北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射について

平成25年1月25日
防衛省

1 経緯

 平成24(2012)年12月1日、北朝鮮の朝鮮中央通信は、運搬ロケット「銀河3号」により人工衛星「光明星3号2号機」を12月10日から22日の間に打ち上げる旨の、朝鮮宇宙空間技術委員会報道官談話を報じた(注1)。また、12月3日には、国際海事機関(IMO)が、北朝鮮による予告落下区域の設定等について我が国を含む関係国に通報した。
 これを受けて防衛省は、情報収集・警戒監視の態勢を強化し、12月7日、不測の事態に備え、自衛隊法第82条の3第3項に規定する弾道ミサイル等に対する破壊措置命令を発出し、イージス艦とペトリオット・ミサイルPAC-3を展開させ、必要な態勢をとった。また、防衛省は、12月12日の北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル(以下、単に「ミサイル」という。)発射に際しては、発射情報を入手次第、首相官邸(内閣危機管理センター)に提供した。

(注1)上記報道後の12月10日、朝鮮中央通信は、「運搬ロケット」の1段目操縦発動機系統の技術的欠陥が発見され、「衛星」発射予定日を12月29日まで延長することになる旨の朝鮮宇宙空間技術委員会報道官談話を報じており、IMOからも同日、北朝鮮から同趣旨の通知があった旨が我が国を含む関係国に通報された。

2 分析

 現時点までに入手し得た諸情報を総合的に分析・検討して得られた、今般の発射に関する事実関係は以下のとおりである(注2)

(1)飛翔の態様について

 平成24(2012)年12月12日9時49分頃、北朝鮮は、北西部沿岸地域の東倉里(トンチャンリ)地区から、南の方角へミサイル1発を発射したと判断される(注3)
 9時58分頃、1段目の推進装置とみられる物体が、東倉里地区から約460km離れた黄海の、北朝鮮が設定した予告落下区域内に落下したものと推定される。
 9時59分頃~10時01分頃、2段目の推進装置とみられる物体及び3段目の推進装置とみられるものを含む物体が、我が国の上空、それぞれ約430km及び約500kmを太平洋に向けて通過したと推定される。なお、我が国領域内に落下物は確認されていない。
 10時03分頃、ミサイル先端部の「外郭覆い」(フェアリング)とみられる物体が、東倉里地区から約690km離れた東シナ海の、北朝鮮が設定した予告落下区域内に落下したものと推定される。
 10時09分頃、2段目の推進装置とみられる物体が、東倉里地区から約2,600km離れた太平洋の、北朝鮮が設定した予告落下区域内に落下したものと推定される。
 3段目の推進装置とみられるものを含む物体は、概ね平坦な軌跡をとって(注4)、軌道を変更しながら飛翔を続け、後述のとおり、地球周回軌道に何らかの物体を投入させたと推定される。

(注2)別添1及び別添2も参照のこと。

(注3)12月12日、朝鮮中央通信は、同日9時49分46秒に運搬ロケット「銀河3号」を打ち上げた旨報じている。

(注4)一般的に、弾道ミサイルは放物線を描いて飛翔し、目標地点に弾頭を誘導するが、人工衛星運搬ロケットは、一定の高度まで到達させた後、平坦な軌跡をとり、所要の速度以上を与え人工衛星を地球周回軌道に投入するという飛翔形態の違いがある。

(2)北朝鮮が主張する「人工衛星」について

 北朝鮮は発射後、「人工地球衛星」を地球周回軌道に進入させることに成功した旨発表している(注5)。これに関し、現時点においては、

① 北朝鮮が発射したとみられる何らかの物体が、軌道傾斜角約97度の地球周回軌道を周回していることは確認されている(注6)

② 当該物体が、何らかの通信や、地上との信号の送受信を行っていることは確認されていない。

 以上のことから、今回の発射により、北朝鮮は軌道傾斜角約97度の地球周回軌道に何らかの物体を投入させたものと推定されるが、当該物体が人工衛星としての機能を果たしているとは考えられない。

(注5)12月12日、朝鮮中央通信は、「(発射から)9分27秒後の9時59分13秒に「光明星3」号2号機を軌道に正確に進入させた」「「光明星3」号2号機は、97.4度の軌道傾斜角で、近地点高度499.7km、遠地点高度584.18kmの極軌道を周回しており、周期は95分29秒」等と報じている。

(注6)米戦略軍は、北朝鮮が打ち上げた「光明星3号2号機」について、軌道傾斜角97.4度、近地点高度498km、遠地点高度581kmの軌道を周回しており、周期は95分43秒であるとしている(1月22日現在)。

(3)北朝鮮の弾道ミサイルについて

 弾道ミサイルの発射であれ、人工衛星の打ち上げであれ、大型の推進装置の制御、多段階推進装置の分離、姿勢・誘導制御等、必要となる技術は共通している。したがって、北朝鮮は、今回の発射を通じ、弾道ミサイルの能力向上のために必要となるこれら種々の技術的課題の検証を行うことができたと考えられる。

ア 今回北朝鮮が発射したミサイルの形状・種類等
 北朝鮮は今回、3段式の「運搬ロケット」を打ち上げた旨発表している(注7)が、これまでの北朝鮮の弾道ミサイル開発状況や今回の飛翔態様を踏まえれば、今回の発射には「テポドン2」(注8)の派生型である3段式のミサイルが利用されたものと判断される。その全長は約30m(注9)で、1段目の長さは約15m、2段目の長さは約8m、3段目の長さは約7mと推定される。
 また、今回利用された「テポドン2」派生型は、1段目にはノドンの技術を利用したエンジン4基を、2段目には同様のエンジン1基をそれぞれ使用しているものと推定される。

