海上自衛隊幹部学校

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 戦略研究会

 第17回シャングリラ会合から
-マティス国防長官の発言を読み解く-

(トピックス061 2018/6/19)

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   6月1日(金)から3日(日)までの間、シンガポールにおいて英国国際戦略研究所(The International Institute for Strategic Studies: IISS)が主催する第17回アジア安全保障会議(第17回シャングリラ会合)が開催された。インドのモディ首相をはじめ、アジア各国及び域外からの国防大臣、参謀長級の軍人等が一同に会して、安全保障に関連したスピーチや討議等が行われた。
   本稿においては、米国のマティス国防長官のプレナリー・セッションにおける発言を読み解き、米国の安全保障戦略について考察する1
   セッションの冒頭、マティス国防長官は、「自由で開かれたインド太平洋戦略(the Free and Open Indo-Pacific Strategy)」の共有がセッションの主目的であると述べた。
   米国の「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、2017年11月にベトナムのダナンで開催されたAPEC会議でのスピーチにおいてトランプ大統領が提唱したものであるが2、その原型は安倍首相が2016年8月に実施された第6回アフリカ開発会議(TICAD Ⅵ)で打ち出した「自由で開かれたインド太平洋戦略」である3
   セッションにおいて、マティス国防長官は、2017年12月、2018年1月にそれぞれ米国が発出した「国家安全保障戦略(National Security Strategy)」、「国家防衛戦略(National Defense Strategy)」において、インド太平洋地域が継続的な米国の安定、安全、繁栄に不可欠であると位置づけられているとして、その重要性を強調するとともに、「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、それらの戦略の一部分をなすものであると述べた。以下、細部について言及された内容について紹介する。

   マティス国防長官は、セッションにおいて、インド太平洋地域における経済の動脈としての海洋の利用、同盟国及びパートナー国とのインターオペラビリティーの向上、関係国との安全保障上の協力、民間主導の経済成長等について重要性を述べた。特に、インドとの関係について、「米国はインドが地域及びグローバルな安全保障において果たすことができる役割を評価し、インドとの関係を共通の戦略的利益、共通の価値観、ルールに基づく国際秩序の尊重等に基づく世界最大の2つの民主主義国家の間の自然なパートナーシップととらえている」と述べ、「自由で開かれたインド太平洋戦略」におけるインドのパートナーとしての役割を強調した。また、米国の「太平洋軍」から「インド太平洋軍」への名称変更についても、インド洋地域で増大しつつある重要性を考慮し、その戦略の焦点をより正確に表すためであるとした。
   一方、マティス国防長官は、南シナ海で中国が進めつつある軍事化を引き合いに、「中国の南シナ海政策は「自由で開かれたインド太平洋戦略」の開放性と明確な対照をなしている」と述べた。さらに、中国が進める南沙諸島の軍事化は、2015年の米中首脳会談で習近平国家主席が南沙諸島の軍事化を進めないと確約したことと矛盾しているとして中国を非難した4。また、マティス国防長官は、米国が6月から8月にかけて実施が予定されている環太平洋合同演習(RIMPAC2018)に中国を招待しなかったことにも言及し、5月に中国が南沙諸島に地対艦ミサイル及び地対空ミサイルを配備したことが直接のきっかけになったと述べ5、北朝鮮への言及とは異なり、中国へ向けられたメッセージは辛辣であった。

   マティス国防長官のセッションにおける発言の構成比率が、「インド・太平洋戦略」が7割、「対中国政策」が2割、「対北朝鮮政策」が1割であったことからも、米国は、共通の価値観を持った同盟国・パートナー国との協力関係を深化させ、インド太平洋地域においてルールに基づく国際秩序を維持強化していくことへの強いコミットメントを示した。また、海洋安全保障について、インド太平洋地域の健全な発展のためには海洋への自由なアクセスが不可欠であるとの認識に基づき、海洋における法の支配の確立の重要性を強調した。つまり、米国は、この地域の健全な発展を主導していくという強い意志を示したと言えよう。
   米国の「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、我が国の「国家安全保障戦略」及び「自由で開かれたインド太平洋戦略」と方向性を一つにするものである。今後、日米が一体となって、インド、オーストラリア、韓国、ASEAN諸国等のパートナー国と協力しつつ、インド太平洋地域においてルールに基づく国際秩序を確立し、平和と安定を保っていくことが、この地域の発展に不可欠となるだろう。

(海上自衛隊幹部学校企画部 企画課 国際計画班 白坂直己)

(本トピックスに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 “U.S. Department of Defense, “Remarks by Secretary Mattis at Plenary Session of the 2018 Shangri-La Dialogue,” June 2, 2018, https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript-View/Article/1538599/remarks-by-secretary-mattis-at-plenary-session-of-the-2018-shangri-la-dialogue/.
2 アレックス・ウォン米国務次官補代理(東アジア・太平洋担当)によれば「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、政治・経済・社会・安全保障全般にわたり「自由」と「開放」を国際・国内の双方のレベルで実現する包括的な戦略である。同戦略の「自由」とは、国際レベルにおいては他国から強制されることなく主権を行使することが可能な状態であり、国家レベルにおいては、社会において、適切な政府の統治、基本的人権の尊重、透明性の確保、低い汚職率等が実現できている状態である。また、「開放」とは、海上及び航空交通路の開放性、開かれたロジスティックスとそれを実現するインフラストラクチャ―の充実、開放的で自由・公正・相互互恵的な貿易、投資環境の開放性等を意味する。The White House, “Remarks by President Trump at APEC CEO Summit,” November 10, 2017, https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-president-trump-apec-ceo-summit-da-nang-vietnam/; U.S. Department of State, "Briefing on The Indo-Pacific Strategy," April 2, 2018, https://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2018/04/280134.htm.
3 外務省『外交青書2017』2017年、15頁。
4 習近平国家主席は、2015年9月にホワイトハウスでオバマ大統領と実施した共同会見で、「中国は南沙諸島の軍事化を追求する意図はない」と述べている。The White House, “Remarks by President Obama and President Xi of the People's Republic of China in Joint Press Conference,” September 25, 2015, https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2015/09/25/remarks-president-obama-and-president-xi-peoples-republic-china-joint.
5 マティス国防長官は、2か月前までは中国をリムパックに招待することを検討していたが、「1か月前の出来事」により招待を取りやめたとしている。5月2日、米国のCNBCテレビが、中国が南沙諸島のミスチーフ礁、ファイアリークロス礁、スビ礁に地対艦ミサイル及び地対空ミサイルを配備したことを報じている。 “China quietly installed defensive missile systems on strategic Spratly Islands in hotly contested South China Sea”, CNBC, May 2, 2018, https://www.cnbc.com/2018/05/02/china-added-missile-systems-on-spratly-islands-in-south-china-sea.html.