第9回日豪外務・防衛閣僚協議(「2+2」)共同声明

1 茂木敏充日本国外務大臣、岸信夫日本国防衛大臣、マリズ・ペイン・オーストラリア連邦外務大臣、ピーター・ダットン・オーストラリア連邦国防大臣は、2021年6月9日、第9回日豪外務・防衛閣僚協議(「2+2」)をビデオ会議により実施した。

インド太平洋及びそれを超えた地域に関し両国が共有する戦略的なビジョン

2 我々は、日豪間の「特別な戦略的パートナーシップ」が一層強化され続けていることを再確認する。日本と豪州は、民主主義、人権、自由貿易及びルールに基づく国際秩序に対する揺るぎないコミットメントを含む、共通の価値により結束している。我々は、インド太平洋及びそれを超えた地域の安全、安定及び繁栄について両国が共有する戦略的利益並びに深い経済的相互補完性によって一層緊密になっている。我々は共に、武力による威嚇若しくは武力の行使又は威圧によらず紛争が平和的に解決され、国際法の下で全ての国家の主権及び権利が堅持される、自由で、開かれ、包摂的で、繁栄したインド太平洋を推進するための協力を深化させる決意を新たにする。

3 我々は、インド太平洋地域の平和、安定及び繁栄を下支えする米国の強固で持続的なプレゼンスの重要性を強調する。我々は、同地域に対する米国の強いコミットメントと、米国が同盟とパートナーシップの再確認・再活性化を重視していることを歓迎する。我々は、日豪の共通の同盟国である米国との緊密な協力の重要性を改めて表明する。我々は、インド太平洋のための我々の前向きなビジョンを実現するため、日米豪戦略対話や日米豪印(クアッド)等の枠組みの下でのインド及び米国との協力を含め、同志国と引き続き協力していく。我々は、ASEANの重要性を再確認し、ASEANの一体性及び中心性並びに「インド太平洋に関するASEANアウトルック」で強調されている原則とその実践的な実施へのコミットメントに対する揺るぎない支持を表明する。また、我々は、ASEAN主導の枠組み、とりわけ、地域の戦略的な課題について首脳が議論するプレミア・フォーラムである東アジア首脳会議(EAS)の重要性を再確認する。我々は、太平洋島嶼国と引き続き協力を強化する強いコミットメントを再確認し、太平洋諸島フォーラム(PIF)の重要な役割を認識する。我々は、欧州諸国及び欧州連合(EU)によるインド太平洋へのコミットメントが高まっていることを歓迎し、欧州のパートナーとの協力を強化することの重要性を認識した。

4 我々は、ルールに基づく国際秩序を損なう、地域における威圧的で安定を損なう行動に強い反対を表明する。我々は、東シナ海における状況に関する深刻な懸念を改めて表明する。我々は、東シナ海において現状を変更し緊張を高め得る、安定を損なう又は威圧的なあらゆる一方的な行動に対する強固な反対を強める。我々は、東シナ海の状況に関する緊密な意思疎通を継続する。この文脈で、我々は、中国海警法に対する懸念を表明し、海上保安機関の活動は国際法と整合的でなければならないことを改めて表明する。我々は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。

5 我々は、南シナ海における状況に関する深刻な懸念を改めて表明し、現状を変更する一方的な試みに対する日本と豪州の強固な反対を再確認する。我々は、1982年の国連海洋法条約(UNCLOS)と整合的でない中国の海洋権益に関する主張や活動への反対を表明する。我々は、係争のある地形の継続的な軍事化、海上保安機関の船舶及び「海上民兵」の危険な使用、並びに他国の資源開発活動を妨害する試みを含む、南シナ海における最近の否定的な動き及び深刻な事案に関する深刻な懸念を共有する。我々は、南シナ海の文脈において、中国海警法に対する懸念を改めて表明する。我々は、2016年の南シナ海仲裁裁判所の判断(比中仲裁裁判)は、最終的で当事国を拘束することを再確認する。我々は、航行及び上空飛行の自由が尊重されることの重要性と、全ての紛争がUNCLOSに従って、平和的な方法で解決されるべきであることを再確認する。我々は、南シナ海におけるいかなる行動規範(COC)も、UNCLOSと整合的なものになること、COCの非当事国の主権並びに正当な権利及び利益又は全ての国の国際法上の権利を害さないものとなること、既存の包摂的な地域的枠組みを強化すること、並びに緊張を複雑化又はエスカレートさせるような行動をやめることに対する当事者のコミットメントを強化するものとなることを求める。

