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 中国海軍の「リムパック2018」への招待を取り消した背景と米国防省の意図
(What Does the U.S. DOD’s Decision to Disinvite the PLA Navy from RIMPAC2018 Mean?)

(コラム107 2018/06/13)

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   米国防省は、今年6月に予定されている環太平洋合同演習「リムパック(RIMPAC: Rim of the Pacific)2018」の中国への招待を取り消した1。リムパックとは、世界で最も大規模で国際的な多国籍海軍合同演習の一つである。本稿では、その大規模かつ国際的な合同演習への中国の参加が取り消されるに至った背景と米国防省の意図について概観する。

   リムパックは、米太平洋艦隊主催の多国籍海軍による合同演習で、2年に1度実施される2。これまでに、アジア地域からも日本、インド、東南アジア諸国など多くの海軍が参加している。中国海軍は、2014年に初めてリムパックに公式参加し、引き続き2016年にも招待されている。今年のリムパック2018についても中国海軍への招待は、既に昨年の5月に米海軍により表明されていた3。しかしながら、5月23日、国防省報道官のローガン中佐(Lt. Col. Christopher Logan)の記者会見によれば、中国のリムパック参加招待の取り消された。その理由として、中国による南シナ海域、特に南沙諸島や西沙諸島での軍事拠点化が挙げられた 4
   中国海軍のリムパックへの招待の是非については、既に2016年のリムパックの準備段階からオバマ政権(当時)内で議論されていた5。中国による南シナ海での地形埋め立てが公になったからである。近年の情勢を見れば、2013年に東シナ海における中国防空識別区を一方的に宣言したり、南シナ海では、中国海軍艦艇により米軍艦艇がハラスメントを受けるなど安全保障上の懸念は、既に2014年の中国のリムパック初参加前から存在していた。さらに、2016年には、南沙諸島における中国の岩礁埋め立てが大きな問題になっていたになっていたにもかかわらず、米海軍はその年のリムパック2016に中国海軍を参加させた。
   なぜ、リムパック開催の約1か月前になったこの時期に、米国防省は中国への招待を取り消したのであろうか。中国がリムパックに初参加する前後から、今日までの米国にかかわる中国の軍事活動や安全保障に関する事象を整理する。
   2013年11月、中国国防部は東シナ海における「防空識別区」設置を宣言した6。この宣言が一方的であったこと、国際法上の一般原則である航行の自由の原則とかけ離れ、東シナ海を飛行する民間航空機にも安全上極めて影響が大きいことなどから、周辺国へ大きな波紋を呼んだ。翌12月には、南シナ海で中国艦艇が米艦艇「カウペンズ」にハラスメントを行う事案が起きた7。このような情勢の中でも米海軍はリムパック2014へ中国海軍を招待した。2014年の中国海軍の初参加は、海軍間協力の発展の第一歩だとみなされていたであろう。リムパックに参加させることによって、「米国が中国を牽制している」という中国からの批判をかわすとともに、中国と参加諸国とが国際的規範と価値を共有する絶好の機会であった。中国が招待されていない情報収集艦を派遣し、リムパック参加国の艦艇を追従・監視させる活動をしても米海軍は大きな問題に発展させることはなかった。
   2015年5月、南シナ海における中国による環礁埋め立ての様子が米国CNNテレビの取材により公になる8。同月末から開催された第14回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)では、カーター米国防長官(当時)(Ashton Carter, Secretary of Defense, United States)がスピーチの中で、中国による南シナ海での環礁埋め立てに対し強く反対する立場を示した9。このような状況の中、オバマ政権(当時)では、次期のリムパックへ中国を参加させるべきではないとの議論もあったが、結局は招待するに至った。そのリムパック2016では、中国海軍が海上自衛隊を冷遇する事案があり、海軍間の信頼と協力を重視する米海軍が懸念を示す事態にもなった10。そして、リムパック2016の開催期間に南シナ海に関する仲裁裁判所の判断がなされた。中国はその判断を「無効」として、一切無視する行動に出たのである11。今年5月には、中国がH-6K爆撃機を含む航空機をウッディー島に初着陸させた12
   米中の間の安全保障上の懸念材料は、南シナ海だけにとどまらない。今年には、アフリカのジブチにおいて、中国の拠点周辺で米軍機のパイロットがレーザー照射を受ける事案がたびたび発生し、パイロットが目を負傷する事件があった13。また、米国務省の発表によれば、中国広州にある米総領事館員が「音響攻撃」を受けた可能性があり、軽度の脳損傷を負ったとされる14

