Ⅱ 防衛産業・技術基盤を巡る環境変化

 防衛力整備を巡る環境変化
(1)  新防衛大綱の策定に伴う防衛力整備目標の変化
 政府は、平成7年、新防衛大綱を策定し、冷戦後の防衛力整備の指針を提示した。新防衛大綱においては、専守防衛等のこれまでの基本方針を引き続き堅持するとしているほか、防衛上必要な各種の機能を備え、後方支援体制を含めてその組織及び配備において均衡のとれた態勢を保有することを主眼として、防衛力を整備することとしており、前大綱の基盤的防衛力構想を踏襲している。一方で、新大綱では、新時代に合わせて防衛力の役割を多様化させ、侵略等への対応などの我が国の防衛、災害や周辺事態等を含む大規模災害等各種の事態への対応、PKOや国際緊急援助活動などより安定した安全保障環境の構築への貢献、の3つの役割と規定して、そのための新たな自衛隊の体制・態勢を定めている。その具体的内容は、一言で言えば、量的には合理化、効率化、コンパクト化を図りつつ、質的には能力向上と必要な機能の充実に配意したものとなっている。今後、防衛産業・技術基盤の維持・育成の在り方を考えていくに当たっては、新防衛大綱に示された基幹部隊と主要装備の水準や自衛隊の体制・態勢などを新たな防衛力整備上の目標として念頭に置くことが必要である。
(2)  RMAの進展
 防衛力整備を巡るもう一つの環境変化として、ITの進展等の技術シーズ面での変化や、冷戦後の武力行使における人的損害局限化要請等の防衛ニーズ面での変化等によってRMAが生まれてきたことが挙げられる。RMAは、米国が偵察監視システムや精密誘導システム等の連携運用により湾岸戦争で大きな戦果を挙げたことで急速に注目されるようになり、現在の米国における装備の近代化の中核的な概念の一つとなっている。RMAが進展した場合、将来戦においては、多様なセンサーや情報ネットワークを活用した情報の共有化により戦場認識能力を向上、航空機、艦艇等の攻撃プラットフォーム単独の能力に加え、ネットワーク全体のシステムとしての能力が勝敗を左右、軍事力の目標達成効率の向上及び損害極限の観点から、長距離精密誘導兵器が必要不可欠、宇宙空間、電子空間までの作戦域が拡大するとともに情報処理と判断の迅速化により作戦スピードが加速、兵員の損害極限のため、装備の無人化や省人化が進展、広域分散した味方部隊の位置及び消耗状況を正確に把握することを通じて効率的な兵たん管理が可能、などの戦闘様相の変化が生じると予想される。したがって、我が国としても、国際的な軍事技術の水準や周辺諸国の軍事力の動向を十分に踏まえつつ、RMAの考え方に対応した装備の近代化を進めることが必要である。かかる装備の近代化においては、多様なセンサーを含む多重化され、防護された情報ネットワーク(注2)を基礎として、陸海空自衛隊の各種部隊が十分に分析された情報をリアルタイムで共有するとともに、米軍との相互運用性を確保し、事態の変化に柔軟かつ迅速に対応し、統合的かつ効率的に戦力を発揮し得る態勢を構築するよう留意することが必要である。とりわけ我が国の場合、専守防衛であることから、早期に侵攻を探知し、相手の動向等を正確に把握するための多様なセンサーと各種の情報分析ソフトが必要であるとともに、敵味方部隊が極めて接近したり混在したりする可能性があることから、味方部隊の位置把握及び敵味方識別能力の向上が重要である。これらの装備の近代化を進めるにあたっては、後述するように我が国のITのスピンオンが期待される。
(注2) 防護された情報ネットワーク:例えば、ファイア・ウォール、ワクチンのような電子的な措置や、電磁シールドや耐震性のある機器、建物の構造を強化することなどの物理的な措置により防護された情報ネットワークのこと。
 防衛産業を巡る環境変化
(1)  厳しい財政状況の継続と取得改革・調達改革の進展
 国の厳しい財政状況の継続に伴い、近年、防衛関係費も厳しく抑制されており、特に平成10年度以降の防衛関係費は、対前年度同額前後で推移している。さらに、防衛関係費の内訳においても、人件費などの増加が正面装備費や研究開発費を圧迫する傾向にあり、正面装備新規契約額については前中期防衛力整備計画(平成3~7年度)及び現中期防衛力整備計画(平成8~12年度)期間において、また、研究開発経費については現中期防衛力整備計画期間において、減少傾向にある(資料4参照)。
