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 戦略研究グループ

 米国国防省「中国の軍事力・安全保障の進展に関する年次報告書」(2011年版)

(トピックス006 2011/8/31)

トピックス005へのリンク


(要 旨)(訳註:「要旨」部分は全訳)

 国際政治における主要なアクターとしての中国の台頭は、21世紀初頭の戦略状況の特質を定義するものとして重要であり続けるであろう。持続的な経済成長は中国国民の生活水準を向上させ、中国の国際的な印象を高めた。科学・技術基盤の進展を伴うこの発展は、包括的かつ現在進行中の軍事近代化計画を容易にした。米国は、国際的なルール・規範を強化し、地域的・世界規模の安全保障及び平和を促進する、強大かつ繁栄し、成功した中国を歓迎する。

 中国は、国際社会における新たな役割及び責任を、着実に引き受けつつある。2004年、胡錦濤国家主席は中国の直接的な領土権益を越えた任務を含む、人民解放軍(訳註:以下「PLA」とする)のための新たなガイダンスを明確に表明した。これにより、国際平和の維持のための努力、海賊対処活動、人道支援及び海外の紛争地からの中国国民の避難への関与を深めることとなった。中国の2010年版国防白書は、「中国の将来と運命はかつてないほど密接に、国際社会の将来及び運命と関係している」と述べている。しかしながら、近代化された中国の軍隊は外交的優位の獲得、または紛争を中国に有利に解決するための能力を増大させるために用いられる可能性もある。

 PLAの任務が増大し、競合する中で、台湾は「主要な戦略的志向」であり続けている。台湾との関係は改善されているが、中国は2010年も台湾有事に焦点をあてた軍事力の近代化を継続している。PLAは台湾の独立を抑止し、台湾問題が中国に有利な条件で解決されるよう、台湾に影響力を行使するための能力を追求している。この目的を追求するに当たって、中国は有事の際に起こり得る、米国による台湾への支援の抑止・遅滞・拒絶を企図した能力を発展させ続けている。台湾海峡の軍事・戦闘能力は中国側の優位に傾き続けている。

 過去10年以上、中国の軍隊は近代的武器・技術に対し行った精力的な投資の恩恵をこうむっている。多数の近代的システムが完成し、その他についても数年以内に実用化され始める。野心的に調達を行った後の2011年から2020年の10年間は、多数の新しい複雑なプラットフォームを統合し、統合運用及びネットワーク中心の戦い(NCW)を含めた近代的な運用構想を適合させる試みという意味で、PLAにとって重要であろう。

 中国の軍事力及び安全保障に関する透明性は、ささやかではあるが増大し、改善されている。しかしながら、中国が発展させた能力をどのように用いるかについては不確実なままである。

 米国は安全な国際環境を支える中国の貢献を認識し、歓迎している。世界経済への中国の着実な統合は、特に海洋領域におけるパートナーシップ及び協調のための新たな動機を作りだした。拡大した中国の軍事力は、共有された目的を追求する際の協調を容易にする一方、誤解・計算違い(に起因する)危険を増大させることにもなる。米中両国の軍隊同士の関係の強化は、リスクを低減する一方で協力のための機会に投資するよう、中国に選択させるという我々の戦略の重要な部分である。この戦略を支えるため、米国は中国の軍事力の発展及び戦略を監視し続けなければならない。我々の友好国及び同盟国と協調して、米国は安定した安全な東アジアの環境を維持するために、我々の戦力、態勢及び作戦構想を適応させ続ける。


第1章:年次更新(訳註:第1章は抄訳)


2010年における、中国の課題及び好機

 2010年、中国政府は経済発展の維持及び中国の安全保障上の利益の促進に、焦点をあて続けている。中国共産党は経済成長、安定、国家の統一という保証の上に、正統性を築いている。その地位を確保するため、共産党は失業、賃金格差の拡大、民主化運動、民族問題に関する緊張といった国内不安の潜在的な原因を厳重に監視している。さらに、中国は増大しつつある権益に関する、国際社会におけるより大胆な自己主張と、地域大国及び主要な大国からの反発・対抗的な反応を避けるという願望との間でバランスをとろうとしている。2010年6月のARFの後に、中国が南シナ海などの領土紛争への修辞的アプローチを再調整したのがその一例である。

