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 戦略研究会

 米国防省の新たな軍事戦略(第3の相殺戦略)について(その1)

(トピックス034 2016/06/28)

   2014年10月、米国の「戦略予算評価センター(Center for Strategic and Budgetary Assessments : CSBA)」は米国防省に対し、新たな戦略の開拓に向けた提言を発表 した。この報告書の目的は、米軍の全世界的な兵力展開能力を維持し、恒久的な米国の優位性を取り戻すための「第3の相殺戦略(3rd Offset Strategy)」に関して一つのビジョンを示すことである。

   本戦略は、米国がこれまで採用した二つの大きな軍事戦略(1950年代のニュールック政策、1970年代の相殺戦略)に続くものと位置付けられ、革新的な科学技術の応用による米軍のグローバルな兵力投射能力を回復することによって、米国の優位性を確保するための戦略として、今後米軍の動向を見ていく上で非常に重要である。

   本トピックスでは、報告書の全体を掴めるようまず要旨を仮訳し、順次、各章等を紹介していきたい。

********************************* 目 次 **********************************

   序 言(Foreword)

要 旨(Executive Summary)

   イントロダクション(Introduction)

   第1章:「第3の相殺戦略」の先行事例

   第2章:現状における米国戦力投射へのアプローチの欠点

   第3章:新たな相殺戦略の鍵となる要素

   第4章:新たな相殺戦略の実行:グローバルな監視及び打撃構想

   結 言(Conclusion)

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新たな相殺戦略に向けて(仮訳)
Toward A New Offset Strategy2

■要 旨(Executive Summary)
   
   10年以上続いたアフガニスタンとイラクでの損失の大きい軍事作戦の後、米国国民は戦争に疲弊し、国が債務から脱却しようと試みるように国防費の正当な削減を模索している。いつまで継続するか明瞭でない厳しい財政状況の中にあっても、米軍はグローバルな安全保障の課題に直面している。同時に、破壊的なテクノロジー -特に際立つのは、アクセス阻止/エリア拒否(A2/AD)能力であるが-の成熟と拡散によって、米軍優位の伝統的軍事力は弱まってきている。

   第二次大戦終結以降、米国は国防支出を抑えつつ、深刻な国際安全保障の課題に対処する必要があるという類似の時代に直面してきた。2つの特筆すべき事例は、1950年代前半のアイゼンハワー大統領による“ニュールック政策(New Look)”及び1970年代中盤のハロルド・ブラウン国防長官による“相殺戦略(Offset Strategy)”である。ソビエト連邦に対する通常戦力の数量的な相対的不均衡を財政的な余裕をもって“相殺する”メカニズムは、どちらの事例も米国の技術優勢の増強という点で同じであった。1950年代には、それは数量的に増加する様々な種類の核兵器、長距離発射システム及びアクティブ、パッシブ防衛という形態を取っていた。およそ四半世紀後、それは広範囲な戦術システム及びステルスの出現へと続く情報テクノロジーの応用の形を取った。


◆ニュールック政策からの教訓

   第二次大戦の結果として、核兵器による破壊的な米国の科学技術優位性に匹敵するものが近い将来に現れることはなさそうであるが、現代に通じる5つの重要な教訓がニュールック政策から見てとれるだろう。

第1は、バランス戦略である。

   国家が直面するあらゆる範囲の予想脅威に対して調整される必要性が重要である。この教訓が、しばしば“ニュールック政策”に結び付けられる“大量報復”と表向きに食い違うように見えるかも知れないが、“適切に展開し、十分に抑止又は初期段階で侵略に対抗する米国の即応兵力及びその同盟兵力”を必要としたNSC162/2(訳者注:アイゼンハワー政権が1953年10月にニュールック政策に関して発表した国家安全保障会議文書)を忘れるべきではない。核兵器は通常戦力にとって代わる大幅な転換 (whole sale replacement)ではなく、多勢な従来兵力に対する財政効果への“最後の砦”となった。

第2は、グローバルな航空戦遂行能力である。

   価値ある戦略上の行動の自由を確保し、敵の防御計画を混乱させ、拠点の脆弱性の縮小に資する。

第3は、非対称的な制裁の脅威である。

   どこでも、いつでも、敵が選択する作戦域における本質的な報復よりも柔軟な手段で打撃を与えることは、抑止力の手段としては効果的でありうる。

第4は、隠密作戦(covert operation)である。

   慎重に用いられた場合、米国安全保障の目標を達成するための受容可能な選択肢になりうる。

第5は、同盟である。

   負担の分担のためだけでなく、敵の作戦計画を混乱させ、コストを負わせるため重要である。


◆相殺戦略からの教訓

   最低限4つの主要な教訓は、今日との関連性でブラウン長官の“相殺戦略”から導出できよう。

第1は、科学技術である。

   数量的に大きく優勢だが技術的に劣っている軍事力を“相殺する”ような、部隊の戦闘効果を乗算的に増加することができる。

第2は、優位に立てる競争分野への移行である。

   技術優位は競争を決定付けるので、 “戦車には戦車”、“ミサイルにはミサイル”で対抗させるよりも、米軍がさらに効果的に競争できる分野に移行させるのである。

第3は、十分に“ローエンド”な能力を保つことである。

   様々に変化する脅威環境に適合させた信頼性のある戦闘力のグローバルなプレゼンス、前線配備を維持する能力が重要である。

第4は、戦略的継続性と関係機関の関与の重要性である。

   1970年代後半に国防省はいくつかの技術開発計画を立ち上げたが、国防省内、続く政権及び議会における辛抱強い官僚支援がなければ、それらは実現されることはなかったであろう。

