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第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組

第2節 実効的な抑止及び対処

各種事態に適時・適切に対応し、国民の生命・財産と領土・領海・領空を確実に守り抜くためには、総合的な防衛体制を構築して各種事態の抑止に努めるとともに、事態の発生に際しては、その推移に応じてシームレスに対応する必要がある。このため、わが国周辺を広域にわたり、常時継続的に監視することで、情報優越1を確保するとともに、各種事態が発生した場合には、適切な時期及び海空域で海上優勢2及び航空優勢3を確保して実効的に対処し、被害を最小化することが重要である。

参照資料17(自衛隊の主な行動)
資料18(自衛官又は自衛隊の部隊に認められた武力行使及び武器使用に関する規定)

1 周辺海空域における安全確保

わが国は、6,800あまりの島々で構成され、世界第6位4の面積となる領海(内水を含む。)及び排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)を有するなど広大な海域に囲まれており、自衛隊は、平素から領海・領空とその周辺の海空域において情報収集及び警戒監視を行っている。

警戒監視を行う陸自隊員

警戒監視を行う陸自隊員

1 周辺海空域における警戒監視
(1)基本的考え方

自衛隊は、各種事態に迅速かつシームレスに対応するため、平素から常時継続的にわが国周辺海空域の警戒監視を行っている。

(2)防衛省・自衛隊の対応

海自は、平素から哨戒機などにより、北海道周辺や日本海、東シナ海などを航行する船舶などの状況について、空自は、全国28か所のレーダーサイトと早期警戒管制機などにより、わが国とその周辺の上空の状況について、24時間態勢での警戒監視をそれぞれ実施している。また、主要な海峡では、陸自の沿岸監視隊や海自の警備所などが同じく24時間態勢で警戒監視を行っている5。さらに、必要に応じ、護衛艦・航空機などを柔軟に運用し、わが国周辺における各種事態に即応できる態勢を維持している。このような警戒監視により得られた情報については、海上保安庁を含む関係省庁にも共有し、連携の強化も図っている。

東シナ海海洋プラットフォーム周辺における警戒監視(海自P-3C哨戒機内から撮影)

東シナ海海洋プラットフォーム周辺における
警戒監視(海自P-3C哨戒機内から撮影)

空自E-767早期警戒管制機内における警戒監視

空自E-767早期警戒管制機内における警戒監視

自衛隊の警戒監視により確認された主な事象については、例えば、12(平成24)年9月のわが国政府による尖閣三島(魚釣島、南小島及び北小島)の所有権の取得以降、中国公船が尖閣諸島周辺のわが国領海へ断続的に侵入6し、16(平成28)年6月には、中国海軍戦闘艦艇が尖閣諸島北方のわが国の接続水域に初めて入域した。同年12月には、空母「遼寧」を含む中国海軍艦艇6隻が沖縄本島・宮古島間を通過し7、同空母の西太平洋への進出が初めて確認された。17(平成29)年7月には、中国海軍情報収集艦が小島(こじま)(北海道松前町)南西のわが国領海に入域し、津軽海峡を東航して太平洋へ進出した。18(平成30)年1月には、中国海軍潜水艦と中国海軍艦艇が尖閣諸島周辺のわが国接続水域を同時に航行するのを初めて確認した(当該潜水艦については後述)。さらに、同年4月には、与那国島の南約350kmの海域で、空母「遼寧」からの複数の艦載戦闘機(推定)の飛行が初めて確認された。

また、北朝鮮が密輸によって国連安保理決議の制裁逃れを図っている可能性が指摘されている中、自衛隊はわが国周辺海域において、平素実施している警戒監視活動の一環として、国連安保理決議違反が疑われる船舶についての情報収集も実施しており、18(平成30)年には、海自哨戒機などが、北朝鮮船籍タンカーと外国船籍タンカーなどが東シナ海の公海上で接舷(横付け)している様子を同年6月末までに計9回確認8し、関係省庁とその都度、情報共有を行った。これらの船舶は、政府として総合的に判断した結果、国連安保理決議で禁止されている北朝鮮船籍船舶との洋上での物資の積替え(いわゆる「瀬取り」)を実施していたことが強く疑われるとの認識に至ったため、わが国として、国連安保理北朝鮮制裁委員会に通報するとともに、関係国と情報共有を行ったほか、これらのタンカーの関係国などに対して関心表明を行い、対外公表を実施した9

東シナ海公海上において警戒監視中の海自哨戒機が確認した「瀬取り」に従事していると強く疑われる北朝鮮関連船舶(右)(18(平成30)年2月)

東シナ海公海上において警戒監視中の海自哨戒機が確認した「瀬取り」に
従事していると強く疑われる北朝鮮関連船舶(右)(18(平成30)年2月)

