海上自衛隊特別警備隊関係の課程学生の死亡事案について(調査報告書のポイント)

 平成20年9月9日、術科教育の課程として特別警備隊に置かれた特別警備応用課程の学生であった3等海曹が、格闘教務中に連続組手が行われた際に倒れ、同25日に急性硬膜下血腫によって死亡した事故について、一般事故調査委員会による調査報告書のポイントは以下のとおり。

1 事故の背景

○ 連続組手は、平成13年の特別警備隊創設以降、教育課程及び同隊の格闘部(同好会)で実施されていた。

○ 平成17年以降、格闘部は壮行会としての連続組手を少なくとも3回実施した。

○ 事故発生の約3か月前には、応用課程において、転出予定の学生に対し、学生総員による連続組手が実施された。大半の学生が、仲間意識を共有できた等の感想を持った一方で、実施の意味に疑問を持ち、特警隊の悪しき習慣と感じた学生もいた。
 * 連続組手とは、一人の元立ちに対して複数の対戦相手が所定の時間内で一人ずつ順次連続的に相対して格闘を行うこと。

2 事故発生時の状況及び事故後の対応

○ 当日の連続組手は、体育・格闘を担当する実質的な教官として配置されていた主任教官付児玉2曹から当日の体育の教務内容作成指示を受けて体育係の学生が計画し、同2曹が第3小隊幹部(3尉)及び主任教官の了解を得て実施された。

○ 主任教官付児玉2曹は、連続組手開始前に、打ち抜かない、防具以外は打たない等の注意を与え、審判をつとめ、一人の対戦時間を約50秒として全体として10分程度になるように時間調整を図った。第3小隊幹部(3尉)が状況を見ていた。

○ 事故者学生は、4、5人目の対戦相手から疲れてきたようであり、10人目前後からバテた様子が見られ、14人目の学生の右フックが左顎付近に当たり、下がりながら座り込むように倒れた。

○ 連絡を受けて到着した衛生員は、第1術科学校衛生課に救急車で搬送し、その後、医官が、近隣でCT設備のある青木病院へ搬送させた。同病院でのCT撮影で頭蓋内の出血が確認され、脳神経外科のある呉共済病院に搬送され、容態監視中、9月25日、急性硬膜下血腫により死亡した。

3 事故の原因

(1)直接的要因

 主因は、格闘を指導する技量がなかった第3小隊幹部(3尉)及び主任教官付児玉2曹が、連続組手の危険性や学生の技量を適切に判断できず、不適切な格闘ルールと不適切な防具等により、安全対策を十分にとらないまま、教務方法としては採るべきでない、必要性のない、危険性の高い連続組手をその指導の下で行わせ、これにより14人の学生が連続的に対戦したことであり、副因は、特警隊長熊谷1佐及び主任教官(3佐)の指導監督不適切(隊長:連続組手実施の容認、主任教官:連続組手実施の許可)。

(2)間接的要因

○ 特警隊長熊谷1佐の指導監督及び安全管理不十分等(格闘教務担当の指定、安全会議等)

○ 副長(2佐)の教務実施に関する指導監督不適切等(教務の細部未把握)

○ 主任教官(3佐)の教務運営不適切(権限を超えた教務運営)

○ 第3小隊幹部(3尉)の格闘に関する指導力不足(当該連続組手実施の判断)

○ 主任教官付児玉2曹の格闘に関する指導力不足(教務における安全上の措置)

○ 海幕、自衛艦隊司令部の指導監督不十分(監察、検閲、基本教育と練成訓練の区別)

* 心理的要因について
○ 学生及び主任教官付児玉2曹には、意図的に暴行を加えようとする意思はなかった。
 ・ 学生は、厳しい訓練を共に実施してきた者同士が最後の訓練を共にし、絆あるいは連帯感を深めようという思いが強かったものと考えられる。 
   ・ 主任教官付児玉2曹は、「伝統のようなもの」ととらえ、達成感といった心情的な面が先行したものと考えられる。

4 事故防止方法に関する意見等

(1)安全管理態勢の構築及び安全意識の向上

 特警隊は、今後、格闘訓練については、事故防止計画に基づく安全管理態勢を確立した上で実施する必要がある。また連続組手については、特別警備応用課程の教務方法として必要がないことから、今後実施しないようにする必要がある。

(2)特警隊の課程教育の教育態勢の再構築

 海幕及び特警隊は、特別警備応用課程の課目の内容、実施責任の所在、教官の指定を見直す必要がある。その際、同課程の他機関での実施も含め検討する必要がある。

(3)適切な防具の整備

 特警隊長は、教育訓練内容に適した防具を整備するとともに、学生の練度・技量等に応じて適切に使用するよう徹底する必要がある。

(4)教育審査の確実な実施

  特警隊長は、教育審査を厳格に実施して、問題点を把握し、改善を図る必要がある。

(5)特警隊の課程教育に対する監督の強化

  海幕及び自衛艦隊司令部は、検閲や部隊監察を通じ監督を強化する必要がある。

(6)その他

  入校の取り消しが内示されている学生の訓練参加の原則禁止、病院搬送マニュアルの作成等病院搬送手順の改善等。

 

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