 2010年に第11次5ヶ年計画が完了し、PLAの軍事力の発展及び技術調達に新たな道標が記された。拡大する経済・安全保障権益に動機づけられ、PLAは、長い間米海軍によって支配されてきた全世界的な海域へと乗り出した。台湾との関係は改善され続けているが、PLAは台湾有事のための計画と能力を発展させる努力を遅らせているという、いかなる兆候も示していない。次の10年間のPLAの成功の多くは、発展を続ける能力及び武器を、軍事力としていかに効率的に完成させるかによって決定される。多数の評価によれば、PLAは近代的で、地域に焦点を当てた軍隊を2020年までに作り上げるという目標の達成に向けて(正しく)行動している。

 PLAの地域的な軍事オペレーション能力の改善と並行して、中国の役人は近年非常に頻繁に、中国の主権及び領域上の権益を強調している。米国が台湾への武器売却を承認した後、2010年1月にPLAは「核心的利益」が侵害されたとして、米国との軍事交流を中断した。


中国の国家安全保障関連指導部の進展

 習近平国家副主席は、2010年10月に開催された中国共産党第17期中央委員会第5回全体会議において中国共産党中央軍事委員会副主席に就任した。歴史的な先例に基づくと、この処置は習が中国共産党総書記及び中央軍事委員会主席になるまでの最後から2番目の段階であり得る。


台湾海峡の安全保障環境に関する進展

 2008年3月に馬英九が台湾総統に選出されて以来、中台関係は著しく改善された。2010年、中台は経済協力枠組取決めを調印した。中国は台湾が国際的なフォーラムに参加することに関し柔軟性を示していたが、国際社会の各プレイヤーに対し、台湾の参加を制限するための圧力をかけ続けている。

 中台関係が改善されたにも関わらず、中国は台湾有事における信頼できる軍事的選択肢の範囲を規定するための特別な努力を含む、軍事近代化を2010年も続けている。2020年までの10年間で、PLAは第3国による介入の抑止、遅滞、拒絶を目的とするものを含む、台湾を対象とした軍事的選択肢を着実に増やしていくように見える。


中国の軍事力の規模、配置、能力に関する進展

 長期的かつ包括的な中国の軍事近代化は、「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」作戦を含む高度に集約された地域的軍事作戦を実行する、PLAの能力を改善しつつある。近年、台湾海峡有事に対する準備に焦点を当てているが、それと一致して、中国はもっとも進んだシステムの多くを継続的に、台湾海峡に対峙する軍区へと配備している。これらの能力は様々な地域的危機もしくは紛争シナリオのためにも用いられ得るが、中国の世界規模での勢力範囲又は戦力投射を拡大するための能力はあまり進歩していない。例えば、平時の海賊対処任務を除いては、中国海軍には周辺海域を越えた運用経験はあまりない。国際的な分野におけるPLAの新たな役割・任務は中国の権益の拡大を反映しているが、地域における不測事態(への準備)に対しては、引き続き資源と計画が(優先的に分配されている。)


弾道・巡航ミサイル

 中国は、陸上配備の弾道・巡航ミサイル計画を優先している。中国は、新たな種類や異なる種類の攻撃用ミサイルを開発・試験し、追加的なミサイルユニットを形成すると共に、古いミサイルシステムを改良し、弾道ミサイル防衛に対抗する方法を進展させている。


海 軍

 1990年代以来、中国海軍(訳註:以下「PLAN」と記す)は能力が低く、単独任務のためのプラットフォームで構成される大艦隊から、より近代的で複数任務に対応するプラットフォームを備えた、無駄のない部隊へと急速に変化した。

 PLANは約75隻の主要な水上艦艇、60隻以上の潜水艦、中・大型の両用戦用艦艇55隻、ミサイルを備えた小規模な戦闘艦艇約85隻を保有している。PLAは海南島南端海軍基地の建設を完了した。同基地は、弾道ミサイル搭載潜水艦及び空母を含めた、より進歩した水上戦闘艦艇を配備することが可能である。追尾のリスクを減少させる、潜水艦のための地下施設も備えている。

 ・2011年に試験航行を実施した「ワリャーグ」の改修を含め、中国は空母の研究・開発を進めてきたが、その運用能力は限定的である。中国は2011年に国産空母の建造を開始する可能性があり、2015年以降国産空母の運用が可能になるかもしれない。中国は、今後10年間で随伴艦を伴う空母を複数建造する可能性がある。

 ・中国は現在、空母艦載機パイロットの地上における訓練を行っているが、空母を用いた作戦能力が最低レベルに達するまでには、まだ数年はかかるであろう。

 ・PLANは超水平線(OTH)レーダーを用いた目標捕捉能力を改善している。

 ・中国は引き続き、新しい型の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を生産している。

 ・中国は、攻撃型原子力潜水艦を拡充している。


空 軍

 中国は、台湾関連の、給油を必要としない作戦領域で、490機の戦闘機を配備している。そして、その機数を数百機に拡大するための航空基地能力を所有している。中国が保有する全航空機の中で、より新型で、より進んだ航空機が占める割合も増加中である。


