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 戦略研究会

 2つのオフショア戦略

(コラム049 2013/12/19)


 オフショアと冠した戦略には、冷戦後の米国の将来戦略の議論のなかで展開されたオフショア・バランシング戦略と、エアシー・バトル構想への対案として2012年に提案されたオフショア・コントロール戦略がある。両者は異なるものであるが、「オフショア」故に混同されることも多いことから、この場を借りて両者の違いについて論じてみたい。


オフショア・バランシング戦略

 レイン(Christopher Layne)は2012年に米国防省が発表した新国防戦略指針「米国のグローバルなリーダーシップの維持:21世紀の国防の優先事項」を、彼が提唱するオフショア・バランシング戦略を体現するものだと主張した1。レインやミアシャイマー(John J. Mearsheimer)ら著名なリアリスト達が主張するオフショア・バランシング戦略とは、リアリズムの伝統に立脚した戦略である。

 オフショア・バランシング戦略において、米国が米州以外の他の地域で覇権的優位を追求することは、他の国々が連携して米国に対抗することを惹起するため否定される。そして、米国の戦略的利益はユーラシアにおける覇権国の台頭をヘッジすることにあり、米国は大陸における闘争に直接関与することは極力回避し、これを同じ地域の他の大国によって抑止させるべきと主張する2。このため、優越(Primacy)戦略と異なり、オフショア・バランシング戦略は、米国が内部(EU、ドイツ、日本)や外部(中国、ロシア)に新たな大国が台頭することを許容する。許容しないのは、世界や地域でこれらの大国が覇権国家に成長することである。ミアシャイマーは、大国にとっての究極の目標は、地域覇権を達成しつつ、他の地域に競争相手が台頭してくることを防ぐことにあると述べている3。したがって、オフショア・バランシング戦略において、北米・南米において覇権国家としての地位を既に確立している米国は、他の地域であるユーラシア大陸における勢力争いに可能であれば傍観を決め込むが、抑止が破綻し勢力均衡が崩れた場合には直接介入して、新興国家が覇権国家に成長することを阻止すべく直接調整(balancing)を試みる4

 この様に、オフショア・バランシングは負担分担(burden sharing)ではなく、負担委譲(burden shifting)を基盤とする大戦略である。すなわち、域内におけるパワー・バランスを維持するのは米国ではなく負担を委譲された国の役割である。そして、これらの国は自国の安全保障と域内の安定を米国に期待するのではなく、自らの責務で維持し、米国からの責任転嫁(buck-passing)を受け止めるバック・キャッチャー(back-catcher)となることが求められる5。なお、米国であれ域内の大国であれ脅威に直面した国家は常に直接調整(バランシング)よりも責任転嫁を試みるが、これは脅威を及ぼす潜在的な覇権大国と直接対決を避けられるためであり、また、バック・キャッチャー(責任転嫁された国)と脅威を及ぼす国とが長期消耗戦に入れば自国は結果として相対的に国力を増大させることができるからである6

 この様にオフショア・バランシング戦略はバランス・オブ・パワーの一類型であり、理念や価値観ではなく、冷徹なリアリズムに裏打ちされた、ある意味、不道徳というよりも無道徳というバランス・オブ・パワーの本質を内在した戦略である7


オフショア・コントロール戦略

 これに対してオフショア・コントロール戦略とは、アクセス阻止・エリア拒否の脅威に対抗するために開発されたエアシー・バトルを批判し、これに代わるべく米国防大学のハメス(T.X. Hammes)が提案する戦略である。彼はエアシー・バトル構想を作戦構想に過ぎず戦略的視点が欠落しているために勝利への理論とはならないと主張し、必要なのは対中「軍事戦略」であり、自らが提唱するオフショア・コントロール戦略がその回答であると主張している。

 ハメスはエアシー・バトルを、以下の4点から批判する。すなわち、エアシー・バトルは作戦構想に過ぎず戦略レベルの思考に欠けていること、核エスカレーションへの配慮が不十分であること、勝利の定義が明快でないこと、ステルス戦闘機等の必要コストが膨大であり実現が困難であることである。

図1 ハメスの定義する第1及び第2列島線8


 このため、オフショア・コントロール戦略は拒否、防衛、支配の3本柱で中国と戦う9。第1に、中国による第1列島線内側の海洋の利用を潜水艦や機雷等で拒否する。第2に、第1列島線上の海と空を防衛する。ここで、中国は本土から遠く離れた場所での攻撃を強いられる一方、米国と同盟国は自らの領域において統合化された海空防衛網を形成して戦うことが出来る。第3に、第1列島線の外側の空と海を支配するが、これには中国経済に対する「遠距離封鎖」が含まれる。オフショア・コントロール戦略は、中国経済を支える大型タンカーや超大型コンテナ船を、海軍及び空軍のみならず、借り上げた商船に乗り込んだ陸軍も用いて通航を阻止する10。これは中国の貿易を完全にシャットアウトするものではないが、そのコストをビジネスが中国から逃げ出してどこか別のところにいくまで高めるものである11。中国の輸出入はGDPの50%を占めるが、中国共産党の正統性は経済成長を基盤としているので、経済圧力は紛争の解決に向けた大きな圧力となるし、封鎖の外側で世界経済が再編されてしまえば更に事態は悪化する12

