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 戦略研究会

 防衛駐在官の見た中国(その22)
-中国海警は第2の中国海軍-

(コラム071 2015/09/18)

   このコラムは、筆者が在中国日本国大使館防衛駐在官在勤中に得た経験にもとづいた筆者個人の雑感をご紹介するものです。読者の皆様が、我が国の防衛・安全保障を考える上で、幾ばくかの参考となれば幸いです。

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   9月6日、読売新聞は排水量1万トンを超える中国最大の新造巡視船「海警2901」が浙江省舟山の中国海警局の港湾に係留されていることを報じた 1

(Yomiuri Onlineより)

   中国の国内報道2が事実であれば、当該新造船は海上保安庁最大の巡視船「しきしま」をはるかに凌駕する排水量1万2千トンの世界最大となる巡視船であり、中国海軍も運用しているZ-8型ヘリコプター3を搭載・運用可能であるとともに、主要武器として76ミリ砲を装備する高い捜索・攻撃能力を有した巡視船であると言える。また、当該新造船は東シナ海に配備され、続いて建造している姉妹船は南シナ海に配備されるとのことである。

中国海警と海上保安庁の違い

   中国海警について、筆者は以前、「大雑把に言えば、新たなこの組織は我が国の海上保安庁に例えられ、グローバルコモンズである海洋において日常的に外国の船舶や市民と接する中国の公権力である」4と述べた。中国の海警(China Coast Guard)も我が国の海上保安庁(Japan Coast Guard)も海上における法執行機関であることに相違はない。
   しかし、厳密に言えば、中国海警と海上保安庁とは似て非なる組織である。その最大の相違点はこれら2つの組織が軍隊・軍事力であるか否かにある。

   海上保安庁は周知の通り、軍隊・軍事力(自衛隊・防衛力)ではない。自衛隊法5では防衛出動等において特別の必要が認められる場合に、防衛大臣の統制下に入れることができるとされている。その一方で、海上保安庁法6において、海上保安庁は軍隊の機能を営むものではないとされ、海上保安庁が非軍隊・非軍事力であることを明確に謳っている。
   したがって、国家安全保障上の重要な状況において、海上保安庁が防衛大臣の統制を受けることがあっても、海上保安庁が自衛隊の部隊の一部として行動することは想定されていない。また海上自衛隊の護衛艦や掃海艇等の自衛艦が国際的に「軍艦」 であると認識されている一方で、海上保安庁の巡視船艇は国際上の「軍艦」7には該当しない。

   他方、中国の海警は中国軍を構成する軍事力(armed force)の一つと見るのが適当である。
   中華人民共和国の正規軍(いわゆる中国軍)の構成要素である武警8の一部であった辺防海警部隊(辺防海警)を前身の一つとし、かつ再編後も現役の武警将軍をトップとする海警司令部によって統一的に指揮を受ける中国海警の法執行部隊は、武警の一部であると見ることが妥当である9。したがって中国海警も中国軍を構成する要素であると見るべきである。
   少なくとも中国政府から明示的な表明がなされない限り、「中国海警は軍隊・軍事力ではない」と他国が勝手に判断することは控えるべきであろう。

   海洋における法執行機関が当該国軍隊の一部であることは中国に限ったことではなく、多くの国が採用している制度でもある。
   米国沿岸警備隊(United States Coast Guard)もアメリカ合衆国の陸海空軍及び海兵隊に次ぐ軍事力(armed force)であることが連邦法によって明示されている10。米国沿岸警備隊は、宣戦布告に際して連邦議会又は大統領の命令がある場合に海軍の一部として行動するとされている11
   そのため米国沿岸警備隊の巡視船は国連海洋法条約に言う「軍艦」である。この文脈からすれば中国海警の巡視船も「軍艦」としての礼遇を受ける資格があると見なすことも可能である。

    以上を国防の視点から簡潔にまとめれば、海上保安庁は海上自衛隊を代替したり補完したりすることはないが、米国沿岸警備隊や中国海警は米海軍や人民解放軍海軍を代替・補完する役割を担っているということである。

「海警2901」が意味するもの

   前述の中国国内報道では、「海警2901」を二つの視点から他国の艦船と比較している。 比較の第一はスケールであり、排水量と総トン数を単純には比較できないもののこれまで世界最大の巡視船であった海上保安庁の「しきしま」級巡視船(総トン数6500トン)を大きく上回る大型巡視船となるということである。

   巡視船「しきしま」は欧州からのプルトニウム運搬船を護衛する目的で建造されたものであると共に、長期連続航海や外洋における抗波性、耐洋性から大型化したものとされている。
   中国海警の活動海域が中国沿岸部から遠く離れた外洋への拡大を企図しているとすれば新造船の大型化を進めることに不思議はない。