陸 軍

 PLAは約125万人の陸軍人員を擁しており、そのうち40万人が台湾対岸の3つの軍区に配備されている。中国は大規模な陸軍力の近代化を段階的に進めている。能力向上のための活動の多くは、台湾有事に関係する部隊で行われている。


中国の宇宙・サイバー能力の進展
宇宙及び対宇宙戦闘能力

 2010年中国は、宇宙空間における情報収集、監視、偵察、航法、気象、通信機能を拡大する15基の人工衛星を打ち上げた。それと並行して、中国は危機及び紛争時の、敵による宇宙空間の使用を制限もしくは妨げるための能力を改善する、多面的な計画を開発中である。


サイバー戦能力

 2010年、米国政府所有のコンピューターを含めた、世界中のおびただしい数のコンピューターシステムが不正侵入を受け、その一部は中国国内を発信源とすると見られている。不正侵入は、情報の不正入手(のため)に集中していた。不正侵入のみでも深刻な懸念であるが、不正侵入に必要な接続と技術は、コンピューターネットワークに対する攻撃を実施するために必要な接続と技術に類似している。サイバー戦能力は3つの分野で、中国の軍事作戦に寄与している。1、データの不法収集が可能になる。2、ネットワークを基盤とした兵站、通信、商業活動を標的にすることにより、敵の行動を抑制し、反応のための時間を遅らせる。3、危機もしくは紛争時、物理的な攻撃と結合することにより、力を増大させる。サイバー戦のための能力向上は、PLAの正式な軍事文書と整合している。


中国の防衛技術調達における進展

 中国は軍事近代化を進めるため、外国の技術・軍民両用部品の獲得及び焦点をしぼった国内における調査・開発に依存している。商業的手段もしくは学術的には容易に獲得できない、重要な国家安全保障技術、規制された装備、及び他の機材に関しては、中国は情報機関を利用し、米国法や輸出管理の侵害を含む不法な方法を使用している。


台湾の抑止力への挑戦

 2010年は台湾海峡付近における軍事的事件は起こらず、全般的な情勢は安定していた。しかし、中国の軍事近代化及びより進んだ能力(の部隊、武器)の台湾対岸への配備は緩和されず、軍事力のバランスは中国に有利な方向へ傾き続けている。


中国による外国への軍事的関与

 中国は関係構築、実用能力の改善、中国の対外認識を形成するために、外国への軍事的関与を進めている。

 ・アデン湾において、海賊対処活動を継続している。

 ・中国国防部は、2010年12月までに150を超える国との軍事的関係の構築を通じて、外国との軍事的な関係を包括的に拡大すると発表した。


共同訓練

 二国間・多国間訓練へのPLAの参加は増加しつつある。パートナー国・機構に対する影響力の増大及び関係強化を通じて、PLAは政治的利益を引き出している。このような演習を通じ、より進んだ軍隊によって用いられている戦術、指揮に関する意思決定及び装備を観察することにより、PLAは能力改善及び作戦上の理解獲得の機会を得ている。


平和維持活動、人道支援、災害派遣活動

 2004年1月から2010年1月までの6年間で、国連平和維持活動への中国の参加は6倍増加している。中国は現在、国連安全保障理事会常任理事国5か国の中で、もっとも多くの人員を平和維持活動に参加させている。


特別トピック:発展する中国の海洋戦略(訳註:本トピックは全訳)


中国の海洋安全保障権益の高まり

 歴史的に大陸国家であった中国は、(今日)ますます、海洋領域を経済的繁栄及び国家安全保障の源泉とみなすようになっている。上層部のレトリックと資源配分を反映した、中国の発展しつつある「海洋への意識の目覚め」は、潜在的にアジア太平洋地域及びそれを越えた領域までにも及ぶ結果となる。中国の役人及び国民の多くは、海洋における権力を「大国」となるために不可欠なものであるとみなしている。本章は、安全保障領域に特に焦点をあて、中国の海洋領域への注目について述べることとする。本章は、中国の海洋権益及び、海軍の発展、法制、改善されつつある海洋法執行力、外交的イニシアティブを含んだ課題に取り組む行程に対する考えに、影響を与えるきっかけについて明らかにする。本章の最後で、中国の特別な海洋権益及び中国の態勢が将来どのように進展していくかについて述べる。

