防衛力整備計画
Ⅹ 防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化

1 人的基盤の強化

 防衛力の抜本的強化のためには、これまで以上に個々の自衛隊員に知識・技能・経験が求められていること、また、領域横断作戦、情報戦等に確実に対処し得る素養を身に着けた隊員を育成する必要があることに留意しつつ、必要な自衛官及び事務官等を確保し、更に必要な制度の検討を行うなど、人的基盤を強化していく。その一環として、研究開発事業に係る職員を確保し、技能等の能力を向上させる。この際、特にサイバー領域等を含む分野については、教育体制の強化や民間人材の活用を図る。

 このため、育児、出産及び介護といったライフイベントを迎える中でも、全ての自衛隊員が能力を発揮できる環境を整備するとともに、自衛隊員へのリスキリングを含め、採用から始まるライフサイクル全般に着目した施策を総合的に講じる。

  1.  採用の取組強化
     少子化による募集対象人口の減少という厳しい採用環境の中で優秀な人材を安定的に確保するため、採用広報のデジタル化・オンライン化等を含めた多様な募集施策を推進するとともに、地方協力本部の体制強化や地方公共団体及び関係機関等との連携を強化する。
     また、任期制自衛官の魅力を向上する観点から、自衛官候補生の在り方の見直し、任期満了後の再就職、大学への進学等に対する支援の充実を図る。さらに、少子高学歴化を踏まえ、非任期制自衛官の採用の拡大や大卒者等を含む採用層の拡大に向けた施策を推進する。この際、貸費学生制度の拡充を通じ、有為な人材の早期確保を図る。
     さらに、サイバー領域等で活躍が見込まれる専門的な知識・技能を有する人材を取り込むため、柔軟な採用・登用が可能となる新たな自衛官制度を構築するほか、自衛隊を退職した者を含む民間の人材を活用するために必要な施策を講じる。
  2.  予備自衛官等の活用
     作戦環境の変化や自衛隊の任務が多様化する中で、予備自衛官等が常備自衛官を効果的に補完するため、充足率の向上のみならず、予備自衛官等に係る制度を抜本的に見直し、体制強化を図る。このため、即応予備自衛官及び予備自衛官が果たすべき役割を再整理した上で、自衛官未経験者からの採用の拡大や、年齢制限、訓練期間等について現行制度の見直しを行う。
  3.  人材の有効活用
     女性隊員の採用や、意欲・能力・適性に応じた登用を引き続き積極的に行うとともに、女性の活躍を支える教育基盤の整備や、女性自衛官の増勢を見据えた隊舎・艦艇等における女性用区画の計画的な整備を行う。
     また、知識・技能・経験等を豊富に備えた人材の一層の活用を図るため、精強性にも配慮しつつ、自衛官の定年年齢の引上げを行うとともに、再任用自衛官が従事できる業務を大幅に拡大し、再任用による退職自衛官の活用を強力に推進する。
     中途退職者の抑制は急務であり、効果的な施策の検討の資とするため、中途退職に関する自衛隊員の意識等の調査を実施する。任務や勤務環境の特殊性も踏まえ、必要となる施策については不断に検討し、講じていく。
  4.  生活・勤務環境の改善等
     ハラスメントは、自衛隊員相互の信頼関係を失墜させ組織の根幹を揺るがす決してあってはならないものであるとの認識の下、ハラスメント防止に係る有識者会議における検討結果等を踏まえた新たな対策を確立し、全ての自衛隊員に徹底させる。さらに、時代に即した対策が講じられるよう、その見直しを継続的に行い、ハラスメントを一切許容しない組織環境とする。
     また、部隊の新編・改編や即応性を確保するために必要な宿舎の着実な整備を進めるほか、隊舎・宿舎の近代化や予防保全を含む計画的な老朽化及び耐震化のための対策を講じる。さらに、生活・勤務用備品の所要数整備や確実な老朽更新、また、日用品等の所要数の確実な確保といった隊員の生活・勤務環境の改善を図る。この際、艦艇のように特殊な環境であっても働きやすい環境となるよう留意する。これらの施策により自衛隊員の士気向上を図る。
     家庭との両立を支援する制度の整備・普及を始めとするワークライフバランス確保の取組を進めるとともに、隊員のニーズを踏まえた託児施設の整備、緊急登庁時におけるこどもの一時預かり等の施策を推進する。また、地方公共団体や関係団体等と連携した家族支援施策を拡充する。
  5.  人材の育成
     より高度な領域横断作戦における統合運用に資する人材確保のため、統合幕僚学校や各自衛隊の幹部学校等における統合教育を強化する。各自衛隊、防衛大学校及び防衛研究所においては、部隊の中核となり得る優秀な人材の確保・輩出のため、サイバー領域等を含む教育・研究の内容及び体制を強化する。また、陸上自衛隊高等工科学校については各自衛隊の共同化及び男女共学化を実施する。
     さらに、各自衛隊の相互補完を一層推進するため、教育課程の共通化を図るとともに、先端技術を活用し、効果的かつ効率的な教育・研究を推進する。加えて、一元的な教育の実施及び教育効果の向上のため、海上自衛隊第1術科学校及び第2術科学校を統合するほか、いわゆる第5世代戦闘機操縦者養成等のための飛行教育・練成訓練環境の最適化等に資する初等練習機(T-7)・中等練習機(T-4)後継機及び関連するシステムの整備等を実施する。
  6.  処遇の向上及び再就職支援
     自衛隊員の超過勤務の実態調査等を通じ、任務や勤務環境の特殊性を踏まえた給与・手当とし、特に艦艇やレーダーサイト等で厳しい任務に従事する隊員を引き続き適正に処遇するとともに、反撃能力を始めとする新たな任務の増加を踏まえた隊員の処遇の向上を図る。諸外国の軍人の給与制度等を調査し、今後の自衛官の給与等の在り方について検討する。自衛官として長年にわたり任務に精励した功績にふさわしい栄典・礼遇に関する施策を進める。
     また、若年定年制又は任期制の下にある自衛官の退職後の生活基盤の確保は国の責務であることを踏まえ、退職予定自衛官に対する進路指導体制や職業訓練機会等を充実させるとともに、地方公共団体、関係機関及び民間企業等との連携を強化するなど、再就職支援の一層の充実・強化を図る。