   比較の第二は戦闘力であり、米国沿岸警備隊からフィリピン海軍に譲渡された「ハミルトン」級巡視船12の主砲である76ミリ速射砲と同規模の艦砲を「海警2901」が装備しているということである。76ミリ砲は敵の艦船や航空機・ミサイルを破壊・撃墜するための有力な艦砲として、多くの海軍の駆逐艦やフリゲイトの主砲として装備されている。海上自衛隊の護衛艦の多くも装備している艦砲である。

   一般論からすれば、海上における法執行活動における武器の使用は、海上において漁船や密貿易船等の不法行為を阻止・排除し、状況に応じて逮捕する等、警察権の手段として用いるものである。したがって海上法執行機関の船舶の多くは法執行活動に必要な口径20ミリから40ミリ程度の機関砲を装備している。

   法執行活動に76ミリ砲を用いるには、その威力は過大であるといわざるを得ない。
   自衛隊史上初めて「海上警備行動」が発令された平成11年(1999年)の能登半島沖不審船事件以降、海上自衛隊では不審舶等を停船させるための措置の一環として、不審船等に対する射撃訓練が始まった13。砲弾を目標に命中させて破壊、撃滅させるためにシステム化された76ミリ砲の射撃を、有効な停船措置を講じるために使用することに筆者を含む当時の護衛艦部隊の隊員が悪戦苦闘した思い出がある。

   同様に速力について、最大29ktのスピードを出せる「ハミルトン」級に対して、「海警2901」は22ktが最大速力であり劣勢であるとしている。ミサイルや魚雷等攻撃武器の高速化が進んだ現代の海上作戦における戦闘艦艇の総体戦闘力に占める最大速力の優先度合いはそれほど高くないことから考えると、「海警2901」は法執行活動に必要な高速力での追跡能力以上に優先すべきものがあったと見るのが妥当であろう。

   以上、前述の中国国内報道が、スケールの面で「しきしま」級巡視船をライバル視したと同時に、戦闘力の面で「ハミルトン」級巡視船を前身とするフィリピン海軍のフリゲイトをライバル視したことは、中国海警がフィリピン沿岸警備隊(Philippine Coast Guard)14ではなくフィリピン海軍を対象アクターとして念頭においていることを示すものとも言える。

   さらに、中国海警が「海警2901」型と並行して、中国海軍の最新鋭の「江島(Jiangdao)」級コルベット(056型軽護衛艦)15をモデルとした新たな巡視船も建造していることを英国軍事情報誌Jane's Defence Weeklyは報じている16

   中国海警の前身であった4つの龍17 が保有していた船舶が非武装または40ミリ機関砲以下の軽武装であったことを考えると、新たな中国海警がこのような重武装の巡視船を建造する目的は、活動範囲の拡大と共に、名実共に人民解放軍海軍を補完する第2の海軍力としての役割を目指していると見て間違いないだろう。

非対称な日本と中国のアクター

   我が国の場合、海上保安庁が自衛隊の任務を代替・補完することがない一方で、自衛隊が海上保安庁の任務を代替・補完する場合がある。それが「海上警備行動」である。
   「海上警備行動」とは、海上における法執行活動において、対象船舶等が海上保安庁の対応能力を超えると判断される場合、防衛大臣の命令によって自衛隊が実施する活動18であり、防衛出動等とは明らかに異なる法執行活動であり、防衛力(軍事力)の行使ではなく、警察力の行使である。

   平成20年(2008年)12月8日に中国海監(当時)の海洋調査船2隻が突如として尖閣諸島周辺の我が国領海内に侵入し、平成22年(2010年)9月7日の我が国領海内での中国漁船衝突以降は中国公船が従来以上の頻度で尖閣諸島海域を航行するようになり、さらに平成24年(2012年)9月14日以降、中国公船が荒天の日を除きほぼ毎日接続水域に入域するようになっている19
   そこで海上保安庁では、尖閣諸島周辺海域に接近する中国公船に対して、より的確に対応するために、平成27年度末までに尖閣諸島周辺の領海警備のための専従体制の整備を進めるとともに、更なる情勢の変化への対応力の強化を図ることとしている20

   情勢変化のスピードが海上保安庁の整備努力のスピードを超えないことを願うことは言うまでもないことであるが、その一方で海上保安庁の対応能力を超えるような状況が生起した場合には、前述の「海上警備行動」によって自衛隊が海上保安庁の法執行活動を補完・代替することも考慮しておく必要がある。

   そこで生じる筆者の懸念は、「海上警備行動」の発令によって日本側のアクターが海保巡視船から海自護衛艦に交代することを中国側がどのように認識し、どのような対応をとるのかという点である。

