自衛隊員のメンタルヘルスに関する提言の要旨

平成12年10月6日
自衛隊員のメンタルヘルスに関する検討会


1.  自衛隊のメンタルヘルスの問題点
(1)  メンタルヘルス活動における各機能に相互連携が乏しい。施策を一貫性と計画性をもって確実に実施するため有効なシステムの形成が必要である。
(2)  個々の隊員のみならず指揮官等にもメンタルヘルスの重要性に関する認識に大きな隔たりがある。自衛隊全体においてメンタルヘルス活動の必要性を認識する必要がある。
(3)  医療活動(第二次予防)に重点が置かれ、環境整備、啓発教育、ストレス対策(第一次予防)、社会復帰、リハビリテーションを含む対応(第三次予防)に立ち遅れがある。自衛隊の任務の特性から第一次予防、第二次予防、第三次予防を包括する自己完結型の活動を目指すべきである。
2.  自衛隊におけるメンタルヘルス活動のあり方
(1)  メンタルヘルス活動の統制システムの形成
 自衛隊のメンタルヘルス活動を一貫性、継続性を持って実施するためには、全庁レベルでメンタルヘルスに関する統一された方針を決定する機能(1次システム)、それを受けて各自衛隊、機関等毎に施策を企画、実施、評価、修正する機能(2次システム)、駐屯地等で具体的に隊員に対するメンタルヘルスに関するサービスを調整する機能(3次システム)を備えたメンタルヘルス活動推進のための統制システムの形成が必要となる。
これらのシステムにより、メンタルヘルス活動の積極的な取組に対する全庁的な意思が徹底されるとともに、第一次予防から第三次予防にいたるそれぞれの予防策の位置づけが明瞭化し、各組織、付属機関等毎に組織特性に沿ったメンタルヘルス活動を推進することができる。また、駐屯地等における各活動が相互に調整され、個々の隊員に確実なメンタルヘルスに関する支援が徹底されてゆく。このため、3次システムにあっては各駐屯地等において服務指導、医療活動、カウンセリング活動の連携を図るため、駐屯地等メンタルヘルス委員会を設置することが必要である。
(2)  メンタルヘルスに対する意識改革
 全ての隊員がメンタルヘルスに関心を抱き、積極的に精神的健康管理を行う意識を持つことが出発点となるため、指揮官を含む全隊員に対して、メンタルヘルスに関する啓発教育を徹底する。自衛隊の各種教育の中にメンタルヘルス教育を必修科目として組み込み、計画的に教育することにより、啓発効果と共にメンタルヘルスに関する正しい知識・技能の付与を行う。その他、広報活動、インターネット、教育資料(ビデオ等の作成)を活用し積極的に意識改革を図る。
(3)  包括的なメンタルヘルス活動の推進
 メンタルヘルス活動の推進のためには、服務指導、カウンセリング体制、医療、復職・補職調整、研究、評価、援護、環境整備等、それぞれの機能の充実と整備を進める必要がある。とりわけ、次のような活動は、包括的なメンタルヘルス活動を目指す自衛隊にとって画期的なものとなり得る。
 服務指導の充実
 自衛隊における服務指導は、メンタルヘルス活動において、個々の隊員の心情やストレスを継続的に把握すると共に、職務に対する適応能力を高める役割を担うものとなるべきである。このため、次の施策を早急に実施する必要がある。
(ア)  価値観の多様化に対応するための指導要領の確立
(イ)  時代の変化に対応するための指導者のトレーニング等の実施
 カウンセリング体制の充実
 カウンセリングは、服務指導組織には相談しにくい悩みをサポートする窓口でもある。「待ち受けでなく、積極的に隊員との接触を図るカウンセリング」を実施する。カウンセリングの基本的行動基準の明示をするとともに次の点に関して強化を図る。
(ア)  家族を含むケア
(イ)  婦人自衛官のカウンセリング
(ウ)  「デブリーフィング」の導入
 メンタルヘルスセンター機能の保有
 各地域毎の地区病院等に、従来の診療機能(第二次予防)に加え、次のような第一次予防、第三次予防的機能を拡充させ、メンタルヘルスセンターとしての機能を保有させる。
第一次予防機能
(ア)  部隊に対する啓発教育、集合教育の支援
(イ)  カウンセラーに対する臨床研修の実施
(ウ)  いじめ・セクハラ、人事、医療に関する相談窓口の設置。
(エ)  地域内のメンタルヘルスに関する専門組織として、指揮官等に対する助言、指導の実施
第三次予防機能
(ア)  精神疾患患者等の復職、補職に関する調整支援
(イ)  自殺事故のアフターケアの実施
 メンタルリハビリテーション機能の新設
 本施設はメンタルヘルスセンターとの連携を図り地域ごとに設置する。機能としては次のような入院対応と部隊復帰の中間施設としての業務にあたり、居住性機能を保持する。日常的には、通常業務におけるストレス・精神科関連疾患によって業務上支障を生じた事例の一時的リハビリテーション、また有事・大規模災害時等には特殊ストレスによる障害の対応にあたる。
(ア)  デイ・ケア及び、ナイトホスピタル
(イ)  ストレス性障害者等の一時的復職調整のための入所
(ウ)  教育目的の入所
(エ)  精神科関連障害で就労に支障のある者の補職調整のための入所
(オ)  デブリーフィングの実施
(カ)  PTSD、急性ストレス障害等特殊ストレスによる障害者の後送・受け入れ
 デブリーフィングの研究・導入
 災害派遣やPKOに超因して発生するPTSDを予防するため、デブリーフィングのマニュアルを作成するとともにカウンセラーにその技能を付与する。
 自殺事故のアフターケア
 自殺防止に万全の努力をすることは当然であるが、それにも拘わらず自殺が生ずることがある。自殺事故の発生に伴い、当該の部隊や隊員等への影響に対する心理的なケアを提供するため、メンタルヘルスセンターから専門家を中心としたチームを部隊に派遺する。このチームは自殺事故の医学的、心理学的観点からの調査を実施し、波及的影響の防止に努めるとともに家族に対するケアを実施する。
 いじめ・セクハラ相談体制の整備
 指揮官が隊員の心情把握に努める一方、カウンセリング体制の強化、セクハラ相談員の適正な人選を行う。電話、インターネット等の活用や、女性のカウンセラーの配置により相談窓口の多様化を図る。また、いじめ・セクハラ問題が生じた場合は駐屯地等メンタルヘルス委員会の支援を受け被害者のフォローアップを徹底する。

 今回の提言を基礎として、自衛隊においてメンタルヘルスに関する実際的な施策を積極的、且つ継続的に具現化することにより、隊員の幸福と、自衛隊の精強化の一層の追求を願うものである。


メンタルヘルスに関する統制システムと活動

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