 このような正面装備費等の減少により、陸上装備品を中心として受注数量が激減しており、このため、防衛産業においては生産ラインの稼働率が低下し、製造コストが上昇するとともに、熟練技能者を含む製造技術者も大幅に減少している。また、一部の企業では、経営への影響を極力抑えるため自社の生産ラインを維持するとの観点から、従来は下請企業に発注していた仕事を減らし、内作化を進めてきている。さらに、近年における研究開発費の減少と技術の著しい高度化に伴い、個々の装備品に関する研究開発機会は少なくなっており、各企業とも将来の研究開発に備えて設計開発技術者は可能な限り温存したいと考えているものの、その維持は難しくなってきている上、企業自身の自主研究についても、厳しい経営環境を反映して大幅に抑制している状況にある。
 このような状況の中、企業によるコスト低減努力も限界に近づきつつあり、基本的に防需依存度が低い我が国防衛関係企業は、防需の動向如何では経営判断により防衛分野から撤退し、収益性の高い他の事業分野に経営資源を移転する可能性もある。
 一方で、コストの低減・抑制とそのための競争性・透明性の強化等を徹底することにより、防衛関係費の制約を緩和する努力が行われてきている。防衛庁では、平成10年に公表した取得改革に関する報告書及び平成11年に公表した「調達改革の具体的措置」等において提言された事項である、
(a)  一定の要件に当てはまる装備品等の単価の3年間で原則10%低減
(b)  民生品・民生技術の活用等のための規格・仕様書の見直し
(c)  フォローアップ事業(注3)などライフサイクルコストの低減に資する事業の推進
(d)  修理点検項目・間隔の見直し等による維持・修理コストの低減
(e)  ISO9000s(注4)の導入等による調達業務の合理化、効率化
(f)  CALS(Continuous Acquisition and Life-cycle Support)(注5)の推進や新たな供給ソースの発掘
などの着実な進展が図られている。
 このような取得改革及び調達改革の進展に合わせ、各企業とも競争力強化に向け様々な努力を行っているが、いずれにせよ仕様変更等によるコストの削減、利益率の圧縮、下請企業に対する協力要請などが求められ、防衛産業全体に大きな影響を与えている。
(注3) フォローアップ事業:開発装備品等のライフサイクルコスト低減のための施策を中心に、実用試験成果の反映、使用実績による不具合への対応、使用実績等を踏まえた改善・改良等の要望への対応を実施すること。
(注4) ISO9000s:国際標準化機構(ISO)が定めている国際的な品質管理方式で、この方式について認証を受けた企業に対しては、製品や生産工程に係る監督・検査業務を簡略化できる。
(注5) CALS:装備品の研究開発、調達、維持、修理、補給といったライフサイクルの各段階における情報をコンピュータネットワークにより共有し、ライフサイクルコスト全般を通じたコストの低減を図ること。
(2)  欧米諸国における業界再編の進展と技術情報の非開示化等による輸出圧力の高まり
 冷戦終了後、米国や欧州において軍事費の抑制又は削減傾向が現れた結果、大規模な企業合併・買収により防衛産業の再編・統合が進展し、最近では大陸をまたがる再編・統合も検討されるに至っている。我が国においても、分野に応じ、企業集約は進んでいるものの、欧米の防衛関連企業は大幅に事業戦略の見直しを図っており、また、欧米諸国は我が国に比べて防衛技術研究開発を活発に行っていることから、最先端技術による装備品を相対的に安価な量産価格で供給することができ、国際的な競争力を更に増大させてきている。
 さらに、従来はライセンス国産による技術移転に寛容であった欧米諸国は、昭和50年代以降、最先端技術については原則として非開示情報とし、最近は、ワークシェアの観点から、部品輸入を求めるケースまで出始めており、我が国に対する売り込み圧力を高めている。
 防衛技術を巡る環境変化
(1)  IT革命を中心とした技術革新に伴う変化