   具体的には、中国海警が中国軍の一部として防衛作戦(軍事活動)を行い得る組織21であるにも関わらず、中国海警の活動がどの段階で法執行活動から軍事活動へ移行するのかが明らかにされていないことから生じる不透明性である。彼らの対応の変化を、外見上から瞬時に判別するのは困難である。
   日本側が法執行機関の対応段階と認識しているにも関わらず、中国側が軍事衝突の段階に至ったと認識したとすれば、双方の認識ギャップが生じた中で中国側が対応を変化させるおそれは否定できない。

   南シナ海における中国公船等の周辺国艦船等への攻撃的な対応22を見る限り、中華人民共和国における武器使用のハードルは我が国のそれよりもはるかに低い。

   また、「海上警備行動」下の護衛艦の活動が巡視船のそれと同様に法執行活動であることや、日本の意図を中国の中央が正しく理解していたとしても、現場の中国海警巡視船の船長がこれを正しく理解することができるのかが疑問である。中国海警の場合も人民解放軍と同様に指揮命令のメカニズム、特に中央のコントロールと現場の自由裁量がどのようになっているのか不明確である。

   さらに、2001年(平成13年)の海南島沖公海上空における米海軍EP-3Eへの中国海軍戦闘機の空中衝突や、2009年(平成21年)の海南島沖公海上における米海軍インペカブルへの中国艦船の進路妨害などの蛮勇と言える行動は、シーマンシップなどと一般的に称されている国際標準のプロフェッショナルな態様とは程遠い。

   彼らが日本側の対応を誤解して軽々にエスカレーション・ラダーを上げることのないように、我々も細心の注意が必要となるだろう。

   この点において解決策の一つとして考えられるのが、CUESの適用範囲の拡大であろう。
   CUES(Code for Unplanned Encounters at Sea)とは、洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準として平成26年(2014年)に中国・大連において海上自衛隊を含む西太平洋諸国海軍のリーダーの間で合意された海上における行動規範である23。現状ではこの規範は加盟国海軍の艦艇及び航空機の間でのみ有効とされているものであるが、これを加盟国の海上法執行機関の艦船や航空機に拡げることができれば、平素からのコミュニケーションが期待できるのではないだろうか。

   また日中二国間に限定してみれば、防衛省・自衛隊と人民解放軍との間で進められている日中海空連絡メカニズム24で既に合意され、早期の運用開始が期待されている艦艇・航空機間の直接通信の適用範囲を海上保安庁や中国海警にまで拡げることも解決策の一つかもしれない。

輿論戦に備えて

   2012年(平成24年)4月8日、スカボロー礁付近においてフィリピン海軍艦艇が中国の漁船を拿捕したことに対し、中国海監(当時)の船艇がフィリピン海軍艦艇の進行を阻止・排除した事件があった。この時、中国ではフィリピンの「軍艦」が中国の漁船や公船を苛めたかのようの報道がなされた。しかし実際の「軍艦」は小さな旧式の砲艦であり、現場では中国側のパワーが圧倒していたと言われている。
   また、平成22年(2010年)9月7日に尖閣諸島領海内で発生した中国漁船による海上保安庁巡視船への衝突事件の場合も、当初、中国は日本の公船が中国の漁船に体当たりをしたかのような報道を行った。

(「海上保安レポート2014」より)

   「海上警備行動」によって、尖閣諸島周辺海域に接近する中国海警巡視船に対する領海警備を海自護衛艦が担う場合、外形的には「日本の軍艦と中国の公船が対峙」している体となる。我々としては適時適切かつ客観的な情報公開と情報発信によって、国際社会の理解と共感を得る努力が求められることになる。

まとめに代えて

   中国在勤中に尖閣諸島や東シナ海問題を中国海軍や中国海監の関係者等と議論をすると、必ず彼らは次のような問いかけをしてきた。

   「どのような状況になると護衛艦は火を噴くのか(主砲やミサイルを発砲・発射するのか)?」

   ある人は、中国の行動を日本がどこまで我慢・許容できるのか知りたかったのだろう。しかし、別の人は、日本を挑発する方法を知りたかったのかもしれない。
   当時、中国の海上法執行機関は第二の海軍力から程遠い存在であった。しかし、今日の海警は第2の海軍力を目指し始めている。もし再会の機会があるとすれば彼らはどのような問いを投げかけてくるだろう。

(幹部学校 山本 勝也) 