表 中国の軍事活動や安全保障に関する事象
事         象
2013 11 東シナ海に中国が防空識別区を設定する。
  12 南シナ海で中国艦艇が米艦艇「カウペンズ」に
ハラスメントを行う。
2014 6~8 リムパック2014参加。中国海軍情報収集艦で追従させる。
2015 5 中国による南シナ海での環礁埋め立てが公になる。
2016 6~8 リムパック2016参加。
  7 南シナ海に関する仲裁裁判所の判断を無視
2017 12 米国家安全保障戦略
2018 1 米国家国防戦略
2018 4~ ジブチにおいて中国の拠点周辺で米軍機のパイロットが
レーザー照射を受ける事案がたびたび発生し、パイロット
が目を負傷する。
2018 5 米国務省が中国広州にある米総領事館員が「音響攻撃」を
受けた可能性を公表する。
5 H-6K爆撃機を含む航空機をウッディー島に初着陸させ
る。
2018 6 第14回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)

(出所:筆者作成) 

   このように昨今の情勢をかんがみれば、米中間の安全保障上の懸念は、大きくなっていると判断できる。米国は、2017年12月に米国家安全保障戦略を、今年1月に米国国防戦略を発表した15。これらの中で、米国は中国を明らかに戦略的競争相手であり、対抗者であるとみなしている。トランプ政権では、経済問題や他の国との安全保障問題の領域においても、競争相手や対抗者に対して、行動をもって明確な意志を表示している。米国はロシアに対してもリムパックへ招待したことがあるが、ウクライナ情勢をめぐるロシアの動きを受けて、ロシアとの軍事交流を中断した16
   今回のリムパックへの参加の取り消しは、中国側にもインパクトを与えているはずである。2016年の参加時は、出航時から解放軍報などで連日のようにリムパック参加について報道していたほど、中国にとって意義のある重要な演習である17。また、取り消しの発表は、王毅中国国務委員兼外交部長の訪米時であった。王毅中国国務委員兼外交部長は、5月23日のポンペオ米国務長官との共同記者会見において、リムパックの招待の取り消しは、非建設的かつ軽率であり、米中の相互理解促進に不利な決定であるとともに、ともに世界大国である中国と米国は互いに海上安全に関する課題に協力して取り組むべきであると述べた18
   米国による中国のリムパック不参加という決断は、「自由で開かれたインド太平洋地域」という価値へ挑戦する中国へのメッセージであると考えられる。インド洋から南シナ海を経由し東シナ海、太平洋に至るシーレーンの安全確保は、安全保障上、日本を含むアジア諸国の死活的価値である。そして、今回の決断は、そのような価値を共有する日本を含む同盟国やパートナー国との協力や連携を強化する狙いもあるだろう。