6 我々は、ルールに基づく国際体制を損なう、経済的な手段による威圧や安定を損なう行動に反対することにコミットする。

7 我々は、新疆におけるウイグル族や他のムスリム系少数派に対して行われていると報告されている人権侵害について深刻な懸念を共有する。我々は、中国に対し、国連人権高等弁務官を含む独立した国際的な視察団に緊急かつ有意義で自由な新疆へのアクセスを許可するよう求める。

8 また、我々は、香港及び中国当局に対して、香港の人々へのコミットメントを堅持するよう求める。我々は、香港の民主的制度を弱体化させ、香港基本法及び英中共同声明で保障された権利や自由を損なう最近の動向について重大な懸念を共有する。

9 我々は、ミャンマーにおいて進行中の危機と、それによる地域の安定への影響に重大な懸念を表明する。我々は、ミャンマー市民に対する暴力を断固として非難し、軍事政権に対し、暴力及び表現の自由を奪う措置を直ちに停止し、恣意的に拘束された全ての人々を解放するよう求める。我々は、現状の危機から脱するための道筋をつけるためのASEAN主導の取組への強い支持を強調し、4月24日のASEANリーダーズ・ミーティングで合意されたミャンマー情勢に関する「5つのコンセンサス」の履行を求める。ミャンマー及び同国民の長きにわたるパートナーとして、両国は、同国が民主主義の道に回帰するための取組を支持することに対するコミットメントを強調し、そのために全ての関係者が対話に参加するよう促す。

10 我々は、北朝鮮の全ての核兵器、その他の大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄の実現に対するコミットメントを改めて表明する。我々は、北朝鮮に対し、国連安保理決議の下での義務に従うことを求めるとともに、全ての国連加盟国に対し、関連国連安保理決議の下での義務を完全に履行し続けることを求める。我々は、違法な「瀬取り」や制裁対象に指定された物資の直接の輸送を含め、北朝鮮による制裁回避を抑止し、中断させ、最終的には排除することにコミットする。我々は、北朝鮮に対し、人権侵害を終わらせ、北朝鮮による日本人拉致問題を即時に解決するよう求める。

日豪間の安全保障・防衛協力の促進

11 我々は、日豪間の安全保障・防衛協力の一層の深化・重層化を歓迎し、我々の戦略的ビジョン及び認識を継続的に共有・更新しつつ、この協力を更に深化し拡大するために我々の成果を積み上げていくことにコミットする。我々は、一層高度化した空・陸・海の訓練・オペレーションを通じた、日豪の部隊間の相互運用性及び緊密性の拡大を強調する。我々は、一層厳しさを増す安全保障環境を踏まえ、戦略的アプローチを連携させ、能力を向上させ、現実世界に即した防衛協力を深化させる重要性を強調する。我々は、安全で安定した地域を支援する、目標を定めた、効果的で実践的な防衛活動の実施にコミットする。我々は、自衛隊と豪州国防軍との間で、空中給油を含め、共同訓練・オペレーションを複雑化・高度化させていく高い志を強固にする。我々は、能力構築、人道支援及び災害救援、人的交流において関与を深めていくとの共通の意思を改めて表明する。我々は、これらの事項について関連する議論を推進するよう事務レベルに指示する。

12 我々は、米国とのそれぞれの同盟関係の揺るぎない重要性と、複雑で頻繁な共同訓練の実施等、より深く、より幅広い防衛協力を通じたものを含めて、自由で、開かれ、包摂的で、繁栄したインド太平洋地域を支えるための三か国間の協力を一層強化することへの強いコミットメントを再確認する。我々は、多国間制度の開かれ、民主的で、人権に基づいた基盤を守るために協力活動を強化する決意を改めて表明し、両国が地域のパートナー及び同志国と緊密に協力することへのコミットメントを強調する。

13 我々は、インド太平洋地域における平和と安定に対する両国のコミットメントの基盤を更に強化し、戦略的な協力関係を一層強化する日豪円滑化協定(「日豪RAA」)の戦略的な必要性を再確認する。我々は、2020年11月の大枠合意に至った後のこれまでの順調な進展を歓迎し、可能な限り早い機会に日豪RAAに署名するために、残る全ての課題への取組を加速させることにコミットする。我々は、自衛隊と豪州国防軍のアセットの安全を確保する重要性を強調し、2020年10月の両国防衛大臣の指示を受け、自衛隊法第95条の2に係る自衛官による豪州国防軍の武器等の警護任務に向けた体制が構築されたことを歓迎する。自衛隊は、適切な機会において、豪州国防軍からの要請を踏まえ、同条の下での警護を実施する準備が整っている。