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1 Yomiuri Online「中国最大の巡視船、尖閣周辺で『主権』誇示か」、http://www.yomiuri.co.jp/world/20150905-OYT1T50100.html、2015年9月6日アクセス。
2新浪军事「中国万吨海警船火力世界第一 但与菲对抗不占优中国の1万トン級の海警船の火力は世界一、しかしフィリピンと対抗するには優位ではない)」
http://mil.news.sina.com.cn/2015-06-03/1536832309.html、2015年9月6日アクセス。
3Z-8ヘリコプター:フランスのSA321Jaシュペル・フルロンを改良・国産化したものであり、中国海軍では対潜哨戒、早期警戒、物資・人員輸送、捜索救難等様々なタイプを生産し運用されていると言われている。
4コラム059「国家海洋局と中国海警局」参照
5自衛隊法第80条
6海上保安庁法第25条
7国連海洋法条約第29条:「この条約の適用上、「軍艦」とは、一の国の軍隊に属する船舶であって、当該国の国籍を有するそのような船舶であることを示す外部標識を掲げ、当該国の政府によって正式に任命されてその氏名が軍務に従事する者の適当な名簿又はこれに相当するものに記載されている士官の指揮の下にあり、かつ、正規の軍隊の規律に服する乗組員が配置されているものをいう。」
8中華人民共和国国防法第22条では、「中国の武装力量は、中国人民解放軍現役部隊及び予備役部隊、人民武装警察部隊、民兵組織からなる」とされている。「武装力量」の英訳はarmed forcesであり、国際法におけるarmed force(s)の日本語訳は「軍隊」である。この論に立てば、人民武装警察は中国の正規軍を構成する一つであることは間違いない。
9コラム059「国家海洋局と中国海警局」参照
10合衆国法典第10編第101条
11合衆国法典第14編第3条
12譲渡を受けたフィリピンは、海軍のフリゲイトとして運用している。
13 防衛省・自衛隊では、不審船に対処するため、装備・組織面において効率的・効果的な対応能力の向上を図った。特に、小型水上目標に対する射撃能力の向上としては、射撃指揮装置の改善、高性能20ミリ機関砲に対する水上射撃機能の付加、護衛艦への12.7ミリ機関銃の整備、実目標射撃訓練等が挙げられる。詳細は、防衛省HP「平成14年度 政策評価書(総合評価)不審船対処関連事業」参照。
http://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/14/sogo/honbun/02.pdf, 2015年9月14日アクセス。
14フィリピン沿岸警備隊:1998年(平成10年)、海軍から分離し運輸通信省の傘下で再編された海上法執行機関。海上保安庁等が能力構築に協力している。
15江島(Jiangdao)級コルベット:中国では「056型軽護衛艦」と呼ばれている。ちなみに中国語で「護衛艦」とはフリゲイトの訳であり駆逐艦とは区別して表記される。その結果、「ひゅうが」型・「いずも」型護衛艦(DDH)を中国語で紹介する際に、中国メディアが日本語の「護衛艦」をそのまま流用することで一般の中国人の理解を複雑なものにしているとも言える。
16 HIS Jane’s 360, “China building coastguard ship based on Type 056 corvette hull”, http://www.janes.com/article/46317/china-building-coastguard-ship-based-on-type-056-corvette-hull、2015年9月6日アクセス。
174つの龍:辺防海警(公安部・武警)、中国海監(国家海洋局所属)、中国漁政(農業部所属)及び中国海関(税関所属)
18<自衛隊法第82条br/> 19外務省HP「尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処」http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/page24_000162.html、海上保安レポート2011「中国海洋調査船「海監46号、海監51号」による尖閣諸島領海内侵入事案(平成20年12月8日)http://www.kaiho.mlit.go.jp/info/books/report2010/html/tokushu/p012_01_01.html、2015年9月6日アクセス。
20海上保安レポート2014「領海警備のための海上保安庁の体制強化」http://www.kaiho.mlit.go.jp/info/books/report2014/html/tokushu/toku14_01-3.html、2015年9月6日アクセス。
21中華人民共和国人民武装警察法第2条第1項:「人民武装警察部隊は国家が付与した安全保衛任務、防衛作戦、捜索救難、国家経済建設への参加等の任務を担当する。」と記述されると共に、「人民武装警察は国家武装力量の構成部分である。」
同法第16条:「人民武装警察部隊は関連法律、行政規定及び国務院と中央軍事委員会の関連規定に基づいて防衛作戦、捜索救難、国家経済建設への参加等の任務を執行する。」
22 防衛省HP「南シナ海における中国の活動」
http://www.mod.go.jp/j/approach/surround/pdf/ch_d-act_20150529.pdf、2015年9月6日アクセス。
23コラム063「中国海軍と海軍コミュニティー」参照
24コラム068「海空連絡メカニズムとホットライン」参照


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。