2 衛生機能の変革

 各種事態への対処や国内外における多様な任務に対応し得るよう、各自衛隊で共通する衛生機能等を一元化して統合衛生運用を推進するとともに、防衛医科大学校も含めた自衛隊衛生の総力を結集できる態勢を構築し、戦傷医療対処能力向上の抜本的改革を推進する。

 有事において、危険を顧みずに任務を遂行する隊員の生命・身体を救うため、第一線から後送先までのシームレスな医療・後送態勢を確立することが必要である。このため、応急的な措置を講じる第一線、戦傷者を後送先病院まで輸送する各自衛隊の各種アセットを有効に利用した後送間救護、最終後送先となる病院それぞれの機能を強化していく必要がある。

 まず、第一線救護については、実際に第一線で活動を行う衛生隊員に准看護師及び救急救命士の資格取得を推進するとともに、これらの養成基盤の更なる強化を図る。また、第一線救護に引き続いて実施する緊急外科手術に関して、新たに統合の教育課程を新設し、計画的な要員の育成を図る。さらに、艦艇での洋上外科手術についても上記課程修了者に必要な教育訓練を実施し洋上医療の強化を図る。

 航空後送間救護については、新たに航空後送間救護のための訓練装置を導入し、傷病者搬送時の救護能力向上のための教育訓練環境を整備する。これらの教育訓練の実施に当たっては、各自衛隊間での共通化、統合化を推進し、共通の知識・技能の向上を図る。

 南西地域における衛生機能の強化に当たっては、自衛隊那覇病院の機能及び抗たん性を拡充することが有効と考えられることから、同病院の病床の増加、診療科の増設、地下化等の機能強化を図る。その他の後送先となる自衛隊病院についても、建替え等の機会を捉え、同様の機能強化を図る。

 衛生機能については、各自衛隊で共通する機能が多いことから、衛生資器材の整備について、各自衛隊間の相互運用性を考慮して共通化を推進する。また、医療・後送に際して必要となる各自衛隊員の医療情報を自衛隊病院等において陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊の隊員の区別なくタイムリーに取得できるよう、隊員の身体歴情報を電子化し、各隊員の医療情報を速やかに検索・閲覧できる態勢を整える。

 戦傷医療における死亡の多くは爆傷、銃創等による失血死であり、これを防ぐためには輸血に使用する血液製剤の確保が極めて重要であることから、自衛隊において血液製剤を自律的に確保・備蓄する態勢の構築について検討する。また、血液製剤と並び戦傷医療において重要な医療用酸素の確保のため、酸素濃縮装置等についても整備を行う。

 さらに、防衛医科大学校においては、近年の医療技術等の進展が著しい中、戦傷医療対処能力向上を始めとした教育研究の強化を進めるとともに、臨床の現場となる防衛医科大学校病院については、医官及び看護官への高度な医療教育や自衛隊の衛生隊員の技能向上を図るほか、戦傷者の受け入れに対応するため、運営の抜本的改革を図るとともに、病院の建替え等の機会を捉え、機能強化を図る。また、それを補完するものとして、医官及び看護官の部外研修についてもその確保に努める。