第四回ワクチン等に係る検討会議事概要

 

日時: 平成14年5月23日 14:00~15:30
場所: 防衛庁庁舎A棟13階 第二庁議室
出席者:
委員: 倉田 毅(国立感染症研究所 副所長)
志方俊之(帝京大学法学部 教授)
四ノ宮成祥(防衛医科大学校 微生物学講座 助教授)
白濱龍興(自衛隊中央病院 院長)
仲村英一(財団法人 結核予防会 理事長)
堀内 清(前千葉県血清研究所 副所長)
ゲストスピーカー:
渡邉治雄(国立感染症研究所 細菌部長)
防衛庁: 田中防衛参事官
外山衛生官
陸上幕僚監部古家衛生部長(代理:石川一佐)
航空幕僚監部赤松首席衛生官 
議事概要
(1)  ゲストスピーカーよりペストワクチンおよびペスト感染症について説明及び事務局からの補足説明があった後、ペストワクチンに関する討議が行われた。
(2)  事務局より、第五回、第六回会合の日程調整について説明があった。
討議の概要
(1) ペストワクチンについて
 ロッキー山脈沿い、アンデス山脈沿い、ヒマラヤ、中央アフリカ、マダガスカルなどの地域にはペスト菌が常在しており、1980~1994年に約18,739人(うち死亡者は1,852人)発生しており、これらの地域に立ち入った旅行者や探検家などが感染している。
 ペストというのは、Yersinia pestisという細菌による感染症である。Yersinia属の中にはたくさんのSpecies(種)があるが人間に対して病原性を示すのはYersinia enterocoliticaとYersinia pseudotuberculosisそれとYersinia pestisの3つである。これらは同じYersinia属でありながら病気を起こす形態が非常に異なっている。
 Yersinia pestisは、Yersinia enterocoliticaとYersinia pseudotuberculosisのように腸管からではなく、ノミに咬まれて菌が体内に入り、リンパ節内で菌が増殖して、病原性を示す。
 人間への感染は、80%以上がノミからの感染である。
 ヒトが罹った場合の熱型は、37℃前後から急激に39~40℃くらいに上昇するパターンである。
 菌の同定にあたっては、ギムザ染色やWayson染色により、めがね状若しくはピン状(両端が染まり、真ん中が抜ける)に染色されるというのがこの菌の特徴であり、臨床症状と鏡検像である程度の診断は可能である。
 ペスト菌は、他のYersiniaにない遺伝子を有しており、F1抗原(莢膜抗原)が菌の表面に広く分布している。そして、これは白血球や貪食細胞からの攻撃を防御する機能を有している。また、Fibrinolysinは、生体内のタンパク質を溶かすプロテアーゼであり、皮膚の結合組織などを溶かして生体内に入りやすくするもので、ペスト菌のみが持っている遺伝子により発現している。
 治療では、WHO(世界保健機関),CDC(米国疾病管理センター)等で推奨されている薬剤としてテトラサイクリン、ストレプトマイシン、ドキシサイクリン、クロラムフェニコールとなっている。
 日本を含め世界で使われているワクチンはホルマリン不活化全菌体ワクチンである。米国ではGreer社、日本では国立感染症研究所、オーストラリアでは連邦血清研究所で製造されている。
 ワクチン液の菌量は、米国のものは2×10であり、日本のものより非常に濃いものである。
 ホルマリン不活化全菌体ワクチンについて、マウスを使った研究において腺ペストには効果があったが、肺ペスト(噴霧実験)では効果が確認できなかったとの研究がある。
 ベトナム戦争当時のデータでは、腺ペストに関してワクチン接種を受けた軍人は106人あたり1人しか感染しなかったのに対して、ベトナム住民は106人あたり333人感染したということから、腺ペストには有効であろうという間接的な根拠となっている。
 弱毒生菌ワクチンは、旧ソ連で使用されていた経緯があり、完全に無毒化されていないため、マウスを用いた実験では1%が死に至ることが確認されている。また、ヒトに対する有効性・安全性は確認されていない。
 成分ワクチンとしては、F1抗原とV抗原の利用が検討されており、両方を使うと相乗効果があるということがわかっている。有効性も証明されており、これにより免疫したマウスに109のペスト菌を皮下投与した場合、100%生存する。
 その他、弱毒サルモネラ生菌を利用したワクチンも検討されているが、生菌を使うことで経口投与が可能となり、粘膜免疫を増強することもできるという利点がある。
(2) 自由討議
 多くの抗生物質の使用が行われていないにも関わらず耐性ペスト菌が出現するのは、他の薬剤耐性菌の遺伝子の一部が移ったものと考えられる。
 テロとして使う場合の手段としては、患者として送り込むことが考えられるが、通常感染例において、外国から自国に持ち込んだという例は文献的には数例しかない。菌を噴霧するという方法もあり得るが、炭疽と違い芽胞ではないので、条件が揃っている状態で散布しないと毒力を発揮できず、非常に高い技術が要求されるものと思われる。
 生物剤によるテロなどが起こった場合、診断が急がれるが、PCRだけでは数時間、培養まで入れると2~3日かかる。また、鏡検だけであれば30分が目安となる。
 現行のワクチンは、肺ペストに効かないということであるが、その理由として抗体を高めることが本来の目的であり、粘膜免疫が増強されるわけではないことから、結果的に気道粘膜で細菌の侵入を防ぐことができずに感染が成立してしまう。
 東南アジアの山岳地帯で齧歯類が多くすんでいる地域には、ワクチン接種が必要と思われる。
 自衛隊はPKO等で今後、東南アジアなどにも出動する可能性があるため、ペスト多発地域へ出動する場合は、ペストワクチンの接種を検討する必要がある。
 国立感染症研究所でペストワクチンを製造しているが、これは検疫法に基づいて製造しており、各検疫所に配布している。
以上

 

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