◆増大する作戦上のリスク

   米軍は、四半世紀近くの第2の相殺戦略により導かれた精密攻撃革命の分野においてほぼ独占権を享受してきたが、それも徐々に薄れつつある。将来の敵は、冷戦後の米軍による兵力投射の取り組みに対抗するために、それら自身の監視網を張り巡らしている。

   さらに詳細には、米軍は現在4つの主要な作戦上の問題に直面している。

1. 地上基地の脆弱性

   地方に近接した基地(例:港湾、飛行場及び地上施設)は、増加の途にある世界中の国々において、攻撃をますます受けやすくなっている。

2. 水上艦艇の脆弱性

   大規模水上部隊及び空母は、敵国沿岸から長距離で探知、追尾、攻撃を受けやすくなりつつある。

3. 航空機の脆弱性

   非ステルス航空機は、近代的な統合防空システムにより更に撃墜されやすくなっている。

4. 宇宙という聖域の喪失

   宇宙は、もはや攻撃を逃れる聖域ではない。


◆増大する戦略的リスク

   これら増加する作戦上の課題は、未解決な戦略上の結果をはらんでいる。それらは、強まる危機事態の不安定さ、米国の脅威抑止に対する信頼性及び米軍の安全保障におけるコミットメントをうまく処理する能力に対する同盟国の信頼感の薄弱化、将来予想される対抗者と競う能力を弱体化させる米国への経費負担増加が挙げられる。ヘーゲル国防長官は近年、「今これらの課題に真剣に取り組まなければ、米国の技術優勢を挫き、行動の自由を制限し、米国民の生命を危険に曝す先進破壊的な科学技術を有する兵器に直面した戦場に、米軍は将来行き着くことになる。」と述べている3

   アクティブな防御手段で脅威に対称的に対処しようとすること、または“ミサイルにはミサイル”、“戦闘機には戦闘機”を対抗させるという方法は、両方とも長い目で見れば実用的でなく、財政的にも持続不可能である。米国は現状の統合兵力投射を単純に拡大していく余力もない。実際、特に医療、退役に関連して膨らむ人件費のために、動員可能な兵力の程度はおそらく次の10年にわたって縮小していくだろう。

   このような状況に置かれつつも、第3の相殺戦略は米国の“コアコンピタンス”(訳者注:競合他者を圧倒的に上回る能力)であるところの無人システム及び自動操作、長距離及び低被観測性航空オペレーション、水中戦並びに兵力投射のための複合的システムエンジニアリング及び統合をそれぞれ別々に強化することによって、一般にA2/AD能力における敵対心の傾注 -特にかつてはミサイル保有数の拡大に見られた- に対抗することができる。

   米国の従来の抑止における信頼性は、直接的な兵力の利用により旧態に復帰するという、脅威への依存度の低い戦略を適用することによっても改善されるだろう。その代わりに米国は、そもそも敵の戦争目的の達成度認識を減退(すなわち拒否による抑止)させ、また非対称報復的な攻撃で脅す(すなわち制裁による抑止)ことによって、そうしようとするための予期コストを増加させることにさらに主眼を置くべきである。前者は、高度な状況把握力と脅威の状況及び拠点利用状況に関係なく初期段階において敵の軍事行動を挫くだけの速やかな兵力投入ができる必要があるだろう。後者には、優先目標がどこで位置局限されたかやどのように防護されているかに関係なく、それらを識別し破壊する能力と積極的意図が要求されるだろう。

   新たな相殺戦略の一部として、これまで述べた米国の能力優位性(例:無人システム及び自動操作、長距離及び低被観測性航空オペレーション、水中戦並びに複合的システムエンジニアリング及び統合)は、以下に示すGSS(Global Surveillance and Strike)ネットワークを形成することにより強化されることになろう。

バランス(Balanced)

   広範囲で変化を続ける脅威環境 -進化したA2/ADの課題を含む- に適合するローエンド及びハイエンドの装備の混在

弾力性(Resilient)

   至近距離の基地に最小限に依存し、地理的に分散され/敵の防空能力に対する感応度を大幅に落とし、衛星搭載システムへの妨害等に対する抗たん性の著しい増加

即応性(Responsive)

   信頼性のある監視・攻撃(Surveillance - Strike)が、命令を受けてから時間単位 -おそらく分の単位で- で発現

拡張性(Scalable)

   世界中の各地における生起事象に同時に影響を与えるための拡張

   米軍の多くの要素が将来のGSSネットワークにおいて重要な役割を果たす一方、一般には海空軍、特には無人機等に偏って依存することになる。GSS構想を実現するために、追加検討に値する実行に向けた活動は以下を含む:

