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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

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第4節 宇宙空間と安全保障

1 宇宙空間と安全保障

人類初の宇宙空間への人工衛星打上げから約60年が経過し、近年、宇宙空間を利用した技術は、様々な分野に活用されている。宇宙空間は、国家による領有が禁止されていることに加え、全ての国が自由に利用できることから、主要国は、宇宙利用を積極的に進めている1。例えば、気象や陸・海域の観測に気象衛星などの観測衛星、インターネットや放送に通信・放送衛星、また、航空機や船舶の航法利用に測位衛星などが利用され、社会、経済、科学分野など官民双方の重要インフラとして深く浸透している。

安全保障の分野においても、主要国では、軍が宇宙空間に積極的に関与し、各種人工衛星を活用している。宇宙空間は、国境の概念がないことから、人工衛星を活用すれば、地球上のあらゆる地域の観測や通信、測位などが可能となる。このため主要国は、C4ISR2機能の強化などを目的として、軍事施設・目標偵察用の画像偵察衛星、弾道ミサイルなどの発射を感知する早期警戒衛星、軍事通信・電波収集用の電波情報収集衛星、軍事通信用の通信衛星や、艦艇・航空機の航法や武器システムの精度向上などに利用する測位衛星をはじめ、各種衛星の能力向上や打上げに努めている。

また、各国は宇宙空間において、自国の軍事的優位性を確保するための能力を急速に開発している。各国が軍事目的の衛星を打ち上げる中、07(平成19)年1月、中国は老朽化した自国の衛星を、地上から発射したミサイルで破壊する衛星破壊実験を行った。その際に発生したスペースデブリ3が、人工衛星の軌道上に飛散し、各国の人工衛星などの宇宙資産に対する脅威として注目されるものとなった4。また、中国やロシアなどは、ミサイルの直撃により衛星を破壊するのではなく、よりスペースデブリの発生が少ない対衛星兵器(ASAT:Anti Satellite Weapon)も開発中とみられている。例えば、攻撃対象となる衛星に衛星攻撃衛星(いわゆる「キラー衛星」)を接近させ、アームで捕獲するなどして対象となる衛星の機能を奪う対衛星兵器を開発しているとみられる。この点、中国は宇宙空間において衛星の周辺で別の衛星を機動させ、キラー衛星の動きを模擬する試験を実施したほか、ロシアもキラー衛星を打ち上げたと指摘されている5。また、中国及びロシアは、攻撃対象となる衛星と地上局との間の通信を電波妨害装置(ジャマー)により妨害し、対象となる衛星の機能を奪う対衛星兵器などを開発しているとの指摘もある。

このように、今や宇宙空間の安定的利用に対するリスクが、各国にとって安全保障上の重要な課題の一つとなっていることから、これらのリスクに効果的に対処し、宇宙空間の安定的利用の確保に努めていく必要がある。

こうした中、宇宙空間の探査及び利用などを規定した「宇宙条約(月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約)」などの既存の枠組みにおいては、宇宙物体の破壊の禁止やスペースデブリ発生原因となる行為の回避などに関する規定がないため、近年、宇宙活動に関する行動規範や「宇宙活動の長期的持続可能性」についてのガイドラインの策定に向けた国際的な取組6が進められている。また、対衛星兵器やスペースデブリなどの宇宙資産に対する脅威に加え、人工衛星や地上の電子機器に影響を及ぼす可能性のある太陽活動や、地球に飛来する隕石などの脅威に対する監視活動が、宇宙状況監視(SSA:Space Situational Awareness)として、各国で取り組まれている。

参照III部1章2節6項(宇宙空間における対応)

1 1967(昭和42)年10月に発効した宇宙条約(月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約)では、月その他の天体の平和的目的の利用、宇宙空間の探査と利用の原則的自由、領有の禁止などを定めている。なお、宇宙空間の定義については、上空100km以上を宇宙空間と見なす考え方などがあるものの、明確な国際的合意はない。

2 Command、Control、Communication、Computer、Intelligence、Surveillance、Reconnaissanceの略で、「指揮、統制、通信、コンピュータ、情報、監視、偵察」という機能の総称。1991(平成3)年の湾岸戦争は、「史上初の宇宙ハイテク戦争」とされている。

3 運用を終えた人工衛星、ロケットの上段、部品や破片などの地球を周回する不要な人工物

4 18(平成30)年4月の米ワシントン・タイムズ(電子版)によると、18(平成30)年3月にロシアが対衛星ミサイルの発射実験を行ったとされる。また、18(平成30)年2月に中国が対衛星ミサイルの発射実験を行ったとの指摘がある。

5 18(平成30)年1月の米ニュースサイト「ワシントン・フリービーコン」による。

6 07(平成19)年、国連宇宙空間平和利用委員会議長が、民生分野の宇宙活動について、長期的持続可能な活動を行うためのリスク軽減や宇宙空間への公平なアクセスなどについて定める「宇宙活動の長期的持続可能性」を議論することを提案。これを受け、国連宇宙空間平和利用委員会科学技術小委員会にワーキンググループが設置され、ガイドライン策定に向けた議論を毎年実施している。16(平成28)年6月には、スペースデブリ監視情報の収集、共有などを促進する内容を含む一部のガイドラインについて合意。18(平成30)年中の全体合意を目指し、議論を継続中。