(注7)12月13日付の朝鮮中央通信報道は、今回の発射について、1段目、2段目、3段目からなる運搬ロケット「銀河3号」が成功裏に分離したとしている。

(注8)「テポドン2」について、防衛省はこれまで、2段式ミサイルで射程は約6,000kmであり、その派生型としては、例えば、2段式の「テポドン2」の弾頭部に推進装置を取り付けて3段式としたものなどが考えられると評価していた。

(注9)北朝鮮は、今回発射した運搬ロケットを「銀河3号」としているところ、4月には、発射場の総責任者が「銀河3号」の全長は30mであると発言した旨報じられている。

イ 技術の進展に関する状況
 今回の発射において、2段目までの推進装置とみられる物体などが分離し、いずれも北朝鮮が事前に設定した予告落下区域に落下したと推定されることや、3段目の推進装置とみられるものを含む物体が軌道を変更しながら飛翔を続けたと推定されることを踏まえれば、北朝鮮が(3)の冒頭で述べたような技術を進展させていることが示されたものと考えられる。
 また、北朝鮮は今回、「人工衛星の打ち上げ」として「テポドン2」派生型の発射を行ったが、今回の発射等で検証された技術により長射程の弾道ミサイルを開発した場合、いくつかの関連技術について依然明らかでない点はあるものの、その射程は約10,000km以上に及ぶ可能性があると考えられる(ミサイルの弾頭重量を約1トン以下と仮定した場合)。このことから、今回の発射により、北朝鮮が弾道ミサイルの長射程化を大きく進展させていることが示されたものと考えられる(注10)
 なお、北朝鮮が発射実験をほとんど行うことなく、弾道ミサイル開発を急速に進展させてきた背景としては、外部からの各種の資材・技術の北朝鮮への移転の可能性が考えられる。また、弾道ミサイルやその関連技術の移転・拡散を行い、こうした移転・拡散によって得た利益で更にミサイル開発を進めているといった指摘(注11)や、北朝鮮が弾道ミサイルの輸出先で試験を行い、その結果を利用しているとの指摘もある。

(注10)平成10(1998)年の発射時には「テポドン1」が約1,600km飛翔。また、平成21(2009)年の発射時には、「テポドン2」又はその派生型の2段目以降の部分が3,000km以上飛翔。

(注11)例えば、北朝鮮のノドンと、イランのシャハーブ3の形状には類似点が見受けられ、ノドン本体ないし関連技術のイランへの移転等が行われた可能性が指摘されている。

ウ 長射程の弾道ミサイルの実用化に向けた今後の課題
 今後、北朝鮮は、長射程の弾道ミサイルの実用化に向け、より高高度から高速で大気圏に再突入する弾頭を高熱から保護する技術、精密誘導技術、発射施設を地下化・サイロ化するといった抗堪化技術等の追求を図っていく可能性がある。
 また、北朝鮮が、「人工衛星の打ち上げ」を継続するとともに、より強力な運搬ロケットを開発・発射していく旨主張していることは(注12)、より高度な技術の獲得を目指すほか、打ち上げ回数を増やして技術の信頼性を高めていくことを意図している可能性もあると考えられる。北朝鮮は、今後もこうした方法で、長射程の弾道ミサイル開発を一層進展させる可能性が高い。

(注12)朝鮮中央通信等によれば、北朝鮮は、「国家宇宙開発計画」「国家宇宙開発展望計画」といった計画を保有しているとされ、今後も静止衛星を含む各種実用衛星を継続して打ち上げるとしている。また、12月21日、朝鮮中央通信は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国防委員会第一委員長が「各種実用衛星と、更に威力ある運搬ロケットをより多く開発して発射しなければならない」旨演説したと報じている。

3 我が国の安全保障等に与える影響

 今回の発射により、北朝鮮の弾道ミサイル開発は新たな段階に入ったと考えられる。
 長射程の弾道ミサイルの発射実験は、射程の短い他の弾道ミサイルの射程の延伸、弾頭重量の増加や命中精度の向上にも資するものであるため、今回の発射は、ノドン等北朝鮮が保有するその他の弾道ミサイルの性能の向上につながるものと考えられる。このような北朝鮮の弾道ミサイル能力の増強は、その核兵器計画が相当に進んでいる可能性が排除できないことも踏まえれば、我が国の安全に対する脅威の増大につながり得る重大な問題である。
 また、北朝鮮による長射程の弾道ミサイル開発の進展そのものについても、依然関連技術について明らかでない点はあるものの、アジア太平洋地域のみならず広く国際社会の安全保障にとって重大な懸念事項である。
 さらに、これにともなう弾道ミサイルやその関連技術の更なる移転・拡散も、国際社会にとって一層懸念すべきものとなっている。
 今回の発射は、北朝鮮の弾道ミサイル問題が、長射程化・高精度化といった能力向上の観点、関連技術の移転・拡散の観点の双方から、より現実的で差し迫った問題となっていることを示すものである。また、北朝鮮に対して弾道ミサイル技術を用いたいかなる発射も実施することを禁じている国連安保理決議第1874号をはじめ、関連する安保理決議に違反することは明白である。このような問題に対し、我が国としては、米国等の関係国をはじめとする国際社会全体と連携しつつ、重大な関心をもって情報の収集・分析に努め、我が国の平和と安全に万全を期していく。

(以上)

 

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