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第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ

6 電磁波領域での対応

電磁波領域は、陸・海・空、宇宙、サイバー領域に至るまで、活用範囲や用途が拡大し、現在の戦闘様相における攻防の最前線となっている23。このため、電磁波領域における優勢を確保することが抑止力の強化や領域横断作戦の実現のために極めて重要である。

電磁波領域においては、相手方からの通信妨害などの厳しい電磁波環境の中においても、自衛隊の電子戦及びその支援能力を有効に機能させ、相手によるこれらの作戦遂行能力を低下させるなど、能力強化を着実に進める。また、電磁波の管理機能を強化し、自衛隊全体でより効率的に電磁波を活用していくこととしている。

防衛省・自衛隊としては、民生用の周波数利用と自衛隊の指揮統制や情報収集活動などのための周波数利用を両立させ、自衛隊が安定的かつ柔軟な電波利用を確保できるよう、関係省庁と緊密に連携しつつ、電磁波領域における能力を強化していく。

参照I部4章4節1(電磁波領域と安全保障)

1 電磁波の利用を適切に管理・調整する機能の強化

電磁波を効果的、積極的に利用して戦闘を優位に進めるためには、電子戦能力を向上していくとともに、電磁波の周波数や利用状況を一元的に把握・調整し、部隊などに適切に周波数を割り当てる電磁波管理の態勢を整備することが必要である。

このため、装備品の通信装置やレーダー、電子戦装置などが使用する電磁波の状況を把握しモニター上で可視化する電磁波管理支援技術の研究を行うなど、電磁波管理の機能強化を進めている。

参照図表III-1-4-12(電子戦能力と電磁波管理能力のイメージ)

図表III-1-4-12 電子戦能力と電磁波管理能力のイメージ

2 電磁波に関する情報収集・分析能力の強化及び情報共有態勢の構築

電磁波の領域での戦闘を優位に進めるためには、平時から有事までのあらゆる段階において、電磁波に関する情報を収集・分析し、これを味方の部隊で適切に共有することが重要である。

2023年度は、受信電波周波数範囲の拡大など能力向上したRC-2電波情報収集機の搭載装置の取得などを実施することとしている。

そのほか、防衛情報通信基盤(DII)を含む各自衛隊間のシステムの連接を引き続き推進することとしている。

3 わが国への侵攻を企図する相手方のレーダーや通信などを無力化するための能力の強化

平素からの情報収集・分析に基づき、レーダーや通信など、わが国に侵攻を企図する相手方の電波利用を無力化することは、他の領域における能力が劣勢の場合にも、それを克服してわが国の防衛を全うするための一つの手段として有効である。

このため、2022年度においては、米子駐屯地(鳥取県)などへの電子戦部隊の配備など陸自電子戦部隊の強化を実施したほか、2023年度以降についても、陸自電子戦部隊を強化していく。また、平素から電波情報の収集・分析を行い、有事においては、相手の電波利用を無力化する機能を有するネットワーク電子戦システム(NEWS:Network Electronic Warfare System)の能力を向上させる。加えて、相手方の脅威圏外(スタンド・オフ・レンジ)から、主に航空機への通信・レーダー妨害を行うスタンド・オフ電子戦機の開発を行う。

ネットワーク電子戦システム(NEWS)

ネットワーク電子戦システム(NEWS)

さらに、艦艇用リフレクタ型デコイ弾の器材取得や、多数のドローンを活用したスウォーム(群れ)攻撃の脅威に有効に対処する観点から、高出力マイクロ波(HPM:High Power Microwave)照射装置の取得・実証研究、高出力の車両搭載型レーザー装置の運用、高出力レーザーシステムの研究なども進めることとしている。

4 電磁波領域における妨害などに際して、その効果を局限する能力の強化

電磁波領域における妨害などに際してその効果を局限し、航空優勢を確保するため、電子防護能力に優れたF-35A戦闘機の取得を推進する。また、戦闘機運用の柔軟性を向上させるため、電子防護能力に優れ、短距離離陸・垂直着陸が可能なF-35B戦闘機を取得する。

5 訓練演習、人材育成

自衛隊の電磁波領域の能力強化や専門的知見を有する隊員の育成のため、統合電磁波作戦訓練を実施するほか、米国の電子戦教育課程への要員派遣などを通じ、最新の電磁波領域に関する知見の収集やノウハウの獲得を図っている24

2023年2月から3月にかけて、海自は米海軍との相互運用性の向上を図るため、EP-3多用機を初めて米国に派遣し、米海軍との電磁機動戦訓練を実施した。

23 電磁波を用いた攻撃の一つに、核爆発などにより、瞬時に強力な電磁波を発生させ、システムをはじめとする電子機器に過負荷をかけ、誤作動させたり破壊したりする電磁パルス攻撃がある。このような攻撃は、防衛分野のみならず国民生活全体に影響がある可能性があり、政府全体で必要な対策を検討していくこととしている。

24 このほか、防衛省・自衛隊においては、各自衛隊の情報を全国で共有するために必要となる通信網の多重化を推進するほか、電磁パルス防護の観点を踏まえた研究を行っている。