 2010年の「中国海洋発展報告」において、中国の国家海洋局は、「海洋における権力の構築は、21世紀の中国の歴史的使命であり、2010年から2020年はこの任務を実現するために重要な歴史的段階である。」中国には公式な海洋戦略が欠けているようには見えるが、中国の役人、軍事戦略家、知識人は、高まりつつある海洋における権力と中国の権益との関連について注目している。


「海洋への意識の目覚め」の発展

 1980年代初頭以来、2つの重要な要因が、中国の海洋に対する見解を変化させるきっかけとなった。第1に、冷戦終結により、中国の戦略地政学的環境が根本的に変化した。ロシアとの核戦争を含めた、大陸での大規模な紛争への懸念がおさまり、中国は他の難題、特に台湾が法的に独立へと向かうのではないかという問題へと関心を向けた。

 1995-96年の台湾海峡危機の際の米国の反応は、米軍による介入という中国にとっての潜在的難題を際立たせ、接近阻止・領域拒否作戦、PLAの言葉では「介入に反撃する作戦」を実施するための、近代的海軍を発展させる重要性に注目させた。

 第2に、海洋における貿易及び海洋資源探査を含めた中国の経済権益の拡大は、海洋における権力は、国家の利益と関連しているという中国の認識に影響を与えた。2007年、胡国家主席は「海洋における論点を進展させることは、我々の経済発展を押し上げるための戦略的任務の一つである」と述べた。中国は海洋を漁業資源、そして潜在的には大規模油田及びガス田を供給する、重要な資源とみなしていた。

 海洋はまた、貿易のための重要な動脈であり、輸出入の約90%が海洋を経る、中国の経済的繁栄を支えている。1993年まで石油輸出国であった中国は、現在では消費量の半分以上を輸入しており、そのうち80%がマラッカ海峡及び南シナ海を通過している。さらに、中国の経済的動力は、中国の東海岸に沿った人口密集地に集中している。これらの沿岸地域に影響を及ぼす紛争は、中国にとって重要な結果を及ぼす。


発展する海軍戦略

 1980年代の大半を通じて、貧弱な装備と訓練がなされていたPLANを指揮した、PLAの劉華清将軍は、後に共産党政治局常務委員及び中央軍事委員会副主席となり、陸軍が圧倒的支配をしていた戦略文化の中にあって、海軍近代化の大義を前進させた。1986年に劉がPLANの「近海防御」戦略を開始するまで、PLANは主に「侵略に抵抗し、国土を防衛する」ことに焦点をあてていた。

 2011年1月に死去した、「近代中国海軍の父」として言及される劉は、中国沿岸を越えた海軍活動を要求し、ついには空母の開発を訴えた。劉の提案の多くが政治的支持を得る数年前に、彼の考えは、中国の戦略家が海洋における権力と海洋戦略へのアプローチを概念化する方法に根本的な影響を与えた。

 特別な境界は定義されていなかったが、「近海防御」は一般的に中国の排他的経済水域もしくは黄海、東シナ海、南シナ海を含めた「第1列島線」の内側の海域として特徴付けられていた。近年、PLANは日本北方から北マリアナ諸島、グアムを通る第2列島線としてゆるやかに定義される、いわゆる「遠海」における任務を強調し始めた。

 より遠方での有事への考慮は、海賊対処パトロール、人道支援、災害救助、非戦闘員退避を含めた、地域外での、限定された平時における活動と付随している。これらの平時の活動は、PLAに価値のある作戦上の経験を提供している。


要求を増幅させる新たな安全保障権益

 1990年代初頭、中国は海洋領域における戦闘を含めた、近代的戦闘の本質を変化させつつある先端技術兵器及びプラットフォームを適用する、より近代化された軍隊を懸念を持って眺めていた。中国の多数の戦略家及び軍人の見方では、先進国における軍隊の発展はPLAの沿岸指向的海軍を時代遅れで、不適切で価値のないものに見えるようにしていた。中国指導部はその後、PLAに「近代化された、先端技術のもとで局地的紛争」を戦い、勝利する準備をするように命じた。「先端技術」という用語は、後にネットワーク中心の戦い(NCW)及び情報技術の重要性を反映した「情報化」という用語に置き換えられた。

 1992年第14回党大会において、江沢民国家出席(当時)は中国の、発展する「海洋権益」を守る必要性を明確に述べた。その後約20年間、中国は海軍の発展、法制、民間の強制力、及び外交を通じて海洋における目的を追求している。海軍による野心的な調達は、1990年代以前のPLANを定義づけていた能力格差を縮小した。今日中国は、地上に配備された航空機の範囲を越えた、海洋における脅威に対抗する限定的能力を保有している。これは、南シナ海及び西太平洋地域以遠における、限定的な戦力投射能力を含んでいる。この進展はゆっくりではあるが、新たなシステムの実戦配備を加速させ始め、中国の海軍力は沿岸海域を越えた運用における、追加的な経験をした。

