海上自衛隊幹部学校

交通案内 | リンク | サイトマップ |  English

HOME / 戦略研究会 / トピックス・コラム / コラム103

 戦略研究会

 エリック・セイヤーズ「米国のインド太平洋戦略を実行に移すための斬新な15のアイディア」の日本へのメッセージ
(Eric Sayers, 15 Big Ideas to Operationalize America’s Indo-Pacific Strategy)

(コラム103 2018/05/30)

*******

   CSISアジア安全保障特別研究員補のエリック・セイヤーズがテキサス大学のホームページで「米国のインド太平洋戦略を実行に移すための斬新な15のアイディア」と題し、コメンタリーを掲載した1。セイヤーズは、米国上院軍事委員会専門職員とハリス米太平洋軍司令官付特別補佐官を務めた経験がある。このコメンタリーには、米国家安全保障戦略および米国家国防戦略に明記された米国のインド太平洋戦略をより実効的にするためのアイディアが書かれている。文中、日本について多く言及していることから、参考になる点が多く、本稿でその内容を概観する。以下が概要である。なお、米国家国防戦略については、4月2日のコラム096を参照にされたい。

   米国のアジア太平洋地域へのリバランスは、2011年、クリントン国務長官(当時)により示された。オバマ政権(当時)は、アジア太平洋への関与を継続し、リバランスを段階的に進めてきた2。そして、現トランプ政権は、就任後の約1年でブッシュ政権とオバマ政権時代のインド太平洋地域における政策継続の必要性を確認し、「自由で開かれたインド太平洋地域」における確固とした展望を示そうとしている3。これに対し、セイヤーズは、それを実現するための大胆な政策と予算上の戦略がなければ、この展望もやはりただの空っぽな概念に終わってしまうと主張する。そのために、彼は大胆ともいえる次の15のアイディアを示した。

1 数十億ドル規模のインド太平洋安全保障イニシアティブを立ち上げよう。
 欧州抑止イニシアティブが促進されたのと同様に、軍事バランスが変化しているインド太平洋で は、米太平洋軍司令部が運用上の困難に直面しているとおり、軍事力への投資が求められている4

2 太平洋統合海上任務部隊を立ち上げよう。
 1970年代、80年代にNATOにより設立された即応海上部隊がモデルとなる。この任務部隊には、 日本、オーストラリア、インド、欧州のパートナー諸国及びその他東南アジアのパートナー諸国に よって構成される。

3 アジア太平洋安全保障研修センター・西域事務所を開設しよう。
 ハワイにある当該センターでは、アジア太平洋諸国との距離的かつコストの問題が生じている。 現在、米国政府が所有している東南アジアの地所にサテライト・オフィスを設置すればよ い。

4 日本への新たな空母及び航空部隊の前方展開を検討しよう。
 今日までの数十年、日本は米空母部隊を配備させていることにより多大な貢献をしてきた。 今日、現存の10隻の他、新たに艦隊に組み入れられる原子力空母を日本が受け入れる時期は 熟している。戦域に常時空母を展開されることが可能になるのである。

5 東南アジア・パートナー諸国や同盟国との国際的な軍事教育訓練の予算を倍増しよう。
 国際的な軍事教育訓練のための財政的支援は、諸外国では、将来の軍将校たちの関係構築の ための強力な手段であると認識されている。現在、欧州や中東への財政支援額の半分であるアジ アのための財源を倍増することはそれほど難しくない。

6 オーストラリア・パースでの海軍間協力を強化しよう。
 パースにあるオーストラリア海軍のスターリング基地はインド洋および南シナ海への玄関口であ る。シンガポールの基地とともに使用すれば、太平洋軍は半年から1年計画で水上艦をローテー ションさせることができるようになる。

7 日本とオーストラリアとともに東南アジア諸国への能力支援をしよう。
 米国は、フィリピン、ベトナム、マレーシア及びインドネシアなどの国に対する海上能力構築に尽力してきた。日本やオーストラリアも同様である。この3か国で覚書に署名することにより能力構築支援のための協力を深化することが可能である。 

8 インド太平洋版REFORGER(Return of Forces to Germany)を立ち上げよう。
 REFORGERは冷戦期の対ソ連に対する戦略であったが、インド太平洋における地政学的問題と中国との対立にかんがみれば、米軍は戦域に展開するために同様の論理が必要である。

9 重要なイノベーション部門における中国人学者と大学院生への学生ビザ申請を阻もう。
 中国人学生や研究者などが米国の大学などの研究機関で機密の防衛技術を入手できる状況にある。平時の競争においても、最先端の軍民両用技術の研究開発における対処はにおける 対処は必須である。

10 インド太平洋地域における最前線のパートナーとしての台湾を保障しよう。
 米政府は、国防省や議会と包括的に地域の確たる最前線の台湾を保障するよう政策を再構築するべきである。

