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 戦略研究グループ

 ホルムズ海峡の閉鎖に関するイランの表明

(トピックス011 2012/01/16)

 昨年12月28日に報じられたところによれば、イランのラミヒ第一副大統領は、「欧米諸国がイランの原油輸出に制裁を課すなら、原油一滴たりともホルムズ海峡を通過させない」と表明しました1。ここに言及されている「原油一滴たりともホルムズ海峡を通過させない」とは、すなわち、原油を積んでいる船舶についてはホルムズ海峡を通航させないことを意味していると考えられます。ホルムズ海峡を通航する船舶の航行をイランが妨害した場合、はたして正当性を主張できるのでしょうか。国際法上の論点について整理してみようと思います。

 ホルムズ海峡は、イランとオマーンの間にある海峡で、海峡の最も狭い部分は両国の領海で占められており、地理的な中間線が両国の領海の境界となります。海峡のオマーン領海内でイランが船舶の航行を妨害することは、オマーンの主権に対する侵害であり、イランによるそのような行為が正当化される余地はありません。では、海峡のイラン領海内ではどうでしょうか。

 ホルムズ海峡のイラン領海内を航行する船舶の通航制度について論点を整理します。海洋法に関する国際連合条約(以下、「国連海洋法条約」という。)によれば、ホルムズ海峡のような、公海(排他的経済水域を含む。)と公海(排他的経済水域を含む。)をつなぐ地理的位置にあって、国際的な航行に使用されている海峡のうち、海峡内の水域が沿岸国の領海で占められているものについては、通過通航(transit passage)の制度が適用されます(国連海洋法条約第36条、第37条)。通過通航制度の下では、すべての船舶及び航空機は、海峡を通過する目的に限定された航行の自由及び上空飛行の自由を行使でき(国連海洋法条約第38条)、海峡沿岸国は通過通航を妨害してはなりません(国連海洋法条約第44条)。ただし、イランは国連海洋法条約に署名済みであるものの、批准しておらず、通過通航制度が慣習法化していない限り、通過通航制度を受け入れる義務を負いません。イランは1982年に国連海洋法条約に署名する際に、通過通航のような新たな制度を設ける条項については、国連海洋法条約の締約国に限り適用されるものであると宣言しており、通過通航制度を慣習法として認めない立場をとっています2。国連海洋法条約が1994年に発効してから17年が経過しましたが、通過通航制度が慣習法化しているか否かについては明確ではありません。

 では、ホルムズ海峡のイラン領海内に通過通航制度が適用されない場合は、イランが自国領海内において船舶の航行を恣意的に妨害することが許されるのでしょうか。すべての国の船舶は、領海において無害通航 (innocent passage) する権利を有しており(国連海洋法条約第17条)、沿岸国は領海における船舶の無害通航を妨害してはならないとされています(国連海洋法条約第24条)。沿岸国領海における無害通航権については、慣習法化していると考えられ、いずれの国もこれを否定することはできません。船舶の通航は、沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、無害とされ(国連海洋法条約第19条)、沿岸国は、無害でない通航を防止するために必要な措置をとることが認められます(国連海洋法条約第25条)。船舶の通航が無害か否かについては、沿岸国に裁量の余地があり、最終的には沿岸国の判断に左右されることになりますが、原油を輸送する外国船舶が領海内を航行することの無害性をイランが否定するならば、あまりに恣意的であり、沿岸国の権利の濫用とみなされ、国際的な理解は得られないものと考えられます。

 以上を国連海洋条約の観点からまとめると、ホルムズ海峡のオマーン領海内における船舶の航行をイランが妨害することは正当化される余地はなく、また、ホルムズ海峡のイラン領海内に通過通航制度が適用されるか否かについては明確ではないものの、ホルムズ海峡のイラン領海内において原油を積んでいる船舶を通航させないことの正当性をイランが主張することは困難であるといわざるをえません。


(幹部学校第3研究室 數野 倫明) 


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1 平成23年12月28日産経新聞朝刊
2 United Nations Convention on the Law of the Sea: Declarations made upon signature, ratification, accession or succession or anytime thereafter <http://www.un.org/Depts/los/convention_agreements/convention_declarations.htm>


 本トピックスに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。