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 戦略研究会

   米海軍病院船マーシーと世界の病院船事情

(トピックス062 2018/6/25)

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   本年6月10日、米海軍病院船マーシーが日本に初寄港した。海上自衛隊はマーシーの日本寄港中に日米衛生共同訓練を実施した。また、6月19日には内閣府(防災担当)主催によりマーシーの一般見学会と米国の災害医療等に関するシンポジウムが開催された。本船の寄港について、「船舶を利用した災害医療を考える機会にしたい。知見を生かし、大規模災害時の医療体制の確保を進めたい」と衆議院予算委員会において安倍首相が答弁するなどi、病院船に関する注目が集まっているなか、本稿では、病院船マーシーと世界の病院船事情について紹介する。
   現在、米海軍は2隻の本格的な専用病院船を保有している。米海軍の病院船マーシー級は、サン・クレメンテ級タンカーを改造した世界最大の病院船で、1986、87年に1隻ずつ就役した。入院用ベッド1,000床、手術室12室など大病院並みの医療施設を備え、さらに飛行甲板と簡易型ヘリコプター格納庫を有している。通常は約70名の少数のスタッフで運用しているが、有事に各地から民間人を含む約1,200名のスタッフが5日以内に招集され、出港すると約90日の行動が可能と言われているii。満載排水量69,552トン、全長272.6メートル、主機蒸気タービン2基、1軸、出力24,500馬力、速力17ノット、乗員1,268名(うち医療スタッフ820名)となっている。1番船マーシー(Mercy T-AH-19)の母港は西海岸のサン・ディエゴであり、2番船コンフォート(Comfort T-AH-20)の母港は東海岸のノーフォークである。
   マーシーは、2004年のスマトラ沖地震被害に対する医療支援活動、06年のジャワ島地震被害に対する医療支援活動に、コンフォートは、05年のハリケーン・カトリーナの被害に対する医療支援活動、10年のハイチ沖地震被害に対する医療支援活動に参加している。また、通常の訓練において偶数年度はマーシーがPacific Partnership(東南アジア)に、奇数年度はコンフォートがContinuing Promise(カリブ・中南米)に参加している。
   なお、Pacific Partnershipは2007年より行われており、米海軍を主体とする艦艇が、地域内の各国を訪問して、医療活動、文化交流などを行い、その際に各国政府、軍、国際機関、NGOとの協力を通じ、参加国の連携強化や災害救援活動の円滑化などを図る活動である。海上自衛隊は、同活動の開始当初から医官等を派遣しており、2010年以降、艦艇を派遣し、同活動に参加している。本年実施されたPacific Partnership 2018には5月22日~6月2日の間、輸送艦おおすみが派遣され、マーシーとともにベトナム(カムラン湾)での活動に参加し、関係国との間の相互理解及び協力の促進を図った。
   他方、米国以外の国に目を向けると、まず中国海軍が1隻の本格的な専用病院船を保有している。最大のアンウェイ級は満載排水量23,000トン、全長180.0メートル、入院用ベッド300床、手術室8室を有する。このほか中国海軍は、兵員輸送艦を改装した満載排水量2,150トンの小規模な病院船であるコンシャ級2隻を保有している。アンウェイ級病院船は、アデン湾で活動中の中国海軍艦隊に対する医療支援、ジブチ・ケニア・タンザニア・セーシェル・バングラデッシュに対する医療支援活動である「調和の使命2010」に従事した。
   ロシア海軍は3隻の本格的な専用病院船を保有する。ロシア海軍の病院船オビ級は、1981年、89年、90年に1隻ずつ就役した。満載排水量11,570トン、全長152.3メートル、入院用ベッド100床、手術室7室を有する。1番船イェニセイ(Yenisei)、2番船スヴィリ(Svir)、3番船イルティシ(Irtysh)のうち、3番船イルティシが太平洋艦隊に配備されている。  本格的な専用病院船を保有する国は上記の3か国である。その他、病院船としての能力はそれほど高くはないものの専用病院船を有する国の例としては下記の各国が挙げられる。
   インドネシア海軍は1隻の病院船を保有する。インドネシア海軍の病院船DRソーホーソ(DR Soehorso)は、2003年に中古のドック型揚陸艦を改装し就役した。満載排水量11,500トン、全長122.0メートル、病院船としての要目は明らかになっていない。
   ベトナム海軍は1隻の病院船カン・ホア(Khanh Hoa HQ-561)を保有している。全長70.6メートル、病院船としての要目は明らかになっていない。本船は、インドネシア海軍主催の多国間海軍演習コモドに複数回参加している。このほか、ミャンマー海軍及びスペインが小型の病院船を保有している。また、イギリス海軍のように有事に商船を徴用し病院船として活用する国もあるiii
   このように、本格的な専用病院船を保有している国は3か国と少ないが、多くの国では、専用の病院船ではないものの医療機能を備えた多目的艦船が使用されている。我が国も同様であり、医療機能を備えた主要な海上自衛隊の艦艇としては、「いずも」・「ひゅうが」型護衛艦、輸送艦、「ましゅう」型補給艦、掃海母艦、潜水艦救難艦、砕氷艦、「かしま」型練習艦があげられるiv
   マーシーをはじめとする軍用病院船は、もともと、傷者、病者及び難船者に援助を与え、それらの者を治療し、輸送することを唯一の目的として国が特別に建造し、又は設備した船舶であり、国際法上攻撃又は捕獲から免除されるv。つまり、戦時においても安全を保障された中で傷病者への医療行為が行える軍用船である。従って、マーシーの主任務は戦時における米軍傷病兵への医療支援である。湾岸戦争においては、イラク軍のクウェート侵攻に対応するデザートシールド作戦から作戦に参加した。半年間もの長期間にわたり多国籍軍の傷病兵690人を収容し、300件もの手術を実施したvi
   このように、米海軍はマーシー級を前方展開兵力に対する医療活動を目的に運用しているが、病院船は、デュアルユースの典型的なものであり、平時においては、過去の各種災害で被災民の医療活動等に出動しているほか、各種国際訓練に参加している。病院船は各国の事情に応じて、建造、運用されていると言えようvii