● GPSに代わる正確な航法及び時間計測の調査研究の加速
   ・衛星利用機能の損失に対する保護策
   ・長時間オペレーション可能な無人監視機及び/又は空中給油機能の“ハイ・ロー”ミックスによる
     配備
   ・長距離通信衛星に代わる“空中レイヤー(aerial layer)”の開発

● 将来の敵からの米国衛星への攻撃を抑止する、宇宙対抗策の開発及び能力の獲得

● 無人水中ビークル(Unmanned Underwater Vehicle : UUV) の運用
   ・鍵となる技術開発の加速による潜水艦隊の地理的活動領域の拡大
   ・速力及び運用時間継続のための高密度エネルギー貯蔵
   ・水中航法、通信及び自動化

● バージニア級ペイロードモジュール(Virginia Payload Module : VPM)計画への十分な出資
   ・水中ペイロードの容量及び柔軟性の拡大
   ・海底格納ポッド(国防高等計画研究局(Defense Advanced Research Projects Agency :
     DARPA)の“upward falling payload(UFP)”計画)開発の加速
   ・無人水中ビークル用曳航型ペイロードモジュール開発の開始
   ・対処目標の幅をさらに拡大するためのトマホーク対地ミサイル及びスタンダードミサイルファミ
     リーの改良
   ・潜水艦発射型の従来の弾道ミサイル/ブーストグライドミサイル開発の開始

● 固定または展開配備型水中センサー網による地理的範囲の拡大

● 長距離対潜兵器と同じく、近代化された陸上・海上・空中から展開可能な機雷の開発及び配備

● 電磁レールガン及びエネルギー指向型兵器システム(当初は空母機動部隊及び周辺基地防御に
    焦点)の開発及び配備の加速による、ミサイル攻撃とアクティブ防御の費用対効果の逆転

● エネルギー集中型兵器システム(例:高出力マイクロ波ペイロードや高エネルギーレーザー)を含
    む、新たな対センサー兵器の開発及び配備

● 自動化空中給油能力の配備の加速

● 長距離攻撃爆撃機(LRS-B)の開発及び調達拡大の加速

● 敵地深くまで侵入し、高高度、長時間オペレーション可能な、中・高程度脅威環境対処用グロ
    ーバルホーク(RQ-4)に類似した無人機(Unmanned Aerial Vehicle : UAV)の開発及び配備

● 特に中・高程度脅威環境下における脅威の分散に応じて地理的に分担している監視攻撃オペレ
    ーション(すなわち機動可能な目標攻撃兵器)のために敵地深くまで侵入し、空中給油可能な地
    上、艦載無人航空戦闘システム(MQ-X及びN-UCAS)の開発及び配備

● 短・中距離防空機能、巡航ミサイル沿岸防備、防御機雷及びUUV及び機動型地対地ミサイルで構成される遠征型地上配備のローカル“A2/AD”ネットワークの開発

   これらの構想は、米国の兵力投射能力を取り戻し、確実な脅威拒否及び制裁による従来の抑止を強化し、長期競争の一部として将来の敵への財政賦課を強いることによって、効果的な相殺戦略に貢献するであろう。本報告書で論じている上記またはその他の高価な装備の開発及び配備に予算配分するには、現在進行中のいくつかの開発等に再注目し、人件費及びインフラ経費を抑え、期間が経過して利用価値が低下している旧式の装備を廃棄することが必要になってくるであろう。


◆ 結言

   1970代半ばに予見した“アサルトブレイカー”(訳者注:DARPAが1978年に開始した調査研究計画で、米空軍と米陸軍による協同精密攻撃ネットワークの構築を目的とした。1982年の検証実験で技術的には成功を収めたものの陸空軍間の緊密な連携を必要とし、統合的な装備にまで至らなかった。)装備のすべてを配備するのに10年以上を費やしたように、もし、目的に集中した調査研究が今始まって、国防省、大統領府及び米議会が少なくともこれからの10年以上にわたって方向性を定めたとしても、GSSネットワークが初期運用能力に到達するのは、せいぜい2020年代半ば以降であろう。国防に必要な有限で減少を続ける資産を考え併せると、米国は、兵力投射への現状の通常業務的姿勢を継続することも、資産の準備並びに作戦及び戦略上の多くの課題を是正する時間も、それらがひとたび顕在化した場合には、現状の手法では解決することができないのである。

(その2に続く)

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 松本裕児) 

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1http://csbaonline.org/publications/2014/10/toward-a-new-offset-strategy-exploiting-u-s-long-term-advantages-to-restore-u-s-global-power-projection-capability, Accessed on 3.June.2016
2http://csbaonline.org/wp-content/uploads/2014/10/Offset-Strategy-Web.pdf, Accessed on 3.June.2016
3Secretary of Defense Chuck Hagel, Defense Innovation Days, Opening Keynote Speech to Southeastern New England Defense Industry Alliance, 3.September, 2014.
http://defense.gov/News/Speeches/Speech-View/Article/605602, 2016年6月7日アクセス。


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。