国家防衛戦略
Ⅳ 防衛力の抜本的強化に当たって重視する能力

 本戦略等に示された基本方針及びこれらと整合された統合的な運用構想により導き出された、我が国の防衛上必要な7つの機能・能力の基本的な考え方とその内容は以下のとおり。

1 スタンド・オフ防衛能力

 東西南北、それぞれ約3,000キロに及ぶ我が国領域を守り抜くため、島嶼部を含む我が国に侵攻してくる艦艇や上陸部隊等に対して脅威圏の外から対処するスタンド・オフ防衛能力を抜本的に強化する。

 まず、我が国への侵攻がどの地域で生起しても、我が国の様々な地点から、重層的にこれらの艦艇や上陸部隊等を阻止・排除できる必要かつ十分な能力を保有する。次に、各種プラットフォームから発射でき、また、高速滑空飛翔や極超音速飛翔といった多様かつ迎撃困難な能力を強化する。

 このため、2027年度までに、地上発射型及び艦艇発射型を含めスタンド・オフ・ミサイルの運用可能な能力を強化する。その際、国産スタンド・オフ・ミサイルの増産体制確立前に十分な能力を確保するため、外国製のスタンド・オフ・ミサイルを早期に取得する。

 今後、おおむね10年後までに、航空機発射型スタンド・オフ・ミサイルを運用可能な能力を強化するとともに、変則的な軌道で飛翔することが可能な高速滑空弾、極超音速誘導弾、その他スタンド・オフ・ミサイルを運用する能力を獲得する。

 あわせて、スタンド・オフ防衛能力に不可欠な、艦艇や上陸部隊等に関する精確な目標情報を継続的に収集し、リアルタイムに伝達し得る指揮統制に係る能力を保有する。対処実施後の成果の評価も含む情報分析能力や、情報ネットワークの抗たん性・冗長性も併せて保有する。

2 統合防空ミサイル防衛能力

 四面環海の日本は、経空脅威への対応が極めて重要である。近年、弾道ミサイル、巡航ミサイル、航空機等の能力向上に加え、対艦弾道ミサイル、極超音速兵器や無人機等の出現により、この経空脅威は多様化・複雑化・高度化している。

 このため、探知・追尾能力や迎撃能力を抜本的に強化するとともに、ネットワークを通じて各種センサー・シューターを一元的かつ最適に運用できる体制を確立し、統合防空ミサイル防衛能力を強化する。

 相手からの我が国に対するミサイル攻撃については、まず、ミサイル防衛システムを用いて、公海及び我が国の領域の上空で、我が国に向けて飛来するミサイルを迎撃する。その上で、弾道ミサイル等の攻撃を防ぐためにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、有効な反撃を加える能力として、スタンド・オフ防衛能力等を活用する。こうした有効な反撃を加える能力を持つことにより、相手のミサイル発射を制約し、ミサイル防衛による迎撃を行い易くすることで、ミサイル防衛と相まってミサイル攻撃そのものを抑止していく。

 このため、2027年度までに、警戒管制レーダーや地対空誘導弾の能力を向上させるとともに、イージス・システム搭載艦を整備する。また、指向性エネルギー兵器等により、小型無人機等に対処する能力を強化する。

 今後、おおむね10年後までに、滑空段階での極超音速兵器への対処能力の研究や、小型無人機等に対処するための非物理的な手段による迎撃能力を一層導入することにより、統合防空ミサイル防衛能力を強化する。

3 無人アセット防衛能力

 無人アセットは、有人装備と比べて、比較的安価であることが多く、人的損耗を局限し、長期連続運用ができるといった大きな利点がある。さらに、この無人アセットをAIや有人装備と組み合わせることにより、部隊の構造や戦い方を根本的に一変させるゲーム・チェンジャーとなり得ることから、空中・水上・水中等での非対称的な優勢を獲得することが可能である。このため、こうした無人アセットを情報収集・警戒監視のみならず、戦闘支援等の幅広い任務に効果的に活用する。また、有人機の任務代替を通じた無人化・省人化により、自衛隊の装備体系、組織の最適化の取組を推進する。

 このため、2027年度までに、無人アセットを早期装備化やリース等により導入し、幅広い任務での実践的な能力を獲得する。特に、水中優勢を獲得・維持するための無人潜水艇(UUV)の早期装備化を進める。

