「平成8年度以降に係る防衛計画の大綱」の決定について
防衛庁長官談話
平成7年11月28日
 はじめに
 本日、安全保障会議及び閣議において、「平成8年度以降に係る防衛計画の大綱」が決定されました。これは、昭和51年にいわゆる「基盤的防衛力構想」を取り入れて策定された「昭和52年度以降に係る防衛計画の大綱」に代わるものであります。今後はこれを受けまして、平成8年度以降の中期的な防衛力整備計画の策定作業が進められることになります。
 新「防衛大綱」の策定に至る背景
(1) 前「大綱」の意義

 昭和51年に策定された前「大綱」は、米ソを中心とする東西関係における対立要因や各地域における不安定要因が存在している一方、大国間の軍事的な均衡や各般の安定化努力により、安定的な国際関係が維持されるとの国際情勢認識に立ち、また、日米安全保障体制の存在が国際関係の安定維持等に大きな役割を果たし続けるとの判断の下、特定の脅威に対抗するのではなく、国家間の地域的な安定均衡を前提として、整備すべき防衛力の目標ないしは水準を明示したものでした。

(2) 我が国を取り巻く環境の変化

 政府としては、この前「大綱」に示された基本的な考え方の下、効率的で節度ある防衛力の整備に努めてきたところでありますが、前「大綱」策定後、既に約20年が経過しており、その間、我が国を取り巻く環境も、前「大綱」策定当時とは変化してきております。
 すなわち、国際情勢について見れば、これまでの国際軍事情勢の基調をなしてきた圧倒的な軍事力を背景とする東西間の軍事的対峙の構造が消滅し、世界的な規模の武力紛争が生起する可能性は遠のきました。また、我が国周辺諸国の部において軍事力の削減や軍事態勢の変化がみられる一方、地域紛争の発生や大量破壊兵器の拡散等安全保障上考慮すべき事態が多様化しております。こうした状況の中で、二国間対話の拡大、地域的な安全保障への取組等、国家間の協調関係を深め、地域の安定を図ろうする種々の動きがみられます。
 次に国内の状況を見ますと、近年科学技術が著しい進歩を遂げていること、今後一層若年人口の減少が見込まれること、経済財政事情が格段に厳しさを増していること等の変化もみられます。
 具体的に、自衛隊の役割について言えば、その主たる任務である我が国の防衛に加えて、近年、新たな分野における役割に対して期待が高まってきております。まず、平成4年の国際平和協力法の制定以来、自衛隊はこれまでカンボディア、モザンビーク及びザイール等における国際平和協力業務を実施し、国際的にも高い評価を受けてきました。また、本年1月の阪神・淡路大震災や3月の地下鉄サリン事件における活動等により、自衛隊が国民の生命と財産を守る存在であることが改めて広く認識されてきているところであります。こうした自衛隊の諸活動の実績を背景として、大規模な災害等各種の事態への対応や国際平和協力業務の実施等を通じたより安定した安全保障環境の構築への貢献という分野における自衛隊の役割に対する期待が高まってきているところであります。
 これらの変化は、我が国としても、大規模災害等各種の事態への対応やより安定した安全保障環境の構築への貢献に積極的に取り組んでいく必要が生じてきていることを意味しております。すなわち、束西問の軍事的対峙の構造が国際軍事情勢の基調をなしていた時代においては、「外国の侵略」に対する「防衛」や「抑止」の役割に焦点が置かれていたため、防衛力の整備を着実に進めることが中心的な課題であったと言えましょう。これに対し、冷戦終結後の今日においては、国際的な協力を推進し、国際関係の一層の安定化を図るため、各般の働きかけが重視されている一方、大量破壊兵器の拡散、大規模な自然災害・テロリズムによって引き起こされた特殊な災害等種々の事態に対し、いかに効果的に対応するかということが重要になってきております。こうした国内外の変化や我が国が国際社会に置かれている立場を考慮すれば、我が国としても、各種の施策を総合的かつ積極的に推進することが求められてきているところであります。

(3) 策定の経過

 こうした国際情勢の動向や自衛隊の役割に対する期待の変化等を踏まえ、防衛庁としては、昨年来、庁内に「防衛力の在り方検討会議」を設け、所要の検討を行ってきたところでありますが、本年6月より安全保障会議の場において.今後の我が国の防衛力の在り方について総合的な観点から精力的な検討が行われてきたところであります。こうした議論を経て、本日、前「大綱」に代わる新たな指針が決定されたわけであります。

 新「防衛大綱」における基本的考え方
 新「防衛大綱」において示された防衛力に関する基本的考え方のポイントは、次のようなものであります。
(1) 「基盤的防衛力構想」を基本的に踏襲