14 我々は、経済安全保障の分野における一層の協力強化を約束する。我々は、威圧的な経済的慣行に対して懸念を表明し、自由で、開かれ、包摂的で、繁栄したインド太平洋を支持するため、経済的課題を解決するためにパートナーと協力する。我々は、違法な技術移転への対応、関連するサプライチェーンの強靭性の構築、防衛産業基盤に関する連携の向上、サイバー空間での国家の行動に係る国際法及び合意された規範の適用の促進を含めて、より深化した連携を模索する。我々は、研究開発、地域の能力構築、産業の強靭性等の関連したテーマにおいて連携を促進する観点から、二国間のパートナーシップの発展を含め、サイバー及び重要技術について協力を深化させる。この目標を達成するため、我々は、様々な多国間のフォーラムにおける基準設定に関する情報共有及び調整を向上させる。

15 我々は、女性・平和・安全保障に関する国連安保理決議第1325号へのコミットメントを強調し、訓練や演習等を通じて実践的な連携を模索することで一致する。

16 我々は、安全で時宜を得た情報及び分析の交換を円滑にするための協力を強化し、両国の外務・防衛当局間での情報保全を向上させる価値を認識する。我々は、日豪情報保護協定の改正や当局間の情報共有及び情報保全のベストプラクティスについての意見交換を含め、協力を強化するよう事務レベルに指示する。

17 我々は、平和と繁栄を確保するための宇宙安全保障の一層の重要性を認識し、情報共有を通じたものを含む宇宙状況把握協力及び宇宙科学技術協力を促進する。我々は、国連を通じることを含め、宇宙空間における責任ある行動を促進するため緊密に協働することにコミットする。我々は、科学技術が我々の防衛関係の深化に不可欠であることを確認し、事務レベルに対して、防衛装備庁(ATLA)と国防科学技術グループ(DSTG)との間で、科学技術協力を促進する長期的な枠組みを構築するための必要な調整を開始するよう指示する。

18 我々は、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)及び第10回NPT運用検討会議の成功の決定的な重要性を再確認する。我々は、米国及びロシアによる核軍縮における重要な進展を示す新戦略兵器削減条約(新START)の5年間の延長を歓迎し、この進展が米露を超えたより広範な国家、より広範な兵器システムを含む幅広い軍備管理枠組みの構築につながることへの強い期待を表明する。

19 我々は、新型コロナウイルスのパンデミックが甚大な苦痛と不安をもたらしたこと、また、我々の地域の回復は大きな期待と可能性を秘めていることを認識する。我々は、クアッドを通じたワクチン関連支援の調整や、COVAXファシリティの途上国向け枠組み(AMC)への現物供与を含む追加的な貢献等を通じ、東南アジア、南アジア及び太平洋島嶼国のパートナーと、パンデミックに対する地域的な強靭性を促進するため協力する。我々は、6月2日のCOVAXワクチン・サミット(AMC増資首脳会合)の共催にあたっての日本のリーダーシップと、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジに向けた日本の地域における継続的な取組を歓迎する。我々は、メコン地域の持続可能な開発への支援にコミットし、エーヤワディー・チャオプラヤー・メコン経済協力戦略(ACMECS)、メコン・豪州パートナーシップ(MAP)、豪州のインフラストラクチャーのためのパートナーシップ(P4I)及び日米メコン電力パートナーシップ(JUMPP)を当面の焦点とすることを含め、戦略的課題、重要インフラストラクチャー、開発、クリーン・エネルギー及び保健において緊密に協力する意図を再確認する。我々は、インド太平洋における持続可能で質の高いインフラの開発のための資金調達を促進するため、日米豪のインフラに関するパートナーシップの下での米国との協力を含め、引き続き協力を深化させる。我々は、また、債務者の外交的自律性と共に、情報共有の重要性と、債権者間の債務措置の同等性の原則を強調し、国際的なルールとスタンダードに沿った債権者の貸付慣行の透明性向上のために協力する決意を維持する。

20 我々は、新型コロナウイルスのパンデミック下での人道支援や災害救援活動から学んだ教訓の共有、インド太平洋のパートナーとの海上安全保障を含めた新たな能力構築機会の模索、偽情報に対する協力を含めて、地域の持続可能性と強靭性への支援にコミットする。我々は、両国の防衛協力を通じた今日までの進展を歓迎する。

21 我々は、高い志において結束し、この地域における平和と安定への貢献に焦点をしっかり絞り、日豪間の「特別な戦略的パートナーシップ」を将来の課題と機会に対応できるようにしながら、両国の安全保障・防衛協力を一層引き上げる。