 今後、おおむね10年後までに、無人アセットを用いた戦い方を更に具体化し、我が国の地理的特性等を踏まえた機種の開発・導入を加速し、本格運用を拡大する。さらに、AI等を用いて複数の無人アセットを同時制御する能力等を強化する。

4 領域横断作戦能力

 宇宙・サイバー・電磁波の領域及び陸・海・空の領域における能力を有機的に融合し、相乗効果によって全体の能力を増幅させる領域横断作戦により、個別の領域が劣勢である場合にもこれを克服し、我が国の防衛を全うすることがますます重要になっている。

  1.  宇宙領域においては、衛星コンステレーションを含む新たな宇宙利用の形態を積極的に取り入れ、情報収集、通信、測位等の機能を宇宙空間から提供されることにより、陸・海・空の領域における作戦能力を向上させる。同時に、宇宙空間の安定的利用に対する脅威に対応するため、地表及び衛星からの監視能力を整備し、宇宙領域把握(SDA)体制を確立するとともに、様々な状況に対応して任務を継続できるように宇宙アセットの抗たん性強化に取り組む。
    このため、2027年度までに、宇宙を利用して部隊行動に必要不可欠な基盤を整備するとともに、SDA能力を強化する。
    今後、おおむね10年後までに、宇宙利用の多層化・冗長化や新たな能力の獲得等により、宇宙作戦能力を更に強化する。
  2.  サイバー領域では、防衛省・自衛隊において、能動的サイバー防御を含むサイバー安全保障分野における政府全体での取組と連携していくこととする。その際、重要なシステム等を中心に常時継続的にリスク管理を実施する態勢に移行し、これに対応するサイバー要員を大幅増強するとともに、特に高度なスキルを有する外部人材を活用することにより、高度なサイバーセキュリティを実現する。このような高いサイバーセキュリティの能力により、あらゆるサイバー脅威から自ら防護するとともに、その能力を生かして我が国全体のサイバーセキュリティの強化に取り組んでいくこととする。
     このため、2027年度までに、サイバー攻撃状況下においても、指揮統制能力及び優先度の高い装備品システムを保全できる態勢を確立し、また防衛産業のサイバー防衛を下支えできる態勢を確立する。
     今後、おおむね10年後までに、サイバー攻撃状況下においても、指揮統制能力、戦力発揮能力、作戦基盤を保全し任務が遂行できる態勢を確立しつつ、自衛隊以外へのサイバーセキュリティを支援できる態勢を強化する。
  3.  電磁波領域においては、相手方からの通信妨害等の厳しい電磁波環境の中においても、自衛隊の電子戦及びその支援能力を有効に機能させ、相手によるこれらの作戦遂行能力を低下させる。また、電磁波の管理機能を強化し、自衛隊全体でより効率的に電磁波を活用する。
  4.  宇宙・サイバー・電磁波の領域において、相手方の利用を妨げ、又は無力化するために必要な能力を拡充していく。
  5.  領域横断作戦の基本となる陸上防衛力・海上防衛力・航空防衛力については、海上優勢・航空優勢を維持・強化するための艦艇・戦闘機等の着実な整備や、先進的な技術を積極的に活用し、無人アセットとの連携を念頭に置きつつ、新型護衛艦の導入や次期戦闘機の開発を進めるなど、抜本的に強化していく。

5 指揮統制・情報関連機能

 今後、より一層、戦闘様相が迅速化・複雑化していく状況において、戦いを制するためには、各級指揮官の適切な意思決定を相手方よりも迅速かつ的確に行い、意思決定の優越を確保する必要がある。このため、AIの導入等を含め、リアルタイム性・抗たん性・柔軟性のあるネットワークを構築し、迅速・確実なISRTの実現を含む領域横断的な観点から、指揮統制・情報関連機能の強化を図る。

 このため、2027年度までに、ハイブリッド戦や認知領域を含む情報戦に対処可能な情報能力を整備する。また、衛星コンステレーション等によるニアリアルタイムの情報収集能力を整備する。

 今後、おおむね10年後までに、AIを含む各種手段を最大限に活用し、情報収集・分析等の能力を更に強化する。また、情報収集アセットの更なる強化を通じ、リアルタイムで情報共有可能な体制を確立する。