 我が国において、情報・通信・電子産業等のいわゆるIT関連産業が経済成長や産業発展を牽引するにしたがい、これらの分野を中心に技術研究開発投資は増加し、民生技術は広範に進展していくものと予想される。これに伴って、IT関連民生技術の防衛装備品への技術波及(スピンオン)も拡大し、特に、C4ISR能力(注6)の向上、センサー能力の向上、高知能化・スマート化、ネットワーク化・統合化等について、スピンオンの増加が予想される。さらに、こうしたスピンオンの増加により、これらの技術の防衛分野への適用コストが低下し、その活用が一層容易になると考えられる。また、今後の装備の近代化に伴って防衛技術研究開発におけるIT分野の比重も高まり、逆に防衛技術から民生技術への技術波及(スピンオフ)も増加すると予想され、かかる技術の汎用化に伴ってIT分野を中心にスピンオフとスピンオンの好循環が生まれる可能性がある。
 一方で、こうした装備品のIT化やITの汎用化の進み具合は、装備品の各分野毎に一律ではなく、その影響は各分野毎に違ってくる可能性もある。例えば、IT付加価値部分の大きい装備品は、ITの汎用化が進めば価格低下の要素があるが、他方で、高性能化を追求する場合には装備品の価格上昇の要素もある。このように、IT革命の進展に伴う装備品のIT化やITの汎用化により、どのような影響が防衛産業・技術基盤の全体あるいは各分野毎に具体的に生じるかについては、今後とも注視していく必要があるが、いずれにせよ、RMAの進展とも相まって、装備品のIT化やITの汎用化の傾向は、全般的に進むと考えられる。
(注6) C4ISR能力:指揮(Command)、統制(Control)、通信(Communication)、コンピュータ(Computer)、情報(Intelligence)、監視(Surveillance)、偵察(Reconnaissance)に関連した能力。
(2)  日米間の相互運用性確保の重要性と日米共同研究開発の進展
 米国においては、湾岸戦争や近年のボスニア、ユーゴ空爆作戦等の後、NATO諸国をはじめとする同盟国との間で米国の最新装備品との相互運用性を確保することが難しく、同盟国との共同作戦を必ずしも円滑に遂行できなかったとの声が高まった。これを踏まえ、米国は、近年、NATO諸国のみならず我が国に対しても、米軍との間で更なる相互運用性の確保を図るよう機会あるごとに求めてきている。また、我が国としても、平成8年の日米安保共同宣言等を踏まえ、アジア太平洋地域の平和と安定の維持に積極的に貢献するため、日本有事のみならず周辺事態においても、自衛隊と米軍との間で広範な協力が行えるようにするための努力を行っている。したがって、自衛隊と米軍の装備体系の間で今後一層の相互運用性を追求していくことが必要とされている。
 さらに、日米間の装備・技術面での幅広い相互交流を充実することにより日米安保体制の効果的運用に資することを目的として、昭和58年に締結された対米武器技術供与取極の枠組みの下、これまでにF-2の開発や弾道ミサイル防衛技術の研究等を含め10件にのぼる日米共同研究開発・改修プロジェクトが実施されてきており、この分野における日米協力は拡大基調にある(資料5参照)。また、これらの共同プロジェクトの実施を通じて、我が国は米側から多くの技術を学ぶ一方、反面で多くの教訓も得たところである。具体的には、一方が経費を全額負担する場合には他方にコスト削減インセンティブ(動機)を与えることは難しいこと、ワークシェアの比率を予め固定することは、コスト意識を低下させる懸念を生じさせる可能性があること、相手国の最先端技術を共同研究開発に十分活用できるようにするとともに、より広範な技術使用を可能とするためには、バーゲニングパワーとしての自己技術の蓄積が必要であること、プロジェクトが長期化する場合には一部技術が陳腐化する可能性があること、出来る限り早い段階から共同作業を行うことが望ましいことなどである。
 これらの点を踏まえれば、日米共同研究開発については、日米間の相互運用性の確保を含む日米安保体制の効果的運用や両国の防衛技術の更なる発展に役立つことを基本とし、今後、これまでに共同プロジェクトの実施を通じて得られた様々な教訓も念頭に置きつつ、推進していくことが重要である。

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