 文官及び軍人は、経済的繁栄と国家安全保障の関連が増大しているという認識を反映し、中国の海洋権益を推進するための経済的な刺激を強調している。PLAの呉勝利海軍司令員は2006年に、中国は「漁業、資源開発及びエネルギーへの戦略的ルートを守るために、強力な海軍」を必要としていると主張した。これは、持続的な発展の約束の上に、自己の正統性を成立させている中国共産党にとって、特に重要である。

 領土・主権論争、資源権益及び重要なSLOCへの依存を含む、中国の海洋権益は、依然としてアジアに集中している。結果として、中国の海軍は特定地域に焦点を当てている。しかしながら、PLAはより「世界規模の」任務を帯びつつある。

 これは、商用船舶及び投資プロジェクトを含む中国の経済権益は、中国国民とともに、世界中に展開しているという認識を反映している。これはまた、「大国」として遇されたいという中国の欲望を反映している。中国の指導者は、PLANに中国の広範囲な利益を守るための、発展しつつある役割を担うという、明確な指示を与えている。

 2004年、中央軍事委員会主席を継承してまもなく、胡錦濤は「新世紀の新時代における軍隊の歴史的任務」を公表した。共産党支配を維持する中での軍隊の任務を繰り返した中で、中国の主権及び領土の保全を守ることに加え、「新たな歴史的任務」は中国の拡大する「国家利益」及び「世界平和を守る」安全装置における、PLAの役割を強調した。

 中国の経済的利益と国家安全保障の明確な関係について述べる中で、「新たな歴史的任務」は中国の海洋周辺部を越えた任務を正当化した。PLAの焦点は地域紛争にあてられたままではあるが、「新たな歴史的任務」は中国の利益の追求は地理的境界によって抑制されず、多様な課題に見合うように進展するとほのめかしている。2006年の中国の国防白書は「新たな歴史的任務」の上に拡張され、「多様化した軍事任務」構想を紹介している。これは、PLAが伝統的軍事任務のみならず、戦争以外の軍事作戦(MOOTW)にも備える必要があることを強調していた。以来、PLANは海賊対処、人道支援/災害派遣、非戦闘員退避に大きな焦点を当てている。


PLANにとっての新たな「初の」

 2009年以来続く、PLANのアデン湾への海賊対処のための派遣は、胡錦濤の下で起こった政策変化のもっとも目に見える形での示威活動である。海軍による外交活動を含めなければ、アデン湾での任務は中国海軍にとって、地域的な海域の外側における初の作戦上の配備である。2010年9月には、PLANの病院船「平和の方舟(PEACE ARK)」がアジア・アフリカの5か国を訪問することにより、初の海外人道支援任務を実行した。

 もっとも最近では、PLANは初の非戦闘員退避に参加した。2011年2月、PLANはアデン湾において活動していたジャンカイII級のフリゲートを、リビアからの中国国民の避難を支援するために派遣した。象徴的ではあるが、この派遣によってPLANは、海外に居住し、働く中国国民の保護への関与を示すことができた。


中国の海洋権益

 上記の増大する「多様な」任務は、地域的な優先事項に取って代わるわけではない。台湾問題は中国の軍隊、特に海軍にとって「主要な戦略的方向」であることに変化はない。台湾のほかに、中国はいくつかの優先度の高い海洋に関する難題に直面している。第1に、強化されつつあり、徐々に拡大している中国の海洋上の緩衝地帯は、外国による攻撃又は「干渉」を防ぐ手段である。第2に、中国の海洋領域に関する主張、特に東・南シナ海は優先事項であり続けている。第3に、中国は地域的なSLOCの保護に焦点をあてている。第4に、中国は中国のイメージを「大国」として進化させることを望んでいる。最後に、中国は予見しえる将来において、攻撃に耐えうる、海上配備の核抑止力を配備しようと意図している。


拡大する海洋周辺地域

 中国は長い間、黄海、東シナ海、南シナ海を特有の戦略的重要地域とみなしている。中国の観点から、これらの海域は「近海」と呼ばれ、安全保障上の緩衝であり、潜在的に重要な石油・ガス資源を備えている。中国はこの緩衝地帯内における中国の権益を推進するために法的決議、海洋法執行、及び海軍のアセットを用いようとしている。

