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<解説>ロシアによるウクライナ侵略の教訓

国連安保理常任理事国であるロシアがウクライナへの侵略を行った事実は、自らの主権と独立の維持は我が国自身の主体的、自主的な努力があって初めて実現するものであり、他国の侵略を招かないためには自らが果たし得る役割の拡大が重要であることを教えています。

ロシアがウクライナを侵略するに至った軍事的な背景としては、ウクライナのロシアに対する防衛力が十分ではなく、ロシアによる侵略を思いとどまらせ、抑止できなかった、つまり、十分な能力を保有していなかったことにあります。また、どの国も一国では自国の安全を守ることはできない中、外部からの侵攻を抑止するためには、共同して侵攻に対処する意思と能力を持つ同盟国との協力の重要性が再認識されています。さらに、高い軍事力を持つ国が、あるとき侵略という意思を持ったことにも注目すべきです。脅威は能力と意思の組み合わせで顕在化するところ、意思を外部から正確に把握することには困難が伴います。国家の意思決定過程が不透明であれば、脅威が顕在化する素地が常に存在します。このような国から自国を守るためには、力による一方的な現状変更は困難であると認識させる抑止力が必要であり、相手の能力に着目した自らの能力、すなわち防衛力を構築し、相手に侵略する意思を抱かせないようにする必要があります。

また、戦い方も、従来のそれとは様相が大きく変化してきています。これまでの航空侵攻・海上侵攻・着上陸侵攻といった伝統的なものに加えて、精密打撃能力が向上した弾道・巡航ミサイルによる大規模なミサイル攻撃、偽旗作戦を始めとする情報戦を含むハイブリッド戦の展開、宇宙・サイバー・電磁波の領域や無人アセットを用いた非対称的な攻撃、核保有国が公然と行う核兵器による威嚇ともとれる言動等を組み合わせた新しい戦い方が顕在化しています。こうした新しい戦い方に対応できるかどうかが、今後の防衛力を構築する上で大きな課題となっています。

このように、戦後、最も厳しく複雑な安全保障環境の中で、国民の命と平和な暮らしを守り抜くためには、その厳しい現実に正面から向き合って、相手の能力と新しい戦い方に着目した防衛力の抜本的強化を行う必要があります。こうした防衛力の抜本的強化とともに国力を総合した国全体の防衛体制の強化を、戦略的発想を持って一体として実施することこそが、我が国の抑止力を高め、日米同盟をより一層強化していく道であり、また、同志国等との安全保障協力の礎となるものです。