なお、国連安保理決議により禁止されている北朝鮮船籍船舶とのいわゆる「瀬取り」を含む違法な洋上での活動に対し、米国に加え、関係国が、在日米軍嘉手納飛行場を拠点として航空機による警戒監視活動を行っており、18(平成30)年4月下旬から約1か月間、オーストラリア及びカナダから哨戒機が派遣された。また、同年4月には英国も北朝鮮の洋上での不正取引を監視する国際的な努力に貢献する旨発表し、同年5月上旬には、英国海軍フリゲート艦「サザーランド」がわが国周辺の公海上で情報収集活動を行った。防衛省・自衛隊としても、引き続き関係国と緊密に協力を行い国連安保理決議の実効性を確保していく考えである。

参照図表III-1-2-1(わが国周辺海空域での警戒監視のイメージ)、図表III-1-2-2(中国公船の尖閣諸島周辺の領海への侵入回数)、I部2章2節1項(北朝鮮)I部2章3節2項(軍事)

図表III-1-2-1 わが国周辺海空域での警戒監視のイメージ

図表III-1-2-2 中国公船の尖閣諸島周辺の領海への侵入回数

2 領空侵犯に備えた警戒と緊急発進(スクランブル)
(1)基本的考え方

国際法上、国家はその領空に対して完全かつ排他的な主権を有している。対領空侵犯措置は、公共の秩序を維持するための警察権の行使として行うものであり、陸上や海上とは異なり、この措置を実施できる能力を有するのは自衛隊のみであることから、自衛隊法第84条に基づき、第一義的に空自が対処している。

(2)防衛省・自衛隊の対応

空自は、わが国周辺を飛行する航空機を警戒管制レーダーや早期警戒管制機などにより探知・識別し、領空侵犯のおそれのある航空機を発見した場合には、戦闘機などを緊急発進(スクランブル)させ、その航空機の状況を確認し、必要に応じてその行動を監視している。さらに、この航空機が実際に領空を侵犯した場合には、退去の警告などを行う。

緊急発進(スクランブル)する空自F-15J戦闘機

緊急発進(スクランブル)する空自F-15J戦闘機

平成29(2017)年度の空自機による緊急発進(スクランブル)回数は904回で、前年度と比べて264回減少したが、1958(昭和33)年に対領空侵犯措置を開始して以来6番目となる回数であり、依然として高い水準で推移している。

このうち、中国機に対する緊急発進回数は500回で、過去最多となった前年度に比べて351回減少しているものの、対象国・地域別の緊急発進回数の公表を開始した平成13(2001)年度以降3番目に高い水準であることから、中国機の活動は引き続き活発であると言える。

また、特異な事例として、17(平成29)年5月には、尖閣諸島付近のわが国領海に侵入した中国公船の上空において、小型無人機らしき物体1機が、わが国領空を飛行する領空侵犯事案が生起した。同年8月には、中国軍の爆撃機6機が東シナ海から沖縄本島・宮古島間を通過し、太平洋を北東に飛行して、紀伊半島沖まで往復するという飛行が初めて確認された。同年12月には、戦闘機2機を含む計5機の航空機が対馬海峡上空を通過して、日本海に進出した。なお、中国軍の戦闘機による日本海進出が確認されたのは、本件が初めてであった。また、18(平成30)年4月には、中国の無人機(推定)が東シナ海を飛行する事案が生起した。

このように、中国の航空戦力はその活動範囲を一層拡大するなど、わが国周辺空域における行動を一方的にエスカレートさせており、強く懸念される状況となっている。

また、ロシア機に対する緊急発進回数は、前年度と比べて89回の増加となる390回であった。17(平成29)年8月及び翌18(平成30)年2月には、爆撃機2機がわが国周辺を長距離飛行するなどの特異な飛行を行っており、引き続きロシア機の活動は活発なまま推移している。

なお、13(平成25)年11月の、中国による「東シナ海防空識別区」設定後も、防衛省・自衛隊は、当該区域を含む東シナ海において、従前どおりの警戒監視などを実施している。防衛省・自衛隊としては、引き続き、わが国周辺海空域における警戒監視に万全を期すとともに、国際法及び自衛隊法に従い、厳正な対領空侵犯措置を実施している。

参照図表III-1-2-3(冷戦期以降の緊急発進実施回数とその内訳)、図表III-1-2-4(緊急発進の対象となった航空機の飛行パターン例)、図表III-1-2-5(わが国及び周辺国の防空識別圏(ADIZ))、I部2章3節2項(軍事)I部2章4節4項(わが国の周辺のロシア軍)II部3章2節3項5(領空侵犯に対する措置)

図表III-1-2-3 冷戦期以降の緊急発進実施回数とその内訳

図表III-1-2-4 緊急発進の対象となった航空機の飛行パターン例

図表III-1-2-5 わが国及び周辺国の防空識別圏(ADIZ

3 領海及び内水内潜没潜水艦への対処など
(1)基本的考え方

わが国の領水10内で潜没航行する外国潜水艦に対しては、海上警備行動を発令して対処する。こうした潜水艦に対しては、国際法に基づき海面上を航行し、かつ、その旗を揚げるよう要求し、これに応じない場合にはわが国の領海外への退去を要求する。