 1992年中国の全国人民代表大会は、南シナ海を中国の「歴史的海域」と主張する「領海法」を通過させた。中国は中国の地域的な領域に関する主張を成文化し、中国の排他的経済水域(訳註:以下、「EEZ」と記す)内での外国による活動に関する特別な制限を規定した、一連の法律を精巧に作り出した。

 EEZは、その名が示すとおり沿岸の基線から200マイルを越えない範囲の海域内で、沿岸国が経済資源に排他的にアクセスすることを認めている。中国はEEZに安全保障上の制限を加えようと試みているが、それは国連海洋法条約に反映されている慣習国際法とは一致しない。中国のEEZ内(12マイルという中国の領海を越えた範囲)で合法的に航行・飛行する米国の船舶及び航空機に対する妨害・嫌がらせは、米中関係における摩擦を繰り返しつくりだしている。


地域的な領域に関する紛争

 1930年代から40年代の間、中華民国、南沙・西沙諸島を含む南シナ海全域を9ドットラインの内側として描写し始めた。この主張の本質についてはあいまいなままであるが、中国は9ドットラインの内側の領域及び隣接水域は、中国に属していると主張している。中国の拡大した主張の一部分は、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイとすべてもしくは一部が競合している。これらの論争において、強制力を用いる中国の能力は、近年着実に進歩している。特に、中国の海軍近代化は、南シナ海の領土を主張するライバルの間の安全保障に関する認識に影響している。

 中国は領土に関する目的を追求する中で、文民による強制力と海軍アセットの双方を影響力として使用している。近年、中国の海軍艦艇及び文民の法執行機関は、地域におけるより強硬な兆候を示しており、それは時に領土(に関する権利)を主張する、ライバルとのあつれきを引き起こしている。東シナ海では、中国は海洋の境界に関して日本との係争に直面している。この境界が引かれた海域では、論争中の領域及び海底エネルギー資源の問題が含まれている。2010年に、中国の漁船が係争中の尖閣諸島付近で日本の海上保安庁船舶に衝突した後、日中の緊張が生起した。

 中国は、幅広い海上権益に関する主張を海洋警察、国境警備部、海事局、国家海洋局、漁政及び沿岸警備隊(訳注:「海警」「海巡」「海監」「漁政」「海関」)を含めた文民のアセットを用い執行している。中国は地域的な海上の領域に関する論点を、軍事的な競争というよりも、法執行のひとつとして提示したがっている。中国は、この問題における海軍アセットの使用は、エスカレーションのリスクを高め、地域的な憎悪を生み、不必要な非軍事任務をPLANに負わせることになると計算しているかのように見える。先進国、特に日米と比較すると、中国の文民海洋機関の装備・運用は不十分である。しかしながら、彼らは着実に改良されており、中国の海洋法執行に関する努力において重要な機能を果たすであろう。


SLOC

 世界的な経済上のアクターとして中国が出現して以来、中国は安全で制限のない海洋領域の保証人としての米国にもっぱら頼っている。中国の貿易の約90%は海上交通を経て行われており、世界的な商業取引の約50%は(この)地域の海域を通過している。

 このような依存は、SLOC防衛任務に対する大きな関心を促している。中国の役人はマラッカ海峡に関し、特に懸念を表明している。近年の海軍力の進展をもっても、マラッカ海峡を含む南シナ海を越えた海域での航行に対する脅威に対抗するには、大きな困難に直面するであろう。

 アデン湾におけるPLANの現在進行中の努力は、伝統的・非伝統的な脅威から海洋貿易を保護することに関する、中国の強い利益を強調している。米国は、世界規模での海域の安全及び安全保障を維持するための、中国の貢献を歓迎する。この配備は、相互利益が協力を促進する領域を強調している。


大国の地位

 中国の野心的な海軍近代化は、中国国民及び指導者にとって、誇りの大きな源泉であり続けている。中国は海軍外交及びコアリションにおける海賊対処活動に従事させるために、最も近代化された艦艇を派遣している。中国人の多くは、海軍力を大国の地位のために必要不可欠なものとみなしている。

 中国の役人及び専門家は、中国が国連安保理常任理事国の中で、空母を保有していない唯一の国であるという事実をしばしば残念に思っている。来る10年内に空母を配備するというPLANの計画は、実際の戦闘能力にかかわらず、国家的なプライドの大きな源泉としての役割を果たすであろう。

 中国の指導者は、中国の現在の海軍力を、より近代化された日本及び西洋の海軍力によって簡単に壊滅させられた清王朝後期と比較することによって、愛国意識を刺激している。2006年12月27日、胡錦濤は、中国は今や「偉大な海洋勢力」であると断言するPLAN将校のグループに言及し、中国海軍の発展への信頼を表明するとともに、中国は海軍を強化・近代化させ続けなければならないと付け加えた。


