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 戦略研究会

  「米朝会談へ至る道程」
-半島危機2017-18を戦略的コミュニケーションの視点で読み解く-

(コラム108 2018/06/13)

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   2018年6月12日、米国トランプ大統領と北朝鮮金正恩委員長との首脳会談がシンガポールで実施され、北朝鮮の核放棄への枠組みが進展するとともに朝鮮戦争終戦への道筋が進みだした。
   しかし、ここに至る道は決して平坦ではなく、紆余曲折があった。この合意形成までの間に、トランプ大統領のツイートや北朝鮮高官による発言といった言語的メッセージ以外にも核実験の強行、空母や潜水艦の展開といった非言語手段によるメッセージ交換も盛んに実施された。
   そこで、本コラムでは、昨年春に緊張が高まり始めた頃から、どのようなメッセージが発信されたのか、戦略的コミュニケーションの観点から分析し1、軍事力がどのように国家のメッセージとして活用されたのかを考察する。

   まず、北朝鮮による核・弾道ミサイル開発の全体像をイメージするために、CSISが整理した結果を活用し、考察する。図1を見れば、金正恩体制になってから弾道ミサイル発射の頻度が高くなっていることと、2016、17年の発射数が多いことが一目瞭然である。

図1:北朝鮮によるミサイル発射状況
図1:北朝鮮によるミサイル発射状況
出所:CSIS2

図1:北朝鮮によるミサイル発射状況
図2:北朝鮮による核実験状況
出所:CSIS3

   また、図2からは、昨年実施された核実験における破壊力が桁違いであることが明確にわかる。北朝鮮は9月3日に「大陸間弾道ミサイル(ICBM)装着用の水素爆弾の実験で完全に成功した」とする核兵器研究所の声明を伝えており、初の水爆実験に成功したと考えられる4
   では、米国側はこれら北朝鮮の挑発的な行動に、どのように対処し、圧力を掛け、米朝会談まで持ち込んだのか、トランプ政権発足以降の経過を振り返りながら、軍事力を使用したメッセージを分析する。

   まず、2017年1月に発足したトランプ政権が北朝鮮に対し、強いメッセージを発し始めたのは4月以降であった。4月5日、北朝鮮の弾道ミサイル発射失敗直後の4月7日、米国はシリアに対するミサイル攻撃を実施した5。これは国内外を含め、トランプ政権としての強固なメッセージであると考える。
   トランプ大統領は米中首脳会談の夕食会で直接、習近平国家主席(以後、習主席という。)にシリア攻撃を命じたことを伝えた。これに対し、習主席は10秒間沈黙した後、通訳に「もう一度言ってほしい。」、「たった今、59発の巡航ミサイルをシリアへ発射した。あなたに知らせたかった。」習主席は長く沈黙するなど驚いた様子を見せたのち、最終的には「OKだ。」と答えた、と報道されている6。首脳会談では、北朝鮮による新たな核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を阻止することで一致。北朝鮮による「重大な挑発」があった場合、米中がそれぞれ独自の制裁を北朝鮮に科すことでも合意していることから、北朝鮮問題が両者の関心事項であったことは確認できる7
   一方、ロシアに対してもシリア攻撃の2時間前には通報し、ロシア側に被害が出ない配慮も示している8
   これらの事から、シリアへの攻撃はアサド政権に対する一義的なメッセージ以外にも、①実際にミサイルを撃ち込むことで実行力のある姿勢を国内外に発し、②ロシアには正面切ってロシアと対決する意思はないことを、③中国に対しては北朝鮮問題に協力を期待すること等、複数の相手に、複数の意味を込めたメッセージを戦略的に発信したと分析できる。

   その後、4月15日、金日成誕生105年記念日、軍事パレード実施の日に、アフガニスタンに大規模爆風爆弾(MOAB)を投下、ISのトンネル施設を破壊している。この爆弾は通常兵器としては最大規模の破壊力を有するものであり、ここでも強烈な破壊力を明示することでメッセージを送ったと解釈できる9。また、トランプ政権は前日の4月14日までに、「最大限の圧力と関与」で核放棄を迫る方針を固めた、とされている 10