(幹部学校運用研究部ロジスティクス研究室 石原明徳)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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i 196国会参予算7(2018.3.8)
ii 三戸恵一郎、内田剛史、渡辺千之「わが国の病院船とその構想」『東亜大学紀要』15巻、2012年1月
iii 笠松正憲「調査室だより」『名古屋医報』2011年8月1日
1982年のフォークランド紛争では、イギリス海軍は客船ウガンダを徴用し病院船に改装、運用した。また、現在も平時から客船・貨物船の徴用計画を策定している。
iv 「わが国の病院船とその構想」
海上保安庁においても巡視船「いず」等、医療設備を有する船艇を保有している。
v 「海上にある軍隊の傷者、病者及び難船者の状態の改善に関するジュネーヴ条約(第二条約)」第22条、34条
   人道的任務を逸脱して有害な行為を行い合理的な期限を定めた警告を無視した行為を除き、その保護は消滅しない。 また、1994年の「海上武力紛争に適用される国際法サンレモ・マニュアル」52項では病院船を最終手段として攻撃することができる条件を提示している。
vi “MERCY HISTORY”,For the next six months,MERCY provided support to the muitinational allied force.She admitted 690 patients and performed almost 300 surgeries. http://www.mercy.navy.mil/History.html, accessed June 19,2018
vii 軍用病院船ではない民間病院船として、オーストラリアの慈善団体マーシー・シップスが1隻の専用船を保有している。アフリカ マーシー(Africa Mercy)は2007年にフェリーを改装して就役した。排水量16,572総トン、全長152.0メートル、入院用ベッド80床、手術室5室を有する。また、マーシー・シップスは排水量37,000総トン、全長174.0メートル、入院用ベッド154床、手術室6室を有する新船を建造中である。