場面もあったとされる2
   貿易をめぐる米国とEU・カナダの間の対立は、首脳会合に先立ち5月31日から6月2日にかけてカナダのウィスラーで実施されたG7財務相・中央銀行総裁会議で既に明らかになっていた。同会議は、米国による鉄鋼・アルミニウムへの追加関税措置の対象がEU、カナダ等にまで拡大されたことを受け、米国とその他の参加国との間で議論が紛糾した結果、議長声明で「安全保障を理由として米国により同盟国及び友好国に対し課された関税は開かれた貿易とグローバル経済に対する信頼を損なうものであるとする懸念が表明」される等3、異例の形で閉幕した。

トランプ大統領によるロシアのG7復帰の可能性への言及
   貿易をめぐる対立に加え、注目すべき事象として、トランプ大統領がロシアのG7復帰について言及したことが挙げられる。6月8日、トランプ大統領はG7首脳会合へ向かう前の記者会見において、2014年のロシアによるクリミア併合を受け、当時のG8から追放されたロシアについて「サミットに参加すべきだ」と主張、その理由を「ロシアを交渉のテーブルにつかせるべきだ」と説明した4
   従来、トランプ政権はロシアに対し強硬な態度をとってきた。2017年12月に発表された「国家安全保障戦略(National Security Strategy)」は、現在の国際情勢を「競争的な世界(a competitive world)」と表現したうえで、「中国とロシアは米国の安全と繁栄を侵食しようと試み、米国の国力、影響力、国益に挑戦している」として、ロシアを中国、北朝鮮、イラン等とともに名指しで「競争相手(rival)」として位置づけた5。また、2018年1月に発表された「国防戦略(National Defense Strategy)」も、「テロリズムではなく、国家間の戦略的競争(inter-state strategic competition)が、米国の安全保障にとって第一の懸念である」とするとともに、「ロシアは近隣諸国の国境を侵犯し、それらの国の経済・外交・安全保障に関する意思決定を拒否する力を追求している」と述べ、ウクライナ、ジョージア等に対する軍事介入を念頭に、ロシアの拡張的行動に強い警戒感を示した6。さらには、米国はロシアが支援するアサド政権のシリア政府軍の基地を、2017年4月、2018年4月の2度にわたって空爆し、実際の軍事行動をもってロシアに対抗してきた7
   このような経緯を考え合わせると、今回のトランプ大統領によるロシアのG7復帰の可能性への言及は唐突な印象を与えるものである。トランプ大統領の発言を受け、トゥスク欧州理事会議長は、「ルールに基づく国際秩序が、従来の挑戦者ではなく、その主要な構築者であった米国による挑戦を受けている。我々(EU)は、米国の友人達とトランプ大統領を説得しようとは思わない。そのようにしても、リベラルな民主主義と基本的な自由が存在しない「西側後の秩序(post-West order)」を求める者たちを有利にするだけである」と述べ、トランプ大統領が国際秩序を軽視していることを批判した8

シャルルボワ・サミットの成果
   では、シャルルボワ・サミットの安全保障面の成果はいかなるものであったのだろうか。
   以下では、2017年5月にイタリアのタオルミーナで実施されたG7首脳会合(以下、「タオルミーナ・サミット」)で採択された首脳宣言と比較しつつ9、貿易、アジア太平洋地域の安全保障に関わるものを中心に今回のシャルルボワ・サミットの首脳宣言について分析する10
   貿易に関しては、タオルミーナ・サミットに引き続き、「保護主義との戦いを継続していく」とされ、対立事項があるとはいえ、G7としての一体性を維持していることを示した。また、「関税障壁、非関税障壁、補助金の引き下げに努力する」との文言も加えられた。一方で、シャルルボワ・サミットでは、「開放的、透明、包括的でWTOのルールと整合的な2国間、地域的、多国間の経済協定の重要性に留意する」とされ、「2国間経済協定」が地域的及び多国間経済協定と並列して記載されたことは注目に値する。これは、多国間経済協定よりも2国間経済協定を優先させるトランプ政権の方針が反映されたものと推察される。
   安全保障上の脅威について、シャルルボワ・サミットでは、新たに「特に国家主体に由来する脅威はG7だけでなく、国際社会の平和と安定、ルールに基づく国際秩序に対する脅威である」との文言が加えられた。これは、現在の国際情勢を「競争的な世界」ととらえ、「国家間の戦略的競争」が安全保障上の第一の懸念事項であるとするトランプ政権の戦略観に基づくものであると考えられる。
   北朝鮮の核・弾道ミサイル開発等については、北朝鮮による核・弾道ミサイル発射実験のモラトリアムの表明、「パンムンジョム宣言」に基づく朝鮮半島の非核化へのコミットメント、豊渓里の核実験場閉鎖を含む最近の進展についての認識が示される一方で、北朝鮮に対する要求としてタオルミーナ・サミットで「完全で、不可逆的で、検証可能な方法での核・弾道ミサイル計画の放棄」とされていたものが、シャルルボワ・サミットでは「完全で、不可逆的で、検証可能な関連プログラム及び施設を含む全ての大量破壊兵器(weapons of mass destruction: WMD)・弾道ミサイルの解体」に改められた。これにより、対象が核・生物・化学(Nuclear, Biological, Chemical: NBC)兵器等の大量破壊兵器にまで拡大されるとともに関連するプログラム・施設の解体も含まれることとなり、北朝鮮に対し、より実際的な行動を要求するものとなった。
   海洋安全保障に関しては、タオルミーナ・サミットに引き続き「東シナ海及び南シナ海の状況に関する懸念」、「全ての当事者に対し、係争のある地形の非軍事化を追求することの要求」が明示され、中国による東シナ海・南シナ海における公海自由の原則に反するような行動事例、南シナ海の地形における大規模な埋立て及び軍事施設を含む関連施設の構築等を念頭に、中国の海洋進出を強く牽制する内容となった。
   ロシアについては、過去のG7サミットに引き続き、「クリミア半島の違法な併合に対する非難」が表明された。さらに、シャルルボワ・サミットでは「民主主義システムの土台を破壊し、不安定化させる行動及びシリア政府への支持の停止を求める」との文言が加えられ、ロシアに対し、ルールに基づく国際秩序に従うことをより強く求める形となった。一方で、タオルミーナ・サミットで新たに加えられた「ロシアとの相違に関わらず、地域的な危険及び共通の課題に対処するため、我々の利益となる場合には、ロシアと関与していく用意がある」との文言は、「それにもかかわらず、(中略)我々の利益となる場合には、ロシアとの関与を継続する」とされ、シャルルボワ・サミットにおいても維持された11。これは、基本的な価値観を共有しないロシアとも利害が一致する限りにおいては協力可能とするトランプ政権の現実主義的な外交方針が反映されたものと推察される。ただし、ロシアのG7復帰の可能性は示されなかった。