 また、これまで以上に、我が国周辺国等の意思と能力を常時継続的かつ正確に把握する必要がある。このため、動態情報から戦略情報に至るまで、情報の収集・整理・分析・共有・保全を実効的に実施できるよう、情報本部を中心とした電波情報、画像情報、人的情報、公刊情報等の機能別能力を強化するとともに、地理空間情報の活用を含め統合的な分析能力を抜本的に強化していく。あわせて、情報関連の国内関係機関との協力・連携を進めていくとともに、情報収集衛星により収集した情報を自衛隊の活動により効果的に活用するために必要な措置をとる。

 これに加え、偽情報の流布を含む情報戦等に有効に対処するため、防衛省・自衛隊における体制・機能を抜本的に強化するとともに、同盟国・同志国等との情報共有や共同訓練等を実施していく。

6 機動展開能力・国民保護

 島嶼部を含む我が国への侵攻に対しては、海上優勢・航空優勢を確保し、我が国に侵攻する部隊の接近・上陸を阻止するため、平素配備している部隊が常時活動するとともに、状況に応じて必要な部隊を迅速に機動展開させる必要がある。このため、自衛隊自身の海上輸送力・航空輸送力を強化するとともに、民間資金等活用事業(PFI)等の民間輸送力を最大限活用する。

 また、これらによる部隊への輸送・補給等がより円滑かつ効果的に実施できるように、統合による後方補給態勢を強化し、特に島嶼部が集中する南西地域における空港・港湾施設等の利用可能範囲の拡大や補給能力の向上を実施していくとともに、全国に所在する補給拠点の近代化を積極的に推進する。

 自衛隊は島嶼部における侵害排除のみならず、強化された機動展開能力を住民避難に活用するなど、国民保護の任務を実施していく。

 このため、2027年度までに、PFI船舶の活用の拡大等により、輸送能力を強化することで、南西方面の防衛態勢を迅速に構築可能な能力を獲得し、住民避難の迅速化を図る。

 今後、おおむね10年後までに、輸送能力を更に強化しつつ、補給拠点の改善により輸送・補給を一層迅速化する。

7 持続性・強靱性

  1.  将来にわたり我が国を守り抜く上で、弾薬、燃料、装備品の可動数といった現在の自衛隊の継戦能力は、必ずしも十分ではない。こうした現実を直視し、有事において自衛隊が粘り強く活動でき、また、実効的な抑止力となるよう、十分な継戦能力の確保・維持を図る必要がある。このため、弾薬の生産能力の向上及び製造量に見合う火薬庫の確保を進め、必要十分な弾薬を早急に保有するとともに、必要十分な燃料所要量の確保や計画整備等以外の装備品が全て可動する体制を早急に確立する。
     このため、2027年度までに、弾薬については、必要数量が不足している状況を解消する。また、優先度の高い弾薬については製造態勢を強化するとともに、火薬庫を増設する。さらに、部品不足を解消して、計画整備等以外の装備品が全て可動する体制を確保する。
     今後、おおむね10年後までに、弾薬及び部品の適正な在庫の確保を維持するとともに、火薬庫の増設を完了する。装備品については、新規装備品分も含め、部品の適正な在庫の確保を維持する。
  2.  さらに、平素においては自衛隊員の安全を確保し、有事においても容易に作戦能力を喪失しないよう、主要司令部等の地下化や構造強化、施設の離隔距離を確保した再配置、集約化等を実施するとともに、隊舎・宿舎の着実な整備や老朽化対策を行う。さらに、装備品の隠ぺい及び欺まん等を図り、抗たん性を向上させる。
     また、気候変動の問題は、将来のエネルギーシフトへの対応を含め、今後、防衛省・自衛隊の運用や各種計画、施設、防衛装備品、さらに我が国を取り巻く安全保障環境により一層の影響をもたらすことは必至であるため、これに伴う各種課題に対応していく。
     このため、2027年度までに、司令部の地下化、主要な基地・駐屯地内の再配置・集約化を進め、各施設の強靱化を図る。また、災害の被害想定が甚大かつ運用上重要な基地・駐屯地から津波等の災害に対する施設及びインフラの強靱化を推進する。
     今後、おおむね10年後までに、防衛施設の更なる強靱化を図る。
  3.  自衛隊員の生命を救い、身体に対する危険を軽減することによって、自衛隊がより長く、より強靱に我が国への侵攻に対処できるように、隊員の救命率向上のため、応急救護能力を強化するとともに、第一線から最終後送先に至るまでのシームレスな医療・後送体制を構築することによって、衛生機能を変革する。