11 ハワイ配備のF-22戦闘機を日本へ展開させよう。
 F-22を三沢の第35飛行隊に展開させれば、第5世代航空機が当該戦域に導入されるまで、 日本は、信頼性のある戦闘力を地域に保持することができる。

12 米国・日本・オーストラリア・インド4か国の演習を開始しよう。
 4か国による協力の促進を実現するための手っ取り早い手段としては、マラバールの域を 超えて、リムパック、タリスマン・セーバー、コープ・ノース、レッド・フラッグなど現存する演習を利用するべきである。

13 日米共同開発による新しい長距離・地上発射・陸上攻撃・対艦武器装備を開発しよう。
 他の同盟国やアジア・欧州のパートナー諸国への輸出への実現可能性を秘めた日米で長距離ミサイルなどを共同開発も模索できるかもしれない。このような構想は、2018米国防戦略 (National Defense Strategy)や日本が今年末制定する防衛大綱が強調するであろう南西諸島 案件にも合致する。

14 永続的な地域的トラック1.5対話を育成しよう。
 現存のトラック対話を進化させるべきである。たとえば、日米韓3か国間対話、日豪2国間対話、日米豪印4か国間対話など追求することもできる。

15 太平洋軍をインド太平洋軍へ改名しよう。
 太平洋からインド洋まで戦域を管轄する現状に合わせ、太平洋軍をインド太平洋軍に改名すべきである。

   これらのアイディアは、セイヤーズが述べるとおり斬新なものであるが、それほど労をかけずに実現できるものも含まれている。15項目の太平洋軍の改名については、5月22日、米国防省が改名の予定について既に言及している5。彼が主張するのは、米国家安全保障戦略および米国家国防戦略が示すとおり、危機が高まっているのであるとすれば、今こそ、政府と議会は真剣にインド太平洋地域を優先させ、戦略を実現させるために官僚的に予算的に十分に配慮するときであるということである。米中両国は戦略的競争関係にあり、セイヤーズのアイディアは、まさに中国の台頭を念頭に置いている。そして、インド太平洋地域における日本の役割への大きな期待が現れている。

   今年1月、安倍政権は、防衛大綱を今年見直す方針を表明した。安倍総理は、今年3月の防衛大学校の卒業式の訓示において、防衛計画の大綱の「見直し当たっては、まず何よりも、現実から目をそらすことなく、真正面から向き合うことが不可欠です。(中略)専守防衛は当然の前提としながら、従来の延長線上ではなく、国民を守るために真に必要な防衛力のあるべき姿を見定めてまいります。」と述べている6。東アジアに位置し、日々緊張と懸念を抱える戦略環境にある日本自身の政策も今後国内外で注目されることとなるだろう。

(幹部学校防衛戦略教育研究部  戦略研究室  尾藤 由起子)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

--------------------------------------------------------------

1 Eric Sayers, “15 Big Ideas to Operationalize America’s Indo-Pacific Strategy,” War on the Rocks, April 6, 2018, https://warontherocks.com/2018/04/15-big-ideas-to-operationalize-americas-indo-pacific-strategy/.
2 第1段階では、広大なアジア太平洋地域での米軍の量的地理的態勢の強化、第2段階では、地域における防衛装備の近代化と協力関係の強化、第3段階では、地域における質的米軍体勢と投資の強化を目指した。U.S. Department of Defense, “Remarks on “The Future of the Rebalance: Enabling Security in the Vital & Dynamic Asia-Pacific,” as delivered by Ash Carter, USS Carl Vinson, San Diego, California, September 29, 2016, https://www.defense.gov/News/Speeches/Speech-View/Article/959937/remarks-on-the-future-of-the-rebalance-enabling-security-in-the-vital-dynamic-a/
3 White House, “Remarks by President Trump on His Trip to Asia,” Foreign Policy, November 15, 2017,
https://www.whitehouse.gov/briefings-statemants/remarks-president-trump-trip-asia/.
4 アーコイン前第7艦隊司令官も高まる運用上の要求による課題について言及している。Joseph Aucoin, “It’s Not Just the Forward Deployed,” Proceedings, April 2018, https://www.defense.gov/News/Speeches/Speech-View/Article/959937/remarks-on-the-future-of-the-rebalance-enabling-security-in-the-vital-dynamic-a/.
5 Tara Copp, “Indo-PACOM?Pentagon may rename US Pacific Command,” Mitritary Times, May 22, 2018, https://www.militarytimes.com/news/your-military/2018/05/21/indo-dod-may-rename- us-pacific-command/
6 「平成29年度 防衛大学校卒業式 内閣総理大臣訓示」首相官邸、平成30年3月18日、http://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2018/0318kunji.html。