総括と今後の展望
   シャルルボワ・サミットの結果を総括すれば、概ねG7としての一体性を示すことに成功した一方、将来的にその一体性を低下させる可能性のある諸問題についても同時に明らかになったといえる。特に、安全保障面においては各国の意見が一致しているものの、貿易のあり方をめぐっては主張の隔たりが目立つ結果となった。
   閉幕後の記者会見で、安倍首相は「貿易をめぐって激しいやり取りがあった」と述べ、貿易のあり方をめぐる各国間の対立に言及しつつ、「首脳宣言を発出できることは大きな意義がある」、「G7が一致結束し、世界の平和と繁栄をリードしていくとの決意を示せた」として、シャルルボワ・サミットの成果を肯定的に評価した。
   G7は自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値観を共有する主要先進国のグループとして国際社会の平和と安全に貢献してきており、その一体性を保つことはルールに基づいた国際秩序を維持していくうえで重要である。シャルルボワ・サミットでは、安全保障に関する諸問題に対し、G7として一致して取り組んでいく姿勢を示すことができた。引き続き、このような協力体制を深化させていくことが望ましい。
   また、ロシアのG7復帰の可能性については、各国間で意見の隔たりが大きく、かつ我が国を含むアジア太平洋地域の安全保障環境にも大きく影響する事象であるため、引き続き注視していく必要がある。

(幹部学校企画部 企画課 国際計画班 高畠太)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 『日本経済新聞』2018年6月10日。
2 『朝日新聞』2018年6月9日。
3 G7 2018 Charlevoix, “Chair’s Summary: G7 Finance Ministers and Central Bank Governors' Meeting,” June 2, 2018, https://g7.gc.ca/en/g7-presidency/themes/investing-growth-works-everyone/g7-ministerial-meeting/chairs-summary-g7-finance-ministers-central-bank-governors; 本HPコラム106「G7財務相・中央銀行総裁会議について -G7の一体性低下への懸念-」を参照。
4 『日本経済新聞』2018年6月9日。
5 The White House, National Security Strategy, December 2017, pp. 2-3.
6 U.S. Department of Defense, Summary of the National Defense Strategy of the United States of America, January 2018, pp. 1-2; 本HPコラム096「2018米国国防戦略(National Defense Strategy)を概観する」を参照。
7 「米軍、シリア化学兵器施設への攻撃開始、英仏合同作戦」BBC、2018年4月14日、http://www.bbc.com/japanese/43763845; 本HPコラム098「シリア攻撃から読み解くトランプ大統領の戦略的メッセージ-戦略的コミュニケーションの観点からの評価―」を参照。
8 “Trump is ‘undermining’ world order the US created, says top EU official in withering attack,” Independent, June 8, 2018, https://www.independent.co.uk/news/world/europe/trump-us-eu-g7-russia-donald-tusk-summit-canada-a8390426.html.
9 「G7タオルミーナ首脳コミュニケ」外務省、2017年5月27日。
10 G7 2018 Charlevoix, “The Charlevoix G7 Summit Communique,” June 9, 2018, https://g7.gc.ca/en/official-documents/charlevoix-g7-summit-communique/.
11 2016年5月に伊勢志摩で実施されたG7首脳会合で採択された首脳宣言では、「ロシアとの対話を維持する重要性の認識」に言及しているのみである。「G7伊勢志摩サミット首脳宣言」外務省、2016年5月27日。