I 我が国防衛産業・技術基盤の特色及び位置付け

 我が国防衛産業・技術基盤の特色
 我が国の防衛産業の特色は、主として以下に示す点に集約され、これらは様々な側面からその維持・発展の方向を規定する要因ともなっている。特に、は、他の主要先進国にはあまり見られない我が国固有の要因である。
 いわゆる防衛産業とは、単に、最終需要者が防衛庁に限定されている産業の総称で、その実態は広範多岐にわたる産業分野の集合体であり、従って状況は業種毎に異なっている。武器・弾薬のように製品の大部分が防衛庁向けである産業から、通信電子機器のように防衛庁向け製品の全生産額に占める割合が1%未満の産業までを包含している。このように、産業分野毎の防需依存度に相当ばらつきがあるものの、全体として見た場合、我が国の総工業生産額に占める割合は0.6%程度に過ぎない。
 主要な防衛装備品については、防衛庁からの受注に基づく多品種少量生産であり、多くの品種に対応した生産ラインを維持する必要があることから、量産効果は基本的には望めない。
 防衛庁と直接契約を結ぶ企業数は、医療品・糧食の納入業者まで含めて1,500社程度であるが、その下に広範多重の下請中小企業群を擁している。例えば、戦車、護衛艦、戦闘機の場合、1,000社を超える企業がその生産に参加しており、そのうちの約7~8割が中小企業である。
 武器輸出三原則等により、原則として武器輸出を行っていないため、市場が国内防衛需要に限定されている。このため、量産効果が一層期待できない上、厳しい財政状況の影響を直接受けることとなる。また、この結果、諸外国の装備品と比較して一般的に調達価格が相対的に高価となる傾向がある。
 防衛関連企業の民間部門との兼業の比率が相対的に高く、例えば、世界上位10社(全て欧米企業)の防需依存度が4割強であるのに対し、我が国上位10社の防需依存度は5%弱に過ぎない(資料1参照)。さらに、銃砲、戦闘車両、艦艇、航空機、誘導武器等の主要装備品については、分野毎に1~4社/グループに企業集約が進んでいるが、一企業の撤退が我が国における防衛産業・技術基盤の欠落に直結する分野もある。防衛分野では、特殊な技術と設備が必要であるため、一度その基盤を喪失すると回復には長い年月と多くの費用を要する。
 我が国は、戦後、工廠を廃止し、防衛技術研究開発における試作品の製造は全て民間企業に委託されていることから、民間企業が生産基盤と技術基盤の両方を担っており、技術基盤の維持と生産基盤の維持は連携して考える必要がある。
 我が国防衛産業・技術基盤の位置付け
 我が国の防衛産業・技術基盤の位置付けについては、以下のとおり、防衛及び産業の2つの側面から考える必要がある。
(1)  防衛上の位置付け
 我が国は、防衛上、以下の能力などを平素から保持しておく必要があるとして、競争原理を確保しつつ、装備品の自主的な開発及び国産に努めているところである。
(a)  我が国の国土の特性(四面環海、国土狭隘、道路事情等)、国情(専守防衛等)などに適した運用構想及び要求性能を有する装備品(例えば、戦闘車両、艦艇、航空機、誘導武器等)を供給することができる技術・生産能力
(b)  輸入した場合には運用上の機密保持が難しいようなものなど国産でなければ支障が生じるような装備品(例えば、指揮・通信システムの暗号ソフト等)を供給することができる技術・生産能力
(c)  保有する防衛能力を最大限に発揮するために必要な維持・修理・補給能力
(d)  有事に最も消耗する弾薬等を中心とした装備品の緊急時における急速取得のための能力
(e)  各国の国防上の理由により国外からの入手が困難な技術(例えば、情報分析ソフト等)
(f)  欧米諸国が最先端技術の移転に対して慎重になってきている状況の中、外国の装備品を導入する際、一般に同盟国に対しても運用中の最新装備品を輸出したがらない外国から、可能な限り最新のものを安価に購入で、開示されるようにするため、防衛生産・技術基盤の維持・育成によって得られるバーゲニングパワー(交渉力)
(g)  防衛生産・技術基盤を維持することによって生じる、必要な場合には防衛力を自らの意思で強化できるという潜在的な防衛力としての抑止効果
 そのためには、単に一般的な工業力だけでは不十分であり、それを防衛装備品に転化する能力、すなわち、防衛産業・技術基盤が必要である。
 なお、工業力の十分発達した他の先進国においても、我が国と同様、装備品の自主的な開発及び国産に努めているところである。
(2)  産業上の位置付け
 我が国においては、戦後、工廠を廃止したことに加え、大学その他の研究機関での防衛装備品に係る研究開発は実態として行われておらず、基礎研究等において、一部、汎用技術の研究が行われているに過ぎない。このため、技本における研究基盤を除き、防衛技術は防衛産業に蓄積されていると言っても過言ではない。さらに、防衛技術のうち加工応用・組立技術的な面が強い技術については、主として企業の中で蓄積、継承されていき、生産活動と切り離しては長期的には存続し得ない。したがって、防衛産業基盤の維持は、防衛技術の維持の面からも重要である。
 防衛技術については、防衛装備品が過酷な環境下での運用に耐えなければならないこと、また、常に想定されるいかなる相手の能力をも上回ることが求められていることなどの理由により、最先端技術を広範に含んでいることが多い。このため、防衛技術の民生転用(スピンオフ)は多く、また、その逆に民生技術が防衛装備品に取り入れられること(スピンオン)も増えており、防衛技術は、民生技術との間の相互連関性及び相乗効果によってダイナミックな循環を生み出し、民生分野の活性化を促して、我が国全体の技術水準の向上に大きく貢献している(資料2参照)。例えば、ディスクブレーキ、コンピュータ、インターネット、カーナビゲーション、暗視カメラ、ミリ波、高分解能地上観測衛星、一部のIT関連技術などは元々防衛技術から生まれている。また、防衛産業の中核であって最先端技術の研究開発を行う航空機産業からの技術波及による生産誘発額(当該産業で生み出された技術が他産業に移転され、新製品が創り出されるなど、他産業の活性化を誘発し、その生産額を押し上げる効果)は、自動車産業からの同生産誘発額の約3倍にも達するとの推計がある(資料3参照)。
 このように、最先端技術を研究開発し、防衛技術基盤を維持・育成することは、防衛上の観点に加え、産業全般の観点からも意義が大きい。

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