図2 オフショア・コントロールのチョークポイント13


 中国の領域に対する縦深攻撃は実施しないが、これは核の応酬へとエスカレートする可能性を低減し、戦争の終結を容易にするための配慮である。

 ハメスは中国共産党の打倒や、中国の降伏は核の使用に繋がる可能性があり目的としては余りに危険であると指摘する。オフショア・コントロール戦略では中国が経済的に疲弊して戦争の終結を求めるまで経済的に窒息させる14。オフショア・コントロールは中国を降伏させたり、共産党を転覆させることを狙いとはしておらず、中国に軍事的手段を用いては目的を達成することはできないのだということを理解させ、紛争前の現状を回復する15。この戦略における米国の戦争目的は、敵対行為を終了させ、戦争開始前の境界線へ回帰すること、すなわち「旧に復する」ことにある。オフショア・コントロール戦略は、中国共産党が過去の戦争(中印国境紛争、朝鮮戦争、中ソ国境紛争、中越戦争)を終結させた時の様に、中国が「敵に教訓を与えた」と宣言して戦争を終わらせることを狙いとしているのである。


2つのオフショア戦略の比較

 結論めいたことを先に述べてしまえば、オフショア・バランシングとオフショア・コントロールは双方共に米国で提唱されている戦略であるが、戦略のレベルが異なり、また、オフショアという共通の単語が用いられているが、その意味するところが異なる等、本質的に別のものである。まず、戦略のレベルに注目すると、ルトワック(Edward N. Luttwak)が、戦略のレベルには下層から技術、戦術、作戦、戦域戦略、大戦略の5つのレベルがあり、究極の目的は最上層の大戦略レベルで達成されると述べているが16、この戦略の垂直構造で言えば、オフショア・バランシングは大戦略であり、オフショア・コントロールは一段下がった戦域戦略に該当する。

 また、オフショア・コントロールは米中2大国を中心とする2極対立が紛争に発展した場合の収束を主軸においているが、オフショア・バランシングは多極間のシステムであり、また、重要な利益が相互で理解されている場合は、対立は必ずしも紛争に発展せず、協調的である可能性もある。更に言えば、オフショア・コントロール戦略は同盟国への保証を重視するが、オフショア・バランシング戦略ではバランサーの関心はバランスの維持にあり、その意味ではバランサーは傍目には無節操に、敵と味方の選択を変転させる可能性がある。

 オフショアのペリメーター(外縁部)についても、オフショア・コントロール戦略の「オフショア」は第1列島線という明確な概念上のラインを境界線として線を引いているが、オフショア・バランシングのオフショアは、大陸におけるバランス・オブ・パワーに海洋を隔てて関与するという距離感の概念であり、明快なパワーの境界線が地図上には存在しないという点も両者の差異である。

 この様に、同じ「オフショア」という言葉を冠しているが、オフショア・バランシング戦略とオフショア・コントロール戦略は時間的、空間的、地政学的枠組みが異なる戦略なのである。


(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室長 平山 茂敏) 


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1 Christopher Layne, “The (Almost) Triumph of Offshore Balancing,” The National Interest, January 27, 2012.
2 Christopher Layne, “Offshore Balancing Revisited,” The Washington Quarterly, spring 2002, p. 245; Christopher Layne, “The (Almost) Triumph of Offshore Balancing.”
3 John J. Mearsheimer, The Tragedy of Great Power Politics, W. W. Norton & Company, 2001, pp. 236-237; ジョン・J・ミアシャイマー『大国政治の悲劇』奥山真司訳、五月書房、2007年1月、308頁。
4 Ibid.
5 Christopher Layne, “Offshore Balancing Revisited,” pp. 245-246.; Christopher Layne, “The (Almost) Triumph of Offshore Balancing”; John J. Mearsheimer, The Tragedy of Great Power Politics, pp. 267; ミアシャイマー『大国政治の悲劇』345頁。
6 John J. Mearsheimer, The Tragedy of Great Power Politics, p. 267; ジョン・J・ミアシャイマー『大国政治の悲劇』345頁。
7 モーゲンソー『国際政治』新装版、現代平和研究会訳、福村出版、1998年、203頁。
8 T.X.Hammes, “Offshore Control: A Proposed Strategy,” Infinity Journal, volume2, Issue 2, Spring 2012, p. 11.
9 T.X.Hammes, “Strategy for an Unthinkable Conflict,” The Diplomat, July 27, 2012, http://thedipolomat.com/2012/07/military-strategy-for-an-unthinkable-conflict/ Accessed November 29, 2013.
10 T.X.Hammes, “Offshore Control: A Proposed Strategy,” pp. 11-12; T.X. Hammes, “Offshore Control: A Proposed Strategy for an Unlikely Conflict,” Strategic Forum, National Defense University, SF No. 278, June 2012, pp. 4-5.
11 T.X. Hammes, “Sorry AirSea Battle Is No Strategy,” The National Interest, August 7, 2013.
http://nationalinterest.org/print/commentary/sorry-air-sea-battle-is-no-strategy-8846/ Accessed August 19, 2013.
12 T.X. Hammes, “Offshore Control vs. AirSea Battle: Who Wins?,” The National Interest, August 21, 2013.
http://nationalinterest.org/commentary/offshore-control-vs-airsea-battle-who-wins-8920/ Accessed September 14, 2013.
13 T.X.Hammes, “Offshore Control: A Proposed Strategy,” p. 11.
14 Ibid., pp. 4-5.
15 T.X. Hammes, “Sorry AirSea Battle Is No Strategy,” T.X.Hammes, “Strategy for an Unthinkable Conflict.”
16 Edward N. Luttwak, Strategy: The Logic of War and Peace, The Belknap Press of Harvard University Press, 2001, pp. 87-91.


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。