海上配備の核戦力

 中国は、海上配備の核抑止力を配備する努力を継続している。PLANは晋級SSBNを受領しているが、JL-2武器システムに関する難題に繰り返し直面している。システムは米国防省が予測した2010年までには、初期の運用能力に到達しなかった。中国が残された技術的障壁をいったん克服すれば、PLANは核アセットの保護という任務を命じられるであろう。


重要な課題の克服

 PLAが進歩している分野については、頻繁に注目を集めるが、能力格差が残っていることについてはあまり理解されていない。例えば、アデン湾における配備は、中国の軍隊・文民指導者に、遠隔地オペレーションの複雑さを強調した。尹卓少将によれば、アデン湾での任務は「海軍の装備は遠海での作戦に特に適しているというわけでなく、我々の装備、技術、特に情報インフラ及び通信手段のレベルは、遠方展開能力と同様、西洋諸国に追いつくためには長い道のりがあることを示した。」

 中国の地域における能力は、過去20年間でかなり改善された。しかしながら、短期的には、中国は持続的な紛争において、局地的な海域を越えて軍事力を投射するには、大きな困難に直面するであろう。近年進歩したものの、中国には、海外基地、補給のためのインフラが欠けており、沿岸配備の防衛に頼ったままである。中国の国際平和維持への努力、軍隊による外交、海賊対処活動、人道支援・災害派遣、中国国民の海外における紛争地からの避難及び訓練活動への一層の関与は、本土から遠く離れた場所で活動するPLAの能力を改善するであろう。中国指導部がこの方針を追求するのであれば、この作戦上の経験は、結果的に「世界規模」の軍事プレゼンスを容易にするであろう。


将来を評価する

 中国の経済・戦略地政学的利益の発展は、中国の海軍力に関する見解を根本的に変化させた。今日、PLAN及び中国の文民海洋関連機関は、彼らの能力が限定される、地域を越えた少数の平時における活動に従事する一方で、地域的な能力に関する格差を露にしている。任務の拡大は、資源の有用性及び増大しつつある中国の多様な利益を反映している。

 拡大されつつある中国の能力は、直接的な地域における権益を越えて、海洋に関する課題への大きな関心を、太平洋及びインド洋にも向けることを促進するかもしれない。10年前と比較して、陸地から遠く離れた地域における戦闘能力を手に、中国海軍の新たなプラットフォームは宇宙に配備された通信、先端センサー及び局地的な航空防衛の使用を可能にしている。平時における現在の配備は、PLANのオペレーターに地域外での価値ある経験を提供するであろう。

 海外基地の建設及び少なからぬ空母の開発は、より「世界規模の」任務を指向する前兆であるかもしれない。海洋に関する野心の本質及び範囲に関し、より開かれた中国は、疑念を低下させ、中国の海洋発展は摩擦よりも世界規模の安定の源泉となることを保証するであろう。


「遠海における中国の役割に関する議論」(別枠記事)


 2004年に胡錦濤が「新たな歴史的使命」を表明した際、中国の役人及び学者は、中国はどの程度まで海洋における力を拡大すべきかについての議論を公に開始した。「遠海防御」という用語が中国の出版物においてしばしば現れるようになった。海軍学術研究所に所属する執筆者は、海軍力は「中国の海洋権益の拡大に見合わ」なければならないと言及しつつ、「沿岸からより開かれた大洋における海軍作戦への変化」は中国にとって「避けられない歴史的選択」とした。

 近年の海軍の展開の傾向は、「遠洋」における限定的な能力に関する、中国の関心を強調している。数人の中国の専門家は、「近海防御」戦略から「遠海防御」への持続的な変化を提唱している。また、専門家の多くは、遠海防御を、根本的な変化というよりも、現在の戦略の単なる拡大もしくは調整として特徴付けている。中国の2011年国防白書は、遠洋における作戦能力を改善するための努力を認める一方、近海防御へのPLANの関与について繰り返している。

 近年、海軍職員及び専門家の数人は、かつてタブーとされてきた海外における軍事基地の話題を切り出している。2009年後半、尹卓海軍少将(退役)がインタビューにおいて、中国は海外での海賊対処活動を支援するための「安定した、永続的な物資供給と修理のための基地」を必要としていると提案したとき、多くの国際的なメディアの関心を集めた。次の10年間で実現される空母計画と共に、海軍は(後方)支援に関する選択肢を向上させるための大きな動機に直面するかもしれない。