 前「大綱」においては、防衛力整備の基本的考え方として、我が国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、自らが力の空白となって我が国周辺地域における不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の基盤的な防衛力を保有するという「基盤的防衛力構想」を取り入れておりました。そして、我が国が保有する防衛力については、防衛上必要な各種の機能を備え、その組織及び配備において均衡のとれた態勢を保有することを主眼として、我が国が置かれている戦略環境、地理的特性等を踏まえて、その具体的な規模を導き出しておりました。
 このような基盤的な防衛力を保有するという考え方については、新「防衛大綱」においても、国際関係の安定化を図るための各般の努力が継続し、日米安全保障体制が我が国の安全及び周辺地域の平和と安定にとり引き続き重要な役割を果たし続けるとの認識に立って、今後とも基本的に踏襲していくということとしております。
 なお、前「大綱」においては、我が国が保有すべき防衛力について、東西間の軍事的な対峙の構造の下で、我が国に対する侵略を未然防止(抑止)するという観点から限定的かつ小規模な侵略までの事態に有効に対処し得るもの(あるいは原則として独力で対処し得るもの)と表現してきたところであります。しかしながら、冷戦の終結により束西間の軍事的な対峙の構造が消滅し、国際情勢が不透明・不確実な要素をはらむ一方、国際関係の安定化のための一層の努力が進められております。このような中で、防衛力の役割としては、自らが力の空白となって、地域の不安定要因にならないことに加え、日米安全保障体制と相まって、より安定した安全保障環境の構築に向け、適時適切にその役割を担うベく我が国としても積極的な取組が求められております。こうした観点を踏まえれば、我が国の姿勢として、限定小規模侵略原則独力対処という考え方を強調することは適当ではないと考え、新「防衛大綱」においてはかかる表現は踏襲しないこととしたものであります。

(2) 日米安全保障体制の信頼性の向上

 新「防衛大綱」における基本的考え方のもう一つの特徴は、日米安全保障体制の重要性を再確認していることであります。
 日米間においては、前「大綱」策定後の昭和53年に「日米防衛協力のための指針」が作成され、以後、幅広いレベルでの意見の交換、共同研究や共同訓練等の実施、装備・技術面での相互交流及び在日米軍駐留支援等さまざまな分野において逐次協力関係が進展してまいりました。
 冷戦後の国際社会においては、国際情勢の変化、それに伴う国際的な課題の変化、そしてその解決に向けた国際社会の積極的な取組を背景として、日米安全保障体制が地域の平和と安定及びより安定した安全保障環境の構築の面で果たす役割について再認識されるようになってきております。このような認識の下、これまでの日米防衛協力の成果を再確認しつつ、将来に向けての日米安全保障体制の意義及びその信頼性の向上を図りこれを有効に機能させていくための具体的な取組の重要性について、この新「防衛大綱」において整理して述べているところであります。

(3) 今後の防衛力が果たすべき役割

 今後防衛力が果たすべき役割について、新「防衛大綱」は、自衛隊の主たる任務である「我が国の防衛」に加え、「大規模災害等各種の事態への対応」及び「より安定した安全保障環境の構築への貢献」を主要な柱として掲げており、ここに新しい防衛力の構想を示しているところであります。これは、阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件を契機として大規模災害等の事態における自衛隊の活動について期待が高まっていること、また、近年、自衛隊による国際平和協力業務の実施が相次ぎ、その実績が高く評価きれていること等を反映したものであります。
 大規模災害等各種の事態への対応については、まず、大規模災害等への対応として、関係機関との緊密な協力の下、適時適切に災害救援等の行動を実施するとともに、我が国の平和と安全に重要な影響を与えるような事態が発生牛した場合には、憲法及び関係法令に従い、適切に対応していく旨述べております。
 より安定した安全保障環境の構築への貢献という観点からは、国際平和協力業務や安全保障対話・防衛交流の推進、軍備管理・軍縮分野における諸活動への協力を進めていくこととしております。
 国際平和協力業務については、カンボディア、モザンビーク及びザイール等に引き続き.来年2月からはゴラン高原における国際平和協力業務の実施を計画しているところであります。
 また、安全保障対話や防衛交流の推進については、各国がその保有する軍事力及び国防政策の透明性を高め、相互の信頼関係を深めることにより、無用な軍備増強や不測の事態における危機の拡大を抑えていくことが重要であるとの観点から、国防担当大臣レベルでの協議も含め様々なレベルで国際情勢や双力の国防政策について意見交換を行うなど交流を深めていきたいと考えております。ちなみに、新「防衛大綱」においても、従来と同様、将来にわたり我が国が保有する防衛力の水準を具体的に明示していますが、これは防衛政策の透明性を高め、これに対する理解を深める上で重要な役割を果たしてきていると認識しており、我が国周辺地域における透明性と関係諸国間の信頼関係を高めるためのつのモデルともなり得るものと考えております。
 更に軍備管理・軍縮分野における諸活動への協力については、これを促進するため、今国会で「国際機関等に派遣される防衛庁の職員の処遇等に関する法律」が成立したところであり、まず、化学兵器禁止機関への自衛官の派遣を検討しているところであります。