(幹部学校防衛戦略教育研究部  戦略研究室  尾藤 由起子)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 “China Disinvited from Participating in 2018 RIMPAC Exercise,” USNI News, May 23, 2018, https://news.usni.org/2018/05/23/china-disinvited-participating-2018-rimpac-exercise; “What the Trump Administration’s Decision to Disinvite the Chinese Navy From RIMPAC 2018 Means,” The Diplomat, May 24, 2018, https://thediplomat.com/2018/05/what-the-trump-administrations-decision-to-disinvite-the-chinese-navy-from-rimpac-2018-means/.
2 “U.S. Navy announces 26th Rim of the Pacific exercise,” Commander, U.S. Pacific Fleet, May 30, 2018, http://www.cpf.navy.mil/news.aspx/110516.
3 “China among invitees to major US exercise,” Defense News, May 29, 2018, https://www.defensenews.com/naval/2017/05/30/china-among-invitees-to-major-us-exercise/; “Despite Tension with US in Pacific, China Invited to 2018 RIMPAC,” Military.com, May 31, 2017, https://www.military.com/daily-news/2017/05/31/despite-tension-with-us-in-pacific-china-invited-to-2018-rimpac.html.
4 ローガン中佐の発言前文については、“China Disinvited from Participating in 2018 RIMPAC Exercise,” USNI Newsを参照。
5 “The United Sates Shouldn’t Invite China to RIMPAC 2016 (With a Catch) ,” The Diplomat, May 6, 2015, https://thediplomat.com/2015/05/the-united-states-shouldnt-invite-china-to-rimpac-with-a-catch/ ; “What the Trump Administration’s Decision to Disinvite the Chinese Navy From RIMPAC 2018 Means,” The Diplomat, May 24, 2018, https://thediplomat.com/2018/05/what-the-trump-administrations-decision-to-disinvite-the-chinese-navy-from-rimpac-2018-means/.
6 『解放军报』2013年11月24日;「2013年11月23 日,中国国防部宣布划设东海防别区」国家海洋局海洋发展战略研究所课题组编『中国海洋发展报告(2014)』海洋出版社,2014年4 月,306-307页。
7 “Chinese warship nearly collided with USS Cowpens,” Stars and Stripes, December 13, 2013, https://www.stripes.com/news/pacific/chinese-warship-nearly-collided-with-uss-cowpens-1.257478.
8 Behind the scenes: A secret Navy flight over China’s military buildup,” CNN, May 26, 2015, https://edition.cnn.com/2015/05/26/politics/south-china-sea-navy-surveillance-plane-jim-sciutto/index.html. .
9 “Shangri La Dialogue 2015,” Asia Maritime Transparency Initiative, June 2, 2015, https://amti.csis.org/shangri-la/.
10 “Chinese RIMPAC Delegation Snubs Japanese Sailors,” USNI News, July 25, 2018, https://news.usni.org/2016/07/25/rimpac_china_japan_snub.
11 “’Nothing more than a piece of paper’: former Chinese envoy dismisses upcoming ruling on South China Sea claims,” South China Morning Post, July 06, 2016, http://www.scmp.com/news/china/diplomacy-defence/article/1986029/nothing-more-piece-paper-former-chinese-envoy-dismisses.
12 “China Lands Bomber on south China Sea Island for First Time,” Military.com, May 29, 2018, https://www.military.com/daily-news/2018/05/19/china-lands-bomber-south-china-sea-island-first-time.html.
13 “US warns pilots of laser attacks in Djibouti,” Jane's 360, April 27,2018, http://www.janes.com/article/79630/us-warns-pilots-of-laser-attacks-in-djibouti; “Two US airmen injured by Chinese lasers in Djibouti, DoD says,” Defense News, May 3, 2018, https://www.defensenews.com/air/2018/05/03/two-us-airmen-injured-by-chinese-lasers-in-djibouti/.
14 “State Department warns U.S. citizens in China after employee suffers possible sonic attack,” The Washington Post, May 23, 2018, https://www.washingtonpost.com/world/asia_pacific/state-department-warns-us-citizens-in-china-after-employee-suffers-possible-sonic-attack/2018/05/23/db7bbd44-5e68-11e8-8c93-8cf33c21da8d_story.html?noredirect=on&utm_term=.b449f8cbb2a4 ;『明報』2018年5月24日。
15 米国家安全保障戦略2018については、コラム096、2018年4月2日を参照。
16 2014年3月、米国防省のカービー報道官(当時)は、ロシアによるクリミア半島占拠を受け、ロシア軍との合同演習や当局者協議、軍艦の寄港など、一切の軍事交流を中断すると発表した。防衛省編『日本の防衛-防衛白書-』平成27年度版、2015年7月、68頁。
17 例えば、『解放军报』2016年6月16日、6月18日などを参照。
18 『明報』2018年5月25日。