 中国が、遠方における戦闘能力の支援に適した伝統的な軍事「基地」、あるいは海賊対処活動及び人道支援/災害派遣のような平時の展開により適した、より限定された兵站供給のための「場所」のいずれを追及するのかは、明確でない。


特別トピック:中国の軍事的関与(訳註:本トピックは抄訳)


 PLAは過去10年間で、外国への軍事的関与をいっそう増大させている。作戦レベルでは、軍事的関与により、近代化された軍隊及び発展中の軍隊双方のドクトリン、戦術、技術、手順を共有することができる。戦略レベルでは、軍事的関与により、国際システムにおける中国の能力及び新たな役割を宣伝することができる。

 中国の軍事近代化は、2つの重要な点において、協力を容易にした。第1に、中国本土から遠く離れた地域で、より先進的な軍事力を用いた活動が可能になったことにより、PLAの近代化は、能力に起因する制約を取り払った。第2に、中国は輸入したもしくは国内で設計された、一連の近代的なプラットフォームの増大を誇示することに誇りを持っている。


伝統的な軍事外交

 ハイレベルの訪問及び交流により、中国の軍人が国際的な経験をし、中国の立場を外国の聴衆に伝え、異なる世界観を理解し、外国との関係を進めることができる。

 外国のパートナーに関与することによって、中国の軍人は、外国軍隊の指揮系統、部隊編成、及び作戦上の訓練を観察、学習している。


共同訓練

 対テロ活動、機動作戦及び兵站のような領域に関する、二国間・多国間共同軍事訓練へのPLAの参加は増加している。より進んだ軍隊によって用いられている戦術、指揮に関する意思決定及び装備を観察することにより、PLAは作戦上の洞察を獲得している。

 中国は、これらの活動は建設的かつ平和的で、いかなる国を対象とするものではないと提示している。


平和維持活動

 2002年以前、中国は、国際システムへの懐疑及び、長年の他国への内政「不干渉」政策により、国連の平和維持活動(訳注:以下「PKO」と記す)への参加を一般的に避けてきた。1991年から1993年のカンボジアでの中国の活動は、その例外である。過去10年の間、特に2004年に胡錦濤が「新たな歴史的使命」を公表して以来、国連PKOに対する中国の態度は著しく変化した。

 中国は、以下の複数の目的のために国連PKO活動に参加している。国際的な中国の名声及びイメージを改善するため、混乱した地域における国際的な安定を支援するため、情報収集活動を開始及び拡大するため、関連地域における関係を促進するため。中国はまた、より危険な状況での任務に、人員を進んで派遣する意志を示している。


人道支援/災害派遣

 過去10年間、PLAは国際的な人道支援/災害派遣(訳註:以下「HA/DR」と記す。)への参加を着実に増加させている。大型の両用戦艦艇、新たな病院船、長距離輸送機及び兵站の改善に対する投資により、任務の遂行が現実的になった。

 PKO活動同様、国際的なHA/DRに参加することにより、中国は責任ある世界的な大国であるとのイメージを促進する一方で、中国の軍事発展の肯定的な側面を示すことができる。


武器売却

 中国は、外国との関係を促進し、収入を得るために武器の売却を行っている。小火器及び弾薬に重点が当てられているが、中国の武器売却はより先進的な武器システムの共同開発あるいは移転を含んでいる。武器売却は、特にエネルギーもしくは価値のある資源が関連する地域との、貿易関係を促進する役割も果たしている。

 2005年から2010年の間、中国は約110億ドル相当の通常兵器システムを、世界中に売却した。パキスタンは、中国にとって引き続き、通常兵器の主要な売却先である。

 中国は、ロシアあるいは西側の供給国によって提供されていない、武器システムの隙間をターゲットとしている。

 中国の武器売却の量は、世界の主要な武器売却国と比較すると、いまだ規模が大きくない。しかし、中国の防衛産業が精巧ではあるが、手軽な値段の武器を市場で売買するにつれて、中国の武器に対する関心は増大するであろう。

 不安定な地域への売却
・イラン
・スーダン


結 論

 中国が、変動する安全保障環境における自国の利益を認識すると共に、中国の国際社会への関与が進展した。中国の地域的そして国際的な権益が拡大するにつれ、特にPKO、HA/DR、共同訓練といった領域における、中国の追加的な国際的関与への原動力も増大した。PLAのさらなる近代化に加え、これらの関与は、中国の政治的関係の構築と、特にアジアにおける中国の台頭及び国際的な影響力の拡大に関する懸念の緩和のために向けられるであろう。


(幹部学校第1研究室  松崎 みゆき) 


 本トピックスに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。