 我が国が保有すべき防衛力

(1) 基本方針

 新「防衛大綱」においては、かかる基木的考え方を踏まえて、現行の防衛力の規模及び機能について見直しを行い、我が国が保有すべき防衛力の内容を明示しております。この新「防衛大綱」に示された方針の下、所要の防衛力整備に努めてまいりますが、今後の防衛力は以下の要件を満たすべきであると考えております。
 第一に、規模についてはコンパクトなものを目指すということであります。近年における科学技術の進歩.若年人口の減少傾向、経済財政事情の厳しさ等にも配意しつつ、適切な規模の防衛力を保有していくということであります。
 第二に、質的には充実し、多様な事態に有効に対応し得る防衛力を追求しなければならないということであります。このため.装備のハィテク化・近代化を図っていくとともに、情報・指揮通信、警戒監視機能等の充実・強化を図っていく必要があると考えております。
 第三に、事態の推移に円滑に対応し得る弾力性を確保し得るものでなけれはならないということであうます。そのためには、その養成及び取得に長期間を要する要員及び装備を、教育訓練部門等において保持したり、即応性の高い予備自衛官制度を確保することにより、事態の推移に対しても円滑に対応できるようにしておくことが重要であると考えております。

(2) 新体制への円滑な移行

 新「防衛大綱」における陸・海・空自衛隊の将来体制は、こうした考え方の下に、国際情勢の変化等を踏まえ、任務の見直し、態勢の緩和等の観点から、各種の要素を総合的に勘案し、現在の防衛力を見直して導き出したものであります。その具体的な規模は別表に掲げておりますが、この新しい体制は、現在の体制から大きく転換するものと認識しております。したがって、この体制への移行に当たりましては、財政上の制約、隊員の士気への影響、部隊の練度等の急激な低下の防止、地元への影響、防衛生産・技術基盤への影響等について配意する必要があります。これらの考慮要因を踏まえつつ、ある程度の期間をかけて.計画的かつ段階的にこの新たな体制に移行してまいりたいと考えております。具体的な移行計画につきましては今後検討される中期的な防衛力整備計画において決定してまいりたいと考えております。

 今後の防衛政策への取組
 今後、この新たな「大綱」を指針として、我が国の防衛を全うするとともに、国際社会の平和と安定に資するよう、積極的に防衛政策を推進してまいりたいと考えておりますが、その中で、特に努力を傾注していかなければならない喫緊の課題としては、次のようなものがあると考えております。
 まず防衛力整備につきましては、前「大綱」の下、量的には抑制されてはいるものの、防衛上必要な各種の機能を備えた防衛力が着実に整備されてきたものと評価しております。今後とも、正面装備につきましては、コンパクト化が図られる中で、軍事技術の水準の動向に対応し得るよう、質の高いものの整備に努めてまいりたいと考えております。また、後方分野につきましては、防衛力全体として均衡がとれた態勢の維持、整備を図るため、隊員の生活環境、情報・指揮通信等の各種支援機能、技術研究開発等についても、引き続きその充実に努める必要があると考えております。
 次に、大規模災害への対応については、本年1月の阪神・淡路大震災における教訓等を踏まえ、各種の措置がとられているところでありますが、我が国の平和と安全に重要な影響が生じる場合を含む各種の事態における政府全体としての危機管理体制や関係諸機関との協力体制について、与党において法制面を含む検討の必要性が議論されていると承知しており、今後、引き続き十分な検討を重ね、その充実・強化を図っていく必要があると考えております。
 更に日米安全保障体制については、その信頼性の向上を図っていくことの重要性を再確認しているところであります。今回の新「防衛大綱」の策定、この四十数年間の日米安全保障体制の発展状況等を踏まえ、日米安全保障体制の円滑かつ効果的な運用を図るための各種の施策の実施に努めてまいりたいと考えております。
 おわりに
 私は、国の防衛は、国家の基本的な施策であるとともに、まさに、国民一人ひとりによって支えられているものであり、自衛隊の平素の活動も国民や社会の支援なくしては成り立たないと考えております。新「防衛大綱」は、冷戦終結後、21世紀に向けての我が国の防衛力の在り方を示すものであり、また、我が国周辺各国に対する我が国防衛政策に関するメッセージとなるべきものであります。この新「防衛大綱」により、我が国国民各位に加えて、周辺各国の我が国防衛政策に対する理解が深まり、もって、より安定した安全保障環境の構築に役立つことを願ってやみません。防衛庁としては、この新「防衛大綱」の下、我が国の安全を確保し、国際社会の平和と安定に資するため、国民各位の理解を得つつ、その期待と信頼に応え得るよう自衛隊の運営に努め、積極的に防衛政策を推進してまいる所存であります。国民の皆様におかれましても、御理解と御協力を切に希望する次第であります。

ページの先頭へ戻る