(2)防衛省・自衛隊の対応

海自は、わが国の領水内を潜没航行する外国潜水艦を探知・識別・追尾し、こうした国際法に違反する航行を認めないとの意思表示を行う能力及び浅海域における対処能力の維持・向上を図っている。04(平成16)年11月、先島群島周辺のわが国領海内を潜没航行する中国原子力潜水艦に対し、海上警備行動を発令し、海自の艦艇などにより潜水艦が公海上に至るまで継続して追尾した。

また、13(平成25)年5月には久米島の南の海域で、14(平成26)年3月には宮古島の東の海域で、16(平成28)年2月には対馬の南東の海域において、海自P-3C哨戒機などが、わが国の接続水域内を航行する潜没潜水艦を確認した。加えて、18(平成30)年1月には、尖閣諸島周辺のわが国接続水域を航行する潜没潜水艦を海自護衛艦などが確認した。その後、当該潜没潜水艦は、東シナ海公海上で浮上のうえ、中国国旗を掲揚して航行しているところも確認されている。このような尖閣諸島周辺のわが国接続水域における中国海軍潜水艦による航行の確認は、本件が初めてである。国際法上、外国の潜水艦が沿岸国の接続水域内を潜没航行することは禁じられているわけではないが、このような活動に対して、わが国は適切に対応する態勢を維持している。

4 武装工作船などへの対処
(1)基本的考え方

武装工作船と疑われる船(不審船)には、警察機関である海上保安庁が第一義的に対処するが、海上保安庁では対処できない、又は著しく困難と認められる場合には、海上警備行動を発令し、海上保安庁と連携しつつ対処する。

参照II部3章2節3項2(海上警備行動)

(2)防衛省・自衛隊の対応

防衛省・自衛隊は、1999(平成11)年の能登半島沖での不審船事案や01(平成13)年の九州南西海域での不審船事案などの教訓を踏まえ、様々な取組を行っている。

特に海自は、①ミサイル艇の配備、②特別警備隊11の編成、③護衛艦などへの機関銃の装備、④強制停船措置用装備品(平頭弾)12の装備、⑤艦艇要員の充足率の向上、⑥立入検査隊に対する装備の充実などを実施してきたほか、1999(平成11)年防衛庁(当時)と海上保安庁が策定した「不審船に係る共同対処マニュアル」に基づき、定期的な共同訓練を行うなど、連携の強化を図っている。

1 情報の認知、収集、処理、伝達を迅速かつ的確に行うことについて相手方に優ること

2 海域において相手の海上戦力より優勢であり、相手方から大きな損害を受けることなく諸作戦を遂行できる状態

3 わが航空部隊が敵から大なる妨害を受けることなく諸作戦を遂行できる状態

4 海外領土を除く。海外領土を含める場合は世界第8位

5 自衛隊による警戒監視活動は、防衛省設置法第4条第1項第18号(所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと)に基づいて行われる。

6 15(平成27)年12月26日以降、機関砲らしきものを搭載した中国公船がわが国領海に侵入してくるようになっている。

7 このような中国海軍艦艇による沖縄本島・宮古島間の海域などの南西諸島の通過を伴う活動は、平成29(2017)年度には、7回確認されている。

8 具体的には、18(平成30)年1月20日には北朝鮮船籍タンカー「Rye Song Gang 1号」とドミニカ国船籍タンカー「Yuk Tung号」が、同年2月13日には北朝鮮船籍タンカー「Rye Song Gang 1号」とベリーズ船籍タンカー「Wan Heng11号」が、同月16日には北朝鮮船籍タンカー「Yu Jong2号」と船籍不明の小型船舶が、同月24日には北朝鮮船籍タンカー「Chon Ma San号」とモルディブ船籍タンカー「Xin Yuan 18号」が、同年5月19日には北朝鮮船籍タンカー「JI SONG 6号」と船籍不明の小型船舶が、同月24日には北朝鮮船籍タンカー「SAM JONG 2号」と船籍不明のタンカーが、同年6月21日には北朝鮮船籍タンカー「YU PHYONG5号」と船籍不明の小型船舶が、翌22日にも北朝鮮船籍タンカー「YU PHYONG5号」と前日と同一のものと思われる船籍不明の小型船舶が、同月29日には北朝鮮船籍タンカー「AN SAN1号」と船籍不明の船舶が、それぞれ東シナ海の公海上において横付けしているところを、海自第1航空群所属のP-3C哨戒機などが確認した。このほか、同年5月3日の深夜、東シナ海の公海上で北朝鮮船籍の船舶と横付けしている韓国船籍の船舶を確認した事例がある。これについては、韓国において、当該船舶に対する調査が行われ、同船舶による違法な「瀬取り」の事実はなかったことを確認した旨韓国政府からわが国政府に対して通報があった。

9 このような「瀬取り」に対するわが国政府の取組は、18(平成30)年4月の日米首脳会談や日米防衛相会談において、トランプ米大統領やマティス米国防長官からの賞賛を受けている。

10 領海及び内水

11 01(平成13)年3月、海上警備行動下において不審船の立入検査を行う場合、予想される抵抗を抑止し、その不審船の武装解除などを行うための専門の部隊として海自に新編された。

12 護衛艦搭載の76mm砲から発射する無炸薬の砲弾で、先端部を平坦にして跳弾の防止が図られている。