図1:北朝鮮によるミサイル発射状況
図3:カール・ビンソンの推定航跡 出所:毎日新聞2017年5月7日。

   インド・太平洋方面における空母カール・ビンソンの展開にも、興味深いメッセージが読み取れる。トランプ大統領は4月8日にシンガポールに在泊していた空母の展開を決定し、北朝鮮付近への進出を命じたが、空母は最短距離では行動せず、その動静はしばらく不明であった。その後の報道によれば、空母は南シナ海を経由せずに、朝鮮半島近海へ進出した模様である。ここから読み取れるのは、米中間で近年、対立が続く海域を避けることで、中国に配慮を示し、いわば恩を売る形で北朝鮮問題への協力を要請していると読み取れる11

   その後も、国連安保理決議(8、9、12月)や両国外交声明、政府高官の発言等を通じた応酬が続く中で、空母、潜水艦の展開やB-1爆撃機による飛行、米韓、日米共同訓練等が実施され、状況に応じたメッセージが継続的に発信されていた。

   また、新たな分野としては、北朝鮮に対するサイバー攻撃を実施したことも指摘されている12
   ランド研究所の報告書では、攻勢的サイバー作戦も敵対的な相手に対する「強要力」として分類、提唱されており、こういった考えに基づく作戦であった可能性もある13

   これらの対北朝鮮活動を総括し、西岡力は「金正恩氏を追い込んだのは、軍事圧力と経済制裁だ。昨年秋頃、金正恩氏は自分の動静情報が米軍に漏れているのではないかという強い疑いを持ち、米軍が本当に自分を暗殺する軍事作戦を実行するかもしれないとおびえだした」14と評価している。

   これらの対北朝鮮活動を総括し、西岡力は「金正恩氏を追い込んだのは、軍事圧力と経済制裁だ。昨年秋頃、金正恩氏は自分の動静情報が米軍に漏れているのではないかという強い疑いを持ち、米軍が本当に自分を暗殺する軍事作戦を実行するかもしれないとおびえだした」14と評価している。

   ここに至るまで米軍が実施した、軍事力を使用したメッセージ活動には、一部に、自衛隊も共同訓練として参加した事や、自衛隊による国連安保理決議実行の為の監視活動もあった15。今後、このようなハードパワーを使用した、戦略的コミュニケーションの機会は多くなることも予想される。
   我々海上自衛官も、諸々の活動のメッセージ性を考慮するとともに、海上自衛隊が国家のメッセージツールとして何ができるのか、どのように活動するのが効果的なのか、深く研究する必要がある16

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 石原敬浩)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 戦略的コミュニケーションの定義、内容等に関しては拙稿「戦略的コミュニケーションとFDO」『海幹校戦略研究』2016年7月号(6-1)参照、 http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/review/6-1/6-1-1.pdf
2 CSIS HP, https://i1.wp.com/missilethreat.csis.org/wp-content/uploads/2017/12/North-Korea-Nuclear-Test_12.4_reduced.jpg
3 CSIS HP, https://missilethreat.csis.org/north-korea-missile-launches-1984-present
4 『読売新聞』2017年9月4日。
5 日本時間、米国東部標準時では6日夜
6 『読売新聞』2017年4月15日。
7 『朝日新聞デジタル』2017年5月22日03時01分。
8 ロシア『独立新聞』2017年4月10日。
9 『産経新聞』2017年4月15日。
10 『産経新聞』2017年4月16日。
11 『毎日新聞』2017年5月7日。
12 土屋大洋「ついに行われた米国サイバー軍の昇格 自衛隊はついていけるのか」 ニューズウィーク日本版、2018年5月10日。
13 David C. Gompert, Hans Binnendijk, “The Power to Coerce, Countering Adversaries Without Going to War,” RAND Cooperation, 2016, p8, pp28-31.
14 西岡力、『産経新聞』【正論】2018年4月3日。
15 外務省HP、「海上自衛隊による監視、北朝鮮関連船舶、違法積替えの疑い」、平成30年2月27日。
16 本コラムで紹介、分析しきれなかった項目は、『海幹校戦略研究』に掲載予定。