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 戦略研究会

 「『米太平洋軍』が『米インド太平洋軍』へ名称変更」
― 米のインド太平洋戦略の具現化の道 ―

(トピックス060 2018/6/6)

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   2018年5月30日(現地)、ハワイ州パールハーバー・ヒッカム統合基地において、米太平洋軍司令官の指揮官交代式が行われた。その席上で、マティス米国防長官は、2018米国国防戦略(National Defense Strategy)1を踏まえながら、太平洋とインド洋における同盟関係やパートナーシップが、地域の安定を維持するためには重要であると述べた後、「米太平洋軍(USPACOM; U.S. Pacific Command)」から「米インド太平洋軍(USINDOPACOM; U.S. Indo-Pacific Command)」への名称変更を公表した2。また、翌日の米国防省のプレスブリーフィングにおいても、名称変更は地域の戦略的な重要性を強固にするためである、と報道官が補足している3

   米インド太平洋軍は、全世界を網羅するよう6個配置されている地域軍(GCC; Geographical Combatant Command)のひとつであり、その担任地域(AOR; Area of Responsibility)は、北米大陸及び南米大陸の西岸沖からインド洋のほぼ東半分に至るまでをカバーしている(下図参照)。ただし、今回の名称変更に伴うAORの変更は、行われていない。

米インド太平洋軍のAOR(米インド太平洋軍HPから引用)
図 米インド太平洋軍のAOR
(米インド太平洋軍HPから引用)

   なお、今回の名称変更については、先月21日及び22日に米国防省報道官が、時期は明らかにしていないものの、名称を変更する可能性に触れたことが、米国、日本、中国それぞれのメディアにより報じられていた4。また、米国議会下院で審議されている2019会計年度国防授権法(National Defense Authorization Act for Fiscal year 2019)の法案においても、同じく名称変更を求めることが盛り込まれている5。米国政府外においても、本年4月初めには、米国内の安全保障研究者からも名称変更の提言がなされていた6
   このように、「米インド太平洋軍」への名称変更は既定路線だったといえるが、重要なのは、指揮官交代式の場で、つまり、インド太平洋地域を担任するGCCの司令部所在地で公表したことである。
   更に、注目すべき点は、マティス米国防長官が、ハワイで名称変更を公表したのに引き続き、6月1日から3日までの間、シンガポールで開催された「シャングリラ会合」(IISSアジア安全保障会議)に出席したことである7。彼は、全体セッションのスピーチの質疑応答で、名称変更の意味を問われた際、重要性が高まるインドとインド洋、インド亜大陸の現状に合わせたものだと答えている8。また、同スピーチにおいて、中国が南シナ海の人工物に設置している武器システムは、脅迫や威圧のための軍事利用に直結するものである、と指摘している9
   米国外に目を転じて、関係国の反応を見てみると、インドでは現在のところ、国防省関係者のコメントは見当たらないものの、国内メディアがインターネット上で、「インドへ向けての象徴的ジェスチャー10」とも、また、「米国にとってインドの軍事的重要性が高まっている11」とも報じている。中国においては、人民解放軍国防部報道官が、関連報道に注意を払ってきており、引き続き、情勢の進展を見守っていく旨のコメントを月例の記者会見で残していることから、殊更に取り上げることもなく注視していく様子が見て取れる12
   今回の名称変更について、どのように捉えるか。米国が、インド太平洋軍に対して、より多くの資源を配分するのでなければ、画餅に帰するであろうとの否定的な意見も無い訳ではない13。しかし、指揮官交代式に出席した小野寺防衛大臣が「『自由で開かれたインド太平洋戦略』の推進にも沿ったものだ。」と肯定的にコメントしている14。今回の名称変更は、米国が安全保障の重要地域を広くインド太平洋地域として捉えていることの表れと理解でき、我が国が戦略で示した方向性と一致するものである。

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 奥田哲也)

(本トピックスに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 本HPコラム096 「2018米国国防戦略(National Defense Strategy)を概観する」を参照。
2 “ Remarks at U.S. Indo-Pacific Command Change of Command Ceremony,” U.S. Department of Defense, News Transcript, May 30, 2018, https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript-View/Article/1535689/remarks-at-us-indo-pacific-command-change-of-command-ceremony/
3 “Department Of Defense Press Briefing by Pentagon Chief Spokesperson Dana W. White And Joint Staff Director Lt. Gen. Kenneth F. McKenzie Jr. In The Pentagon Briefing Room,” U.S. Department of Defense, News Transcript, May 31, 2018, https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript-View/Article/1537150/department-of-defense-press-briefing-by-pentagon-chief-spokesperson-dana-w-whit/
4 “Indo-PACOM? Pentagon may rename US Pacific Command,” Military Times HP, May 21,2018.
「米国防総省、『太平洋軍』を『インド太平洋軍』に改称へ」産経ニュースHP、2018年5月22日。
“U.S. Pacific Command’s duty to remain unchanged despite possible name change: pentagon,” 新华网News HP, May 22, 2018。
5 SEC.1257, H.R.5515 – National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2019, 115th Congress, https://www.congress.gov/bill/115th-congress/house-bill/5515/text?format=txt&q=%7B%22search%22%3A%5B%22H.R.5515%22%5D%7D&r=1
なお、本法案では、地域の海上安全保障構想に係る記述についても、前年の「東南アジア(Southeast Asia)」という表現から「インド太平洋(Indo-Pacific)」へ改めている。ちなみに、インドのメディアは、先月早々にもこれらの内容を詳しく報じている。
6 本HPコラム103 「エリック・セイヤーズ「米国のインド太平洋戦略を実行に移すための斬新な15のアイディア」の日本へのメッセージ(Eric Sayers, 15 Big Ideas to Operationalize America’s Indo-Pacific Strategy)」を参照。
7 IISSアジア安全保障会議は、英国の民間研究機関である国際戦略研究所(IISS; International Institute for Strategic Studies)が主催し、年1回シンガポールで開催されるアジア太平洋地域の国防大臣や参謀総長クラスの多国間会議である。参加国は年々拡大し、今年は50か国以上が参加した。
8 “Remarks by Secretary Mattis at Plenary Session of the 2018 Shangri-La Dialogue,” U.S. Department of Defense, News Transcript, June 2, 2018, https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript-View/Article/1538599/remarks-by-secretary-mattis-at-plenary-session-of-the-2018-shangri-la-dialogue/
9 同上。
10 “US military renames Pacific Command in symbolic gesture towards India,” May 31, 2018, The Times of India HP
11 同上。
12 「2018年5月国防部例行记者会文字实录」中华人民共和国国防部HP、2018年5月31日。http://www.mod.gov.cn/shouye/2018-05/31/content.4815726.htm。
13 “In symbolic nod to India, US changes name of Pacific Command,” May 31, 2018, The Times of India HP。ただし、前政権での国防省スタッフのコメントであるという点は、考慮する必要がある。
14 「小野寺五典防衛相、『インド太平洋軍』への名称変更に賛意 『インド洋と太平洋の間には南シナ海も・・・』」